AWC EARTH 《前編》         ■ 榊 ■


        
#443/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HHF     )  87/10/28  19:27  (200)
EARTH 《前編》         ■ 榊 ■
★内容
    ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

              《EARTH》
                                            by 榊

    ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



ACT.

「お父さん、お母さん、ごめんなさい!!」
都内のある十階建てのビルの屋上。
その日は風が吹き、月は満ち、少し寒い。
加えて、13日の金曜日、仏滅。
屋上に一人で立てば、おもわず飛び降りてみたくしたくなるような日だった。
「「P.M.10時32分。
18才の少女が、大人に対して疑問を抱き、自殺に走った。
いわゆる、ピーターパン症候群の末期症状である。
飛び降りたその屋上には、一人の男が残っていた。
黒い布をはおった美青年。
格好もふいんきも死神そのもののその男は少し沈んだ顔をして、こう呟いた。
「あーあ、本当に落ちちゃった…………」

一方、その落ちている少女「「「「「
自殺する人は大体、流れにまかせて飛び降りてしまうが、その後で大方の人が後悔するものである。
そして、この少女も例外ではなかった。
「きゃ「! 落ちてる「「「!!」
あたりまえだ!

そして、そのビルの下にも男がいた。
白いボロボロのトレーナーの上下を着、顔には少々不精髭をはやしているが、多分20才ぐらいだろう。
男は足を少し広げ、手を延ばし、目をつぶって秒読みを開始した。
「..3..2..1..0!!」
少女が落ちてきた。

男は相当あるはずの衝撃をものともせず、落ちてきた少女をひんやりと冷たいアスファルトの上に寝かせた。
都内とはいえ、10時過ぎの住宅街のため、車も人も通る様子はなかった。
寝ぼけて道路で寝てしまったかのように気絶している少女を男は起こそうとした。
「ちょっと。大丈夫ですか? 起きて下さい!」
しかし、少女はぴくりとも動かなかった。
意識はもう戻っているのだか、どんな事があろうと、十階から落ちた場合まず助からない事を知っている少女は、自分は既に死んでいると錯覚していたのである。
しかし、どういうわけだか、彼女は傷一つ負わず助かっているのである。
彼女は心の中で、こう言っていた。
「「うるさいわねー。あたしは死んでるのよ! 起きれるわけないじゃない!
生きてるっつーの。
男はしょうがないという顔をし、少女の頬をぎゅっとつねった。
これには少女も反応した。
少女は体をがばっと起こし、男の頬をおもっきり張り倒す。
「ちょっと! 痛いじゃないの! の! の、の、の?」
少女は言っているうちに自分の矛盾に気が付いた。
男は頬をさすりながら、力のない笑いをした。
少女は、しばらく黙って考えていたが、頭が混乱するだけで、現状を把握することができなかった。
すると人間というものは、すぐに責任を転嫁してしまう所がある。
彼女の場合、意を決して自殺したのに、助けられてしまったことが妙に腹立たしくなった。
そして、男の方をきっとにらみ、叫んだ。
「どうして助けたのよ!」
男は一瞬、迷ったような顔をしたが、やがて優しく微笑んだ。
「そりぁー、そうです。だって僕、」
そして、自分で自分を指さす。
「天使ですから。」
二十歳ぐらいの不精髭をはやした天使。
笑ってやって下さい。

ACT.

だが、助かるわけがないと思っていた彼女は、それを冗談とは思わなかった。
「「やっぱり死んだんだ。
死んでないっつーの。
「それじゃあ、天国に連れて行って下さるのね?」
「は?」
「じゃあ、地獄ぅー?!」
天使はしばし沈黙した。
そして、何か気づいたように手をぽんとならす。
「御心配なく、あなたはまだ生きてますよ。」
天使はにっこり微笑んでみせる。
「じゃあ、なぜ天使が………」
「天使の仕事は、人の命を助けることで、人の魂を持っていく事でないんです。人を殺し、魂を持って行くのは、死神の役目。お間違えなく」
少女は、屋上にいた黒マントの男を思いだし、上を指さした。
「あの………黒マント?」
「えっ、死神にあったんですか?」
それを聞いて、少女は驚いた。
「えー! あの時代錯誤男が死神ぃ「「「?!」
住宅街に、おもいっきりこけた音が響く。
天使は思わず吹き出した。
しばらく笑うと、今度は必死に笑いをかみ殺し、元の優しい笑顔となった。
「ともかく、私の仕事はあなたの命を守ること。まことに勝手なことと解ってるんだけど、どうにか自殺しないでくれませんか?」
天使はいかにもすまなそうな顔で、拝んだ。
少女は、くすっと笑った。
今まで、話しかけられることすら、あまりなかったのに、この人は赤の他人である私に、いかにもすまなそうに謝ってくれる。
少女はなんとなく天使というものを信じることにした。
「いいわ」
「本当ですか?!」
少女はうなずいた。
「そりゃあ、よかった」
天使は安心した顔をして、立ち上がった。
少女もそれに続いて立ち上がり、スカートのほこりをはらう。
「それじゃあ、私は次の仕事がありますので…………」
といって、一礼すると、遠くに車の通る通りに向かう道の方に走って行った。
2・3度振り返って手を振ってくる。
少女もそれに答えて手を振り返した。
そして、天使の姿が見えなくなり、街路地はまたもとの静けさに戻った。
少女の近くの街灯の灯が、少女を照らし、長い影を落とした。
一陣の風が吹くと、彼女は体を震わせた。
「さむ」
彼女は大きく背伸びをして、天使の行った道と逆の方向に歩き出した。
「もお、かーえろっと」
彼女は暗い道を歩いた。
時々遠くから車のクラクションの音がする以外ほとんど音はしなかった。
彼女は帰路につく間、ずっと考えていた。
「「自殺はしない事に決めたけど、これから何を頼りに生きていけばいいんだろう………考えてみると、問題はなんら解決していなかった。
裏切り、矛盾、上下関係、友情、学業、はたまた自然破壊などの人類の犯している過ち。「「確かに自殺は恐かったし、できたらもうやりたくない。
「「でもなんのために、こんなに苦しんでまで生きるの?
少女は、寂しげな表情で、道路にあった小石を蹴った。
暗い小道に小石が転がった。
からん、からんと音を立てて、黒い服を着た男の前で止まる。
少女は小石をから視線をあげて男を見た。
黒い布をはおった美青年。口元に笑いを含めてはいるが、まだ幼さを残した顔。
それは、まさに屋上にいた死神だった。
「どうも」
死神が静かな声で挨拶をした。
少女の顔がこわばる。
そして、細い喉からあらん限りの叫び声をあげた。
「時代錯誤男!」
死神は倒れ伏した。

ACT.

「あのー、すみませんでした。」
少女は、鼻の頭にバンソーコーをはり、ふてくされている死神に謝った。
「ちょっと」
といって、死神が手招きをした。
「?」
少女は近寄って行った。
すると、死神はぽんと額のまん中の辺りを人差指で突いた。
少女の動きが止まる。
「意志操作」
死神はそう呟くと、立ち上がり、放心状態の少女の周りをゆっくり歩き始めた。
さっきの事はもうあきらめ、仕事の方に移ったようだ。
死神はまだふてくされた顔をしていたが、少女に対して質問をした。
「質問します。どうして、自殺を止めたのですか。」
少女は、虚ろながらも結構ハッキリした口調で話し始めた。
「途中で………やっぱり、後悔………したんです………それに………天使に……頼まれて………思ったんです………」
死神は止まって、少女の方を向いた。
「何を?」
少女は、視線を動かさず、口だけを動かす。
「他にも……心配してくれる………人が、いるんじゃ………ないかなって……」
「もし、いなかったら?」
「……………」
わずかに、少女の顔がこわばる。
「あなたの悩んでいたところはそこじゃあないですか? 裏切り、矛盾」
少女の瞳から涙がこぼれ、頬をつたって、道路に落ちた。
自殺する直接の原因となった友達が陰で悪口を言っていた場面が、少女の脳裏をよぎる。「人間なんて、そんなもんです」
死神は少女の手を取り、立ち上がらせた。
そして、片手を胸の辺りに出し、くるりと回す。
すると、その手の中から、長く細い剣が出てきた。
死神は、闇夜に銀色に光る剣を少女に渡した。
「無理して生きる事なんて、しなくていいんです」
少女はじっと、その剣を見た。
そして、その切っ先を喉もとに突きつける。
何も見ていない視線は、死に対する恐怖をみじんも見せてはいなかった。
死ぬ恐怖さえなければ、彼女はまだ死にたかったのだ。
その時、言っていることとは裏腹に、死神は悲しげな顔をした。
そして死神は、まるでその死ぬ場面を見ないように、うなだれる。
そして、少女の手に力が入り、剣が喉を突き抜けた。

ACT.

「自殺しないって言ったのに………」
少女のすぐ近くで天使のぼやく声が聞こえた。
少女は目を開けた。
すぐ目の前に、あの不精髭の優しい顔をした天使が立っていた。
少女は、一瞬喜んだが、すぐにうなだれてしまった。
「すいません………でも、もう………」
「安心して。まだ、生きてるよ」
少女はぱっと顔をあげ、驚いた顔をした。
「えっ、でも、剣が…………」
と言うと、天使がその剣の先を指でなぞっていった。
それにつられて視線を動かすと、剣の先は全然違う、右の方を向いた、そして、その先には、あの死神の布がかかっていた。
「方向を変えたんです。代わりに死神に消滅してもらったけどね」
少女の顔が一瞬、喜びに変わるが、すぐにまた寂しげな表情になった。
天使はやさしげな微笑みを浮かべ、少女の頭を優しく撫でた。
「解ってます。生きててく自信がないんでしょ?」
少女はこくんとうなずいた。
天使はしょうがないと言う顔をして、一つ大きくため息をついた。
「じゃあ、ちょっと旅行でもする? 自分の悩みを解消するために。生きていく自信をつ



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