#381/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (YHB ) 87/10/ 9 23:44 ( 44)
リレーB>第12回 ファースト・バトル COTTEN
★内容
僕は妄想を振り切り、ババさんの幻影に向かって剣をふりだした。幻は消え醜悪な
生物を僕は目の当たりにする。奴等はいともたやすくその場から消滅した。
−−後ろ?
その瞬間、後頭部に衝撃を感じて足元が崩れる。殺られる。そんな考えが頭を
駆け抜け背中からおぞましいうめき声を聞く。かろうじて振り向くとパームの剣が奴の
腹を切り裂いていた。まず、一人。赤い液体が遠慮なく吹き出し、その一滴が僕の頬に
とんだ。腐臭がした。どす黒い傷の隙間から臓物らしき物が、微かにうごめいている。
僕は吐き気を催し、その場にうずくまった。
頭上を光が走り。僕に襲いかかった怪物は間の抜けた声を発し、目(?)を隠して
閃光を避ける。ジャンさんの懐中電灯だ。体勢を崩した所をパームが背中から一気に
切りつける。鈍い叫びをあげて奴は倒れた。二人目。懐中電灯を投げ出したジャンさん
が素早く剣を取ると、パームの後ろから飛びかかった怪物に一撃。そして、三人。
かすみゆく視界の片隅で二人の活劇を眺めながら、静かに波うつ鼓動を聴いていた。
後頭部を鈍痛が断続的に襲う。視界が、意識が揺らぐ。霞んで消えそうになる。存在
すらも危うい。意識がスッと消えかかった時パームの罵声がとんだ。
「アンタいったい何やってんのよ! それでも『選ばれし者』のつもりっ?! 」
見るとパームは奴にむかって剣を振り回している。奴等は先程のスローモーからは
想像できない素早い動きで僕等を取り巻いていた。奴は剣を避けながら素早く
パームの回りを飛び、隙を狙ってはじわじわと自慢の爪で彼(?)の体を
傷つけていく。また一匹が同様にジャンさんを狙っている。残り三人。あと一匹は?
不気味な羽音。僕は剣を握りなおした。傷がうずく。波うっている。静かな断続音と
混沌。鋭く響く。インスピレーション。僕は心のままに剣をふった。
鈍い手ごたえ。それはあまりにもリアルで僕は我を失いそうになる。
あと二人。
奴等は状況の不利を見てとったか戦術をかえた。真中に追い詰める様にして僕等の
回りを飛び出したのだ。
速い。明らかに先ほどより何倍も速い。深く息をして、奴等の動きを注視する。
目が奴等の姿を捉える。僕は恐ろしい程冷静になっている自分に気づきみぶるいした。
金属音が断続的に続く。ジャンさん達の剣と奴等の爪がぶつかりあう音だ。奴等は
徐々に半径を狭め眼前にせまる。
不意に頬に鋭い傷みを感じた。ダラリと流れる生臭い血の臭い。僕は既に奴等の
動きを完全に掌握していた。頭痛、霞む視界。しかし、見えざる視線は確実に奴等を
とらえていた。激しく剣にぶつかる力を満身のそれで跳ね返す。霧の様に掴み
どころのなかった「賢者の剣」を少しずつ姿を表しつつあるようだった。剣の発する
パルスを感じながら目を閉じる。パルスは体を駆け抜け”僕”を貫いた。今や剣と僕の
波長は完全に一致していた。
自然に体が宙に舞い、剣が奴等の実体をとらえる。
再び地面に足が戻った時には、奴等は既にこの世の者ではなかった。二匹とも・・。
僕は自分が成し遂げた成果にうれしくなって、おもわず剣を高く振り上げた。勝利者
のポーズだ。
その途端あれほど軽かった剣が突然重くなり、僕はおもいっきりズッコケた。おまけ
に、あろうことか僕は傷の痛みにたえきれず、そのまま気絶してしまったのだ。
かくて英雄(ヒーロー)は地面とお友達。「賢者の剣」、なかなかのくわせ者である。 <<つづく>>