AWC 詩篇 空中の書21     直江屋緑字斎


        
#343/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (QJJ     )  87/ 9/16   8:34  ( 50)
詩篇 空中の書21     直江屋緑字斎
★内容
<砌(みぎり)の下に 49行>

   砌(みぎり)の下に      澁澤(渋沢)龍彦氏に

石仏の首が
際限なく転ってゆく

賽(さい)の目を数えずとも
露地裏には秘密の部屋があり
男の肩には匕首(あいくち)が刺さっている
硝子の汗を噴いて
心臓は鉄
だらだら坂は小糠雨に光り
銀の鰈(かれい)を縫い込んだ鞄の中に
スウェーデンボルグの著作が一冊
ガス燈が闇を円形に照す

決死の闘いとは
気障な溜息
鎖骨二本が急所である
額に五寸釘が打たれると
夜々の濛気(もうき)が氷解する
水晶の坏(さかずき)に
経血は釣り合ぬ
龍騎兵を奪うには
腕力が肝要だ

球形の棺に
百科事典が葬られると
不気味な鳥類は
アポロンの箭で串刺し
浮揚する机上に
頭脳のモデルと
博奕打(ばくちうち)の胆
精嚢(せいのう)に
針と文字盤が蔵われる

女の睫(まつげ)に血が滲(にじ)む
愛撫されても孵(かえ)らない
名を呼ぶと
砌(みぎり)の下に沁(し)み込んでゆく
誰もいない公園の向うに
朽た卒塔婆を見る

境内でけたたましく喋る
絵馬の中の神々
石燈篭に残された
黒髪の一束
物怪が御辞儀する





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