#3278/3576 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA ) 24/11/12 17:32 ( 47)
わらじを履いていてもスリッパー 永山
★内容
映画館にて映画「侍タイムスリッパー」(日本 2024)を鑑賞。ネタバレ注意で
す。
“第二の「カメラを止めるな」”との呼び声もある、じわじわと評判が浸透してきた
作品ということで興味を持ち、観てみました。
まず、作品の売りやテイストは、「カメラを止めるな」とはぜんぜん異なるってこ
と。あくまでも評判の呼び方が似ているという点で、形容されているのだと思います。
観ている間中、ほぼずっと感じていたのは、これは時代劇への応援歌だなというこ
と。ノスタルジーにとどまらない、真摯な応援。そして、この作品そのものが応援した
くなる映画になっている。
次、タイムスリップしてきた侍を通して、現代の日本の豊かさとか平和、あるいは幕
末の内戦で亡くなった人々・虐げられた人達へ、思い至るところ。表現としてはとても
シンプル、ストレートなんだろうけど、いい。こう書いちゃうとハードル上がってしま
うでしょうけど、しょうがない。(^^;
序盤のあらすじは――ときは幕末、会津藩の武士・高坂新左衛門がもう一名ととも
に、ある長州藩士に夜討ちを掛けるところから始まる。高坂の相棒は峰打ちであっさり
と気絶し、一対一に。降りだした雨の中、刀と刀、緊迫感漲る決闘が繰り広げられる
が、突如、激しい閃光に包まれ、雷鳴が轟く。
次に高坂が目を覚ますと、そこは江戸の街中……と思えたが、実は京都の時代劇撮影
所だった(設定では二〇〇七年頃だそう)。折しもテレビ時代劇「心配無用の助」撮影
の最中で、当初、高坂はわけが分からず、いわゆるモブの人達に状況を尋ねるも噛み合
わない。そこから色々あって、時代劇の斬られ役としてこの時代で生きていこうとする
高坂。その顛末やいかに――ってな具合。
タイムスリップ物でとかく無視されがちな身元確認・戸籍については、きれいにス
ルー。また、高坂が現代社会を目の当たりにして驚き、衝撃を受けることは受けるので
すが、慣れるのも早い。順応力ありすぎで背負ってレベル。まあ、これらは、細かいこ
とに拘っていると話が進まないので、ばっさりカットしたんでしょう。正解だったと思
います。もちろん全部捨てるのは惜しい訳で、白米のおむすびに感動したり、いちごの
ショートケーキが庶民の誰もが口にできる物だと聞いてまた感動したりと、そういうミ
ニ驚き場面がいくつかあり、よいアクセントになっていた。
唯一、この辺りの処理で突っ込むとしたら、撮影所にて機材で頭を強打し、昏倒した
結果、病院に担ぎ込まれた高坂が、意識を取り戻したあと、(その時点で知り合った現代
人の中で一番会話を交わしている)優子に「ここは病院。待っていて」という胸を言わ
れたにもかかわらず、窓から外の景色を観ただけで、着替えて勝手に姿を消してしまう
くだり。自分にとって訳の分からん世界に放り込まれた状況下で、とって食われるとい
う風な危機に陥ったでもないのに、ふらふらと出て行く選択をするものか? 言葉は通
じるし、刀は手元にあるし、しばらくは病院にいて様子を見るのが妥当じゃないのか
と。
中盤以降についてはあまり触れるべきではないと思いますが、クライマックスの殺陣
は極めてよい。様式美込みの殺陣を外れ、侍同士が現実に斬り合えばこういう感じに近
くなるんじゃないかと思わせてくれる。それからオチとして多くの人が思い付くであろ
う定番ネタは、回避されています。はっきり書くと、再び雷が落ちて元の時代に戻る、
という展開はありません!
反面、タイムスリップ物でちょっとしたひっくり返しに用いられるアイディアは、中
盤から終盤に掛けて、すっと滑り込ませてきました。考えられる展開の一つとして予想
はしていたけれども、使い方がいい。
ではでは。