#2569/3695 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA ) 23/02/02 20:24 ( 43)
書けないダイイングメッセージ 永山
★内容
ニュース系のネットサイトに、異世界を舞台にしたファンタジー作品などで。本来そ
の世界ではあり得ない言葉が出て来ると萎える、という一部の読者の声を紹介する記事
があった。
一例を挙げると「四面楚歌」。楚の国が歴史上のどこにも存在しない異世界にて、異
世界人がこの言葉を使うのはおかしい、という理屈。
また、仏教に由来する「安心」「大丈夫」といった表現も、仏教が存在しない異世界
で使われると違和感がある、との見方も。
これに対し記事を読んだ人のコメントは、「現地語が日本語に翻訳されていると思え
ばいい」が大半を占めた形になっています。
どちらもうなずける。読者が翻訳された作品として受け取るのはもちろん結構なこと
だし、作者の側も、拘って、言葉を厳密に使う(それでも「何故、日本語なの?」とい
う問題はついて回るが)か、一から作るか。あるいはその“おかしな”表現を逆手にと
って、新たな面白みを出すという手法もあり得る。
さて、そんな中、悩ましいのが、作中でその異世界での文字を示さなければならない
場合。まあ、新聞とか本、看板や標識といった物語の本筋と関係がないことどもであれ
ば、現地の言葉を日本語に直して表記したとすれば事足りるのかもしれません。が、そ
う簡単に行かないケースもあります。
たとえば、駄洒落やとんちを効かせたなぞなぞ。翻訳してあるのだと捉えても、普通
は日本語で表記できないはず。外国映画に出て来た駄洒落を、日本語にするのが大変な
ように。
あるいは、ミステリにおけるダイイングメッセージ。日本を舞台にした作品で、死者
が書き遺したのが、「パ」「ハ〇」「ハ0」「八〇」「八0」その他諸々のどれなの
か、なんていう場面を多の国の言葉に置き換えるのは非常に難しい。その逆も然り、で
なければいけない。まさか、翻訳したのだからとダイイングメッセージの正解をそのま
ま日本語として記述する訳には行きません。そんなことしたらミステリじゃなくなって
しまう。(^^;
ダイイングメッセージだけ現地語表記するという手も使えなくはないでしょうが、
ハードルが高い。基本的にダイイングメッセージは誤読を前提にしているから、「他に
こういう解釈もできる」という選択肢を用意する必要があるけれども、現地語(異世界
語)だとその全容を示すいとまはないし、だからといってダイイングメッセージに関係
する設定のみ書いていたら、答が恐らくバレバレになる。結局、よほどの妙案でもない
限り、異世界を舞台にしたミステリでダイイングメッセージは持ち出さないのが賢明…
…。
刑事コロンボシリーズの「殺しの序曲」のラストでは、言葉に関するパズルが犯人か
らコロンボに向けて出題され、コロンボが見事に正解するシーンが描かれます。四つの
単語の中から仲間外れを一つ見付けろという主旨のパズルで、元々は英語ですから、日
本語に直訳しただけでは意味が通じません。それを翻訳家は別の表現に置き換えて、見
事にクリアしています。
ここでは詳細を省きますけど、あれくらい巧みさを感じさせるアイディアが用意でき
たとしたら、異世界ミステリでのダイイングメッセージも面白く描ける可能性はある。
ではでは。