AWC She's Leaving Home(13)改訂版ぴんちょ


        
#751/1159 ●連載
★タイトル (sab     )  09/10/21  18:22  ( 44)
She's Leaving Home(13)改訂版ぴんちょ
★内容
次の日の夜もベサメムーチョに電話して円山町のラブホに行った。モト冬樹み
たいな顔をしたジジイでわき腹にY字型の大きい傷があって痩せていて顔色も
悪い。その癖妙に立ちがいいのでバイアグラでも飲んでんじゃないの、腹上死
でもされたらかなわないわと思って、終わったあとさっさと服を着ていたのだ
けれども、ジジイはパンツ一枚でベッドに腰掛けていた。
「すごいだろ、これ」と言うとジジイはわき腹の傷をさすった。「癌だよ」
又自分語りかよ。何でみんな喋りたいのかなあ。一発やれば心が通じていると
でも思っているのかなあ。
「何で癌になるのかなあって考えたんだよ」ジジイが言った。「だけど癌にな
らないで不老不死って事もありえないし。動脈瘤になった血管なんて見ると、
やっぱりガス栓とかだってボロボロになるものね。だからこう、子供が出来て
孫が出来てって生命のバトンタッチが出来ればいいんじゃないのかって思って。
タンポポってさあ、花が咲いて綿帽子になって又花が咲いて綿帽子になって。
あれって一個一個の花にはあんまり価値は無いんだよね。人間の一生も苦しか
ろうが楽しかろうがあんまり意味無いんじゃないかと思って。でもタンポポの
命の受け渡しにも意味がなかったりして。それも無意味だったら寂しいけど。
まあ人間の一生にはあんまり意味はないと思うけどね。俺は静かに死にたいよ」
「じゃあ死ねば」
「それがなかなか死ねないんだよ。体重とか腫瘍マーカーの値とか見ていると、
ああ俺もこのまま枯れて行くのかなあと思えるんだけれども、ある段階で個体
を維持するシステムに巻き取られるんだよね。それはさあ、巨大な検査機器だっ
たり。薬とか放射線とかメスとか。怖いし、痛いし、症状を軽減する為の手術っ
て何なんだろう。でも断れないんだよなあ、逃げられないの。何でだろう。街
の雑居ビルにペインクリニックとかあってああいう所に行けば緩和ケアが受け
られるのに。なんかそういう事すると野垂れ死にするんじゃないかって思える
んだよねえ。あの大病院で延命治療に耐えないとお骨にもなれないのかよ。タ
ンポポはともかく、そこらを飛んでる鳩とか野生のシマウマとかさあ、自然の
循環の中にいた方が苦しみは少ない気がするんだよねえ」
モト冬樹は3万円くれた。
円山町の帰りにほか弁でのり弁を買う。
「あのー、フライ無し、ちくわ無し、おかか無しにしてもらえますか?」
「え? それじゃあご飯だけになりますよ」
「でも、沢庵とかあれば…」
まん喫に帰るとのり弁とコーラとプロティンを飲んで、リクライニングを倒し
た。そして私は客の事を考える。昨日のユースケは、大和撫子にうんちは似合
わない、何故なら結婚制度は透明でなければならないから、とか言ったんだよ
なあ。吉川ひなのはIZAMと結婚する時に、こんなに可愛い制度があるんだった
ら使わないと、とか言っていたが。とにかくそういう風に制度を透明な感じに
しようとするからと畜の痛みを隠すんだ。と思ったが、今日の客はそもそも制
度がなければ痛みなんて無いんじゃないのかと言った。タンポポやシマウマの
様に野生の中で循環していればそんなに痛くない。そういう事ってありえるん
だろうか。個体性が高い程神経系が発達していると生物で習った。野生に生き
ると個体性は低くなるのかな。シマウマの群れはあれ全部で一個の生命体だか
ら一頭ぐらいライオンの餌食になっても平気で川を渡っているのかな。





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