#322/566 ●短編
★タイトル (GSC ) 07/11/02 01:12 ( 40)
フリー日記 『優勝の悲哀』 [竹木 貝石]
★内容 07/11/02 01:22 修正 第2版
中日ドラゴンズが日本一になったそうだ。
今年もペナントレースでは一進一退で、どうせ優勝など出来ないと
思っていたから、ただの一度も放送を聴いたことがなく、新しく導入された
プレイオフ方式にも興味は無かった。ところが、セリーグ第2位の中日が、
3位の阪神に2勝、1位の読売に3勝して、5連勝で日本シリーズに駒を
進め、そして、あろう事か、日本ハムを下して最高位になったという。
それらのラジオ放送をただの一声も聴いていない私としては、嬉しい
どころか、むしろ恨めしい思いでいっぱいだ。
ドラゴンズの日本一は、53年ぶり、プロ野球史上2回目といえば、
いかにもめでたい訳だが、その間のふがいなさと情けなさ、長年に渡る
いらだちと悲哀は、あまりに深くかつ永かった。私のようにせっかちな
人間でなくとも、中日を応援する気力が萎えて、野球そのものに対する
熱意も冷え切ってしまう。
「負けても負けても一生懸命応援するのが本当のファンというものだ」
などというのは、よほどの暇人かお人好しと言わざるを得ない。
確かに私はいつも忙しい。けれども、家族や友人が多少なりと協力的
だったら、少しくらいは野球放送を聴いて、ドラゴンズに肩入れもする
だろうから、優勝した時の喜びもそれなりに味わえた筈だ。しかるに、
「お父さんが野球を聴くと、必ず中日が負けるから、なるべく野球の話を
しないようにしていた」
という妻、
「優勝が確定するまでは、なるべく中日の放送を聴かないようにして
ください」
というA君夫婦…。
いくらジンクスを大事にするからといって、それは無いだろう! 私が
野球放送を聴くか聴かないかによって、ドラゴンズの勝ち負けが決まる
ものなら、これほど楽な話はないし、まさかそんな非科学的な現象を
本気で信じている訳でもあるまい。また、勝った後の結果だけを聞けば
それで満足できるというものでもなく、日本一になるまでの苦しい努力や複雑な経緯
を、逐一選手達と共有してこそ、栄冠を手にしたときの感激は
大きいのである。だが、いつの間にか私自身、暗示に掛かったように、
野球放送を全く聴かなくなってしまった。
中日ドラゴンズの歴代監督や選手達、そのほかあらゆる関係者が、
努力を怠っていたとは思わないが、半世紀に一度しか最高位に成れないと
いうのには、何らかの原因があるのではなかろうか?
いずれにしても、こうなった以上、中日ドラゴンズの優勝にまつわる
番組は、テレビもラジオも一切無視することに決めた。そうしないと、
私の一貫性が許さない。
[2007年(平成19年) 11月1日 竹木 貝石]