#287/567 ●短編
★タイトル (got ) 05/11/24 19:51 ( 67)
Xmas もみじば
★内容 05/12/02 20:31 修正 第4版
夜の地下鉄が去っていく。
待ち人が来なかった24日の夜。
私は手足が冷たくなるまで何時間も待っていたのに。
気の遠くなるほど律儀にその人を待っていたのに。
改札口に人の波が寄せては返し、潮を引いていった。
そのたびに構内は閑散として、人っ子ひとりいなかった。
百年の歳月、その人を探すためにだけ、私はこの地下構内に立ちつくした。。。。。
何人探しても繰り返し探しても、探すことの同じ行為に凝集されて、
その人はただ一人探された。。。。
『もう、その人は来ない』
背を向けて、私は地下道の三番出口を出た。
外にはネオンの明かりが星を連ねたようにまたたいている。
私の両目も水晶のようにまたたいているだろう。
私の傍らを連れだって歩く人は、いつまでも、どこまでも、いない。
両側が光のルミナリオになった暗く寂しい一本道を、今日も私は一人でアパートに戻っ
ていく。
その夜寝床で目をつむると、大きな白い月が浮んでいた。まだら模様の中にストレィ
シープもいた。
その月からは下界に向って臍の緒がのびている。そして枕の上の私の頭とつながってい
る。
月と私の間は瞬即だ。景色のように大きな月の脇に、リンゴ大の私の頭があった。
私は夢のなかで臍の緒をつかんで月へ向って昇ってゆく。
ひたむきに、ひたむきに、昇ってゆく。
もう、こんな辛いところとはお別れしようと思うから。
でも、このまんま、最初から終りまで鋭い欠望のまんま、私は月へ昇っていくのだろ
うか。
本当に残り屑のような残念を私は月まで持っていくのだろうか。
いやいや、ここ2xxx年のこの場所に残り屑の残像は置き残していこう。
月に昇って、その先は。もう二度と待つ役も待つ現象もあるまい。あれはこのチャンネ
ルの記憶の名残りだった。それから。。。。
ちょうどテレビのチャンネルとチャンネルのはざまで、何も映らないざらざらの白黒が
続くように、
延々とざらざらの白黒が続くのだろう。
延々と一面の白黒が。。。。
でもそんな寂しいことはとても信じられない。映ることのほうが遥かに信じられる。
『でも私にもう映す力はない』
だれかがどこかで限りなく長く強く、甦ることの周波数を合わせてくれるまで。。。。
私の枕は涙を呑みこむ器。
その夜は満月の前を沢山の雪が降りしきった。百年の歳月をまたいで降りしきった。
翌日、起きてまぶたを開けると、一面の銀世界で、ホワイト・クリスマスだった。
昨日滲みこんだ私の涙は凍てつく霜になって枕のなかから出てこない。
ここは昨日の世界ではない。
ここは今日の一面の銀世界。
名も知らぬ山脈が地平線のかなたにあった。
私の体重は流した涙の分量だけ軽く、瞑想が増した分だけ重く、
今日という日につららと化して起き上がった。
目の前がひかひかときらめくダイヤモンドダストに取り巻かれていた。
私の枕は今朝の上空に巨大な氷の花と化して浮び、私の存在はその下に根のようにはみ
だして、鬱蒼たるつららになって下がっていたからだ。
その壮絶な美を念じ、雪原にま新しい二筋をつけながら、
何びとか、大狩人の初開の鹿ぞりが向って来る。
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