#180/569 ●短編
★タイトル (dan ) 04/10/08 04:28 ( 38)
あの頃のこと 談知
★内容
二十代のはじめころ、ワタシは新宿から京王線でひとつめの初台
というところに住んでいた。今からもう三十年も前のことである。
そこに住むことになったのは、知り合いがそこに住んでいて、一時
居候していたからだ。いつまでも居候というわけにもいかず、不動
産屋にいってみたら、ちょうど安い部屋があったので即決めた。三
畳間で月八千円だった。当時としても三畳間に住むひとはあんまり
おらず、そのせいで安かったのだ。またそんな部屋だから保証人な
どもいらなかった。
窓を開けると新宿の高層ビルの明かりがみえた。その景色がその
部屋の唯一の取り柄みたいなものだった。三畳間というのは本当に
狭い。部屋のなかで寝転がったら、手足が四方の壁に当たってしま
うような感じだった。部屋というよりそれは箱のなかにいるという
感じだった。棺桶のなかにいるみたいだね、とよく知り合いに話し
ていた。
その部屋のなかでワタシはなにをするでもなく、終日ぼーとして
いたようである。何をしたらいいのか、何をしたいのかさっぱり分
からなかった。自分で自分をもてあまし、ただ部屋のなかに座って
いた。
そんな感じで半年ほどいたが、金がなくなってきたためアルバイ
トをすることになった。アルバイト先は横浜のデパート丸井馬車道
店である。そこの礼服売り場で売り子をした。カインドウエアとい
う礼服卸会社からの派遣である。ワタシはひとにものを売りつける
なんて向いてないと思っていた。どちらかといえば機械相手にもく
もくと仕事するほうの人間なんじゃないかと思っていた。ところが
販売の仕事を始めてみると、これが結構面白いのである。話のもっ
ていきかたで服が売れたり売れなかったりする。とにかく自然のな
かで狩りをしているみたいな感じである。やって来た客をいかにう
まく捕まえるか。意外と販売に向いているのかなと思った。楽しい
毎日だった。
半年ほどして契約が切れて仕事をやめた。そしてまた部屋にこも
る日々が続いた。新宿から歩いて二十分くらいの近さだったので、
よく新宿へいき紀伊国屋で立ち読みをしていた。毎日何をするわけ
でもなく、ただぶらぶら歩いていた。考えてみれば今と同じことを
やっていたわけだ。その意味ではワタシの人生は首尾一貫している
ともいえるな。短いアルバイトを何度かしながら、結局その部屋に
は二年ほどいたんだろうか。ただただぼーとしていたような二年間
だったが、今はワタシの新宿時代という感じで、ワタシの記憶のな
かにある。