AWC エイプリルフールになる前に   永山


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#157/569 ●短編
★タイトル (AZA     )  04/03/31  23:18  (106)
エイプリルフールになる前に   永山
★内容                                         20/11/19 01:59 修正 第2版
※作中に出て来る蘊蓄を鵜呑みにしないでください。
 何しろ、これは嘘の物語なのですから。


「よくさあ、映画やドラマなんかでさあ」
「うんうん」
「誘拐して、身代金を口座に振り込ませる話があるじゃん」
「よくあるね」
「それでさあ、口座がスイス銀行にあるっていうパターン、多くない?」
「多いね」
「その理由が、スイス銀行はお客の秘密を絶対に守るっていう風に、説明され
るけどさあ」
「されるね」
「だったら、誘拐犯はみんなスイス銀行に口座を作ればいいのに。思わない?」
「思わないね」
「どうしてー?」
「口座を開設すること自体がとても難しい。まず、スイスまで行かなくてはな
らない」
「うーん、まあ、それはそうよね。何てったって、スイス銀行なんだもの」
「身代金目的の誘拐を企てるほどお金に困っている人が、スイスまでの旅費を
工面できると思うかい?」
「難しい感じ。ていうか、スイスまで行く金あるんだったら、誘拐しなくてい
いじゃん!て感じ」
「スイスに行けたとしても、次の難関が待っている。非常に厳しい審査を受け
て、パスしないといけない」
「審査? 身元調査とか?」
「それもある。他には財力も問われる」
「ええー? 金持ちじゃないと作れない訳? ばっかみたい」
「それから口座開設の合法的な理由も必要なんだ。まあ、これは嘘を吐くこと
も可能だろうけどね」
「ふーん。犯罪者にとって美味しい話は転がってないんだあ?」
「ついでにもう一個。十万フラン以上の預金ができる人じゃなきゃ、口座を作
れないのさ」
「はあっ? それを真っ先に言ってちょうだい。金のない犯罪者には、絶対に
無理じゃないの」
「まさか、君、誘拐を計画してるんじゃないだろうね」
「誰がするか」


「あ、待ってよ」
「外を見ろよ。真っ暗だ。早く帰ろう」
「借りてたお金、返すわ。千二百円だったわよね」
「おっ。自分から言うなんて、珍しいね」
「いいからほら。手を出して。手のひらを上に向けて」
「?」
「百円玉で返すから、一枚ずつ落としていくのを数えて確認してほしいの」
「……まあ、いいか。あんまり高くから落とさないでくれよ」
「もちろん。じゃ、行くわよ。一枚、二枚、三枚、四枚。ところで今、何時?」
「七時になるところかな」
「八枚、九枚」
「ちょっと待て」
「えっ(笑)。何か?」
「何か、じゃない。僕を時うどんで騙そうとは、図々しいにもほどがある」
「時うどんじゃないわよ、時そばだった。昨日の深夜、テレビでやってたんだ
から」
「どっちとも言うの。あのなあ、こんな古典的で有名なやり口、今じゃ誰も引
っかからない」
「そう? 昨日の番組で言ってたわ。昔、外国人が片言の英語と日本語で」
「待て待て。外国人が片言の英語っていうのはおかしいぞ。片言の日本語と英
語で、だろ」
「そうとも言うかもね。で、外国人が日本で釣り銭詐欺を働いて、それがあま
りにも鮮やかで、何人も引っかかったんでしょ。時そば外人とか時そば詐欺と
呼ばれて、有名になったって」
「それは確かにその通り。ただし、呼び名には異議があるね」
「呼び名って、時そば外人のこと?」
「ああ。問題の外国人がやった詐欺の手口は、落語の時そばとは全く違う。極
論すれば、買い物の単純な計算を、両替を挟むことでややこしく見せるだけさ。
むしろ、同じ落語でも壷算に似ているから、壷算外人と呼ぶべきだという声が、
当時からあったんだよ」
「ふーん……。ね、ね、その壷算ていうの、どんな話なのか教えてよ」
「お断り」
「ぶー。何でよっ?」
「教えたら、どうせ誰かに試すつもりだろ?」


「ビッグベンて知ってる?」
「ああ。大きな、べ――」
「イギリスにある時計塔!」
「殴らなくてもいいのに」
「ふざけるからよ。その時計が今度、デジタル化されるんだって」
「ほー。どこで聞いたんだ、そんな話を」
「新聞に載ってた。デジタル化に当たって費用が掛かるから、スポンサーを広
く募集するんだって。企業でも個人でもOK。寄付してくれた企業や個人は、
内部のプレートに名前を刻んで称えられる他、デジタル板の下に設置される電
光スペースを使って、宣伝することもできる。個人は一口千ポンドからで、何
口寄付したかによって、宣伝時間や優先順位が決められるんですって」
「信じたの、その話?」
「え? 信じるも何も、新聞に載っていたのよ。スポーツ新聞なんかじゃなく、
まともな大手の新聞に」
「あのさ、昨日は僕の誕生日だったんだ」
「……何それ。四月一日があんたの誕生日だってことは知ってるけれど、プレ
ゼントくれっての? 今さら?」
「そうじゃない。今日は四月二日。エイプリルフールの次の日だ」
「なんだぁ、四月馬鹿と言いたいのか。だけど、それなら昨日の新聞に載せな
くちゃだめじゃん」
「その記事、外国からのニュースじゃなかったか」
「当然よ。確か、イギリス発のニュース」
「じゃあ、イギリスで記事が出たのは四月一日だろうな」
「……そうかもしれないけど、新聞に四月馬鹿の記事が載る訳ないじゃない。
四月馬鹿なら、そう書いてあるでしょうが」
「日本人は頭が固いから、日本の新聞ではあり得ないが、アメリカやイギリス
だと、新聞も割と大真面目に四月馬鹿を取り上げる傾向があるね。君の言った
ビッグベン云々もその類に違いない。信じて、本当に金を出す会社や個人が出
そうだねえ」

――終わり?





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