AWC 『大富豪になる方法』 …… パパ


        
#71/569 ●短編
★タイトル (paz     )  03/02/22  01:29  (111)
『大富豪になる方法』 …… パパ
★内容
 親愛なる恵子さま。
 どうやって私の正体を知ったのか、それを問うことはいたしません。
 私は同じ名前のアナタとごく普通のやりとりができることが嬉しく、メールボックス
にアクセスすることに楽しみを見いだしてきました。恵子さん以外のメールは純粋にビ
ジネスとしてしか存在していません。
「どうしたら成功できるのか?」というアナタの問いに私は誠意をもって答えたいと思
います。ただ、ニュースペーパーなどに、メールの内容を売るような行為は謹んでくだ
さいませ。お互いにとって不幸な結果になることは火を見るより明らかです。
 唐突ですが、私の年収が幾らかご存じでしょうか? もちろん小規模な国家予算以上
ということは誰でも知っている公然の事実です。詳しい数字を知っていますか? 私は
知りません。すでに計算不可能なのです。
「どうしたら成功できるのか?」
 よく質問されます。それがビジネス誌のインタビューなら尚更です。
 必ず、こう答えています。

 一つは他人と違う発想をすること。
 一つは、それが馬鹿のように思えても試してみること。

 試しもせず、結論を出してはいけない、ということです。
 オオカミが来た、と叫ぶ者がいるならば、疑う前に自分の目で確認することが大事な
のです。
 ――ここまでは、いつも私が語ってることです。恵子さん、私はアナタに誠意をもっ
て答えるといいました。これから自分の過去という名の具体例を話したいと思います。

 私が高校生の頃のことです。
 日本という国は不況の長いトンネルの中で、存在しない出口を探し、あがき藻掻き苦
しんでいました。私の父親もリストラという憂き目にあい、職を失っていました。それ
まで総中流家庭などと論評があったのが嘘のように、生活レベルが落ちていくのです。
私にとっては他人事ではありません。父の失業保険が切れ、それでも職が見つからず、
わずかな蓄えを切り崩していきました。その頃には父も母も窮状を隠そうとはしません
でしたが、人並みに高校ぐらいは卒業させたいという願いも私に伝えてくれました。そ
の思いは私も同じでした。
 文字通り爪に火をともすような赤貧の中で、私が援助交際という行為に走っても不思
議ではなかったと思います。ちょっと身体を貸すだけで、手軽に稼げるのです。誰だっ
て綺麗な服は着たいし、美味しいものも食べたい。当時、それだけの理由で学友たちは
身体を売っていました。それは私にとっても自然な成り行きだったのです。
 手軽さと引き替えにリスクもあります。
 中絶で体を痛める娘もいれば、覚醒剤を打たれて悩む娘もいるのです。
 私もリスクは承知のうえです。しかし、同じリスクを負うならば最大限の損失を覚悟
して最大限の利益を得よう、そう決心しました。
 夜が更けてから麦畑に行き、星明かりの下で麦を踏みしめました。時間をかけて巨大
な円をつくり、その下に大きな十字を描きます。
 それが終わると、あとは待つだけです。
 二時間も過ぎたでしょうか? 他に見るものもないので、ぼんやりと月を眺めていた
のですが、私は驚きのあまり声をあげてしまいました。雲もないのに月が消えてしまっ
たのです。星も消えていきます。当時、未確認飛行物体はキラキラと光るものだと誰も
が疑うことすらしませんでしたし、私も無意識にそう信じていました。
 円盤が黒いものだと気がついたのは、かなり近づいてきてからだったのです。今では
スペースシップと呼ばれていますが、その時代は未確認飛行物体というのが通称でし
た。
 黒い円盤は直径10メートル程度と小型です。着陸脚が伸び、タラップが降りまし
た。開かれた扉から光が溢れた時、私は勝利を確信したのです。
 タラップから降りてきたのはグレーの肌をした宇宙人です。眼は想像したとおりに大
きく、つりあがっていました。身長は150センチくらいと割と小柄です。現在の単位
なら177ナナセですね。
 彼は何事かを語っています。口が動いているのは分かりますが、音域が高すぎて人間
の耳には届きません。彼はペンダントにぶら下げた卵大の機器を調整しました。ダイア
ルを回しているのです。甲高い声がその機器――つまりトランスレーターから発声され
ました。
「ハウマッチ?」
 私は首を振りました。目的はお金ではありません。交渉の末に手に入れたのが携帯用
の反重力ユニットでした。
 彼は「ok、ok」と、気軽に返答してくれました。
 私はタラップを上り、彼についていきました。中はこざっぱりとしていて、調度品ら
しいものは見あたりません。促された船室にはベッドがひとつありました。見回しても
生活臭はなく、どこまでも無機質です、異星人というより機械的だな、という印象を私
にもたらしました。
 船内で彼が衣服を脱ぐのを見ました。皮膚だと思っていたのは薄手のスーツだと知り
少なからず驚きました。肌の色は限りなくブルーに近い白です。彼は私との行為に満足
すると、「マタネ」と、いって去っていきました。
 実際、次の日も彼はやってきました。私が手に入れたのは反重力ユニットの操作マニ
ュアルです。もちろん、ちゃんと翻訳してもらってから仕事につきました。その次の日
は作動させるための携帯用エネルギーユニットをいただきました。
 一月もたてば、携帯用エネルギー障壁など、携行できるものは全て手にいれました。
どれもこれも価値は計り知れないものです。彼は地球に学術研究にきていたのですが、
単身赴任だったため寂しかったのですね。私はよき話し相手としても彼の中で大きな位
置をしめるようになりました。
 でも問題がひとつあります。
 私が得たものから、どうやってお金を生み出していくかということです。大人は信用
できません。甘言で私をだまし、取り上げてしまうかもしれません。両親にも先生にも
相談することはできません。
 だから私は彼にお願いしました。国会議事堂の上にスペースシップでなく星間移動用
の母船をおろすように。彼はすぐさま実行にうつしてくれました。次いで私ひとりを窓
口として異世界との交渉権を与える、と宣言しました。
 世界的に認められてしまえば、誰もおかしな事はできなくなります。
 すでにお気づきだと思いますが、彼はただの学術探査もしくは研究にやってきただけ
で、母船といっても個人が所有しているクルーザーに過ぎません。宇宙戦争うんぬんは
ただのはったりだったのですが、非常に効果があったのも事実です。島国より大きな母
船、それは私の予想通り対抗不可能の驚異として当時の人類は認知してくれたのです。
 それからのことは書くまでもないでしょう。私は幾つも会社をつくり経営してきまし
た。どの雑誌を読んでも、私が世界一の金持ちと書いてあります。
 その出発点は小さな発想が種になってます。
 ミステリーサークルと呼ばれたものは、古代、宇宙人との交信手段として使用された
ものではないだろうか。それが思考の起点でした。現在も宇宙人が地球について調査し
ているのなら、簡単なシンボルマークを描けば理解してもらえるだろう、それが女の子
のマークだったら、寂しい男の宇宙人なら飛んでくるに違いない、そう確信していたの
です。それを馬鹿みたいに実行して、富を得たのです。方法自体は褒められたものでは
ないでしょう。万人にお勧めできるものではありません。
 私が本当の事を話したのは恵子さんが初めてです。そしてこれが最後でしょう。
 私の年齢は老化遅延処置を受け、すでに200歳を超えています。
 見た目は18のままなのに……そう考えると不思議な気持ちになります。
 彼より長生きするとは正直いって想像していませんでした。
 もしよろしければ、恵子さんも同様の処置を受けられるように取りはからいますが。
 貴重なメールフレンドですからね、簡単に失うことはできません。

 なお、このメールは自動的に破棄されますが、ご了承くださいませ。
 色よいお返事待ってます。              ケイコ

−−了−−







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