AWC 大型IT小説 「日た2」 佐野祭


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#17/549 ●短編
★タイトル (GVB     )  02/03/17  23:38  ( 77)
大型IT小説  「日た2」  佐野祭
★内容                                         02/03/18 01:31 修正 第2版
 一応続編であるが、前の話を知らなくてもそんなにがっかりすることはない。
ともあれ日米戦争はまだ続いている。
 ここ日本たばこ産業(略称日た、旧略称JT)では電脳講習が開かれていた。
こないだまでIT講習と呼ばれていたのだが、敵国語禁止で名前が変わったのだ。
ちなみに五年前まではOA講習と呼ばれていた。
「おはようございます」講師の女性の元気な声が響いた。
「皆さんと一緒に勉強することになりました梅田手児奈です。これから一週間よ
ろしくお願いします」
「よろしくお願いします」元気に松本部長が答えた。
「よろしくお願いします」普通に杉野森課長が答えた。
「では、これからの日程をご説明します。初日の今日は、『電網を使おう』です」
「でんもう?」
 手児奈は黒板に『電網』と書いた。
「世界中の計算機につながっている電網を使いこなすことで、知りたい情報をす
ばやく手に入れることができます。今日は、皆さんよくご存知の電網探検者を使
います」
「ご存知って、知ってる?」松本部長が杉野森課長に聞いた。「やっぱねえ、い
きなりだもんな。聞いたことがない言葉がすぐ出てくるからいやなんだよ。俺だ
ってさ、二つ突っつくがやっとこないだできるようになったばかりなのに」
「部長、電網探検者ってあれですよあれ」杉野森課長が横から言った。「あの、
ほら、よく掲示板とか、野球の速報とかやってるでしょう」
「ああ、あれ?」
「あれ」
「なんだあれか。あれならご存知だ」
「二日目は『手紙を書こう』です。見通し速達を使って、お互いに手紙のやりと
りをします」
「見通し速達か。よく知らないな。私が使ったことがあるのは……」そこまで口
にして松本部長はしばらく考え込んでいたが、突如すっとんきょうな声をあげた。
「えっ、もしかしてあれって見通し速達だったの」
「どうしました」
「てっきり外見急行だと思ってた」
「は」
「だって、アウトルッ……」
 周囲の目が白くなり、松本部長はあわてて言葉を飲み込んだ。
「直訳すれば外、見る、じゃないか」
「いえあれはね、もともと予定表用の見通しってのがあって、それの手紙専用版
なんですよ」
「三日目は文書作成です。おなじみの言葉を使います」
「おお、言葉か。その言葉は聞いたことがあるぞ」
「言葉を使って、言葉を書く練習をします」
「すいません」杉野森課長が手をあげて質問した。「言葉は、どの言葉を使いま
すか」
「言葉2002を使います」
 これでなんで本人たち話が通じるかというと、しゃべったり書いたりする「言
葉」と、ここで習おうとしている「言葉」は発音が違うのである。前者は「こ」
が低く後者は「こ」が高いのだ。
「言葉2002ですか。うちの機械には2000しか入ってないんですが」
「まあ、どの言葉もだいたい同じですよ」
「一太郎使おうよ」松本部長がつぶやいた。
「四日目はお待ちかね表計算、まさるを使います」
「佐藤まさるがどうかしたのか」
「誰ですかそれは」
「総務部に三年ほどいたんだけどな。いま転勤で福岡に行ってる」
「んじゃなくて表計算のまさるですよ」
 今度は発音の違いなんてない。
「部長も印刷くらいしたことあるでしょう」
「そういえばそうだ。そうか、あいつがまさるだったのか」
「そして最終日の五日目は、その他のものを学習します。まず、発表用の力点」
「……なんだっけ、支点と力点とあと一個」
「作用点」
「それから、印刷用の出版社」
「そのまんまな」
「計画立案用の計画」
「それじゃあんまり……」
「さらに、家計管理用の金」
「カネ?」
「カネ」
 松本部長は頭を抱えたが、口をへの字に曲げて言った。
「まあ非常時だから仕方がないか」
「翻訳の問題じゃないですけどね。そもそもみんなアメリカ製だし」
「どうでもいいけど、この電脳講習、五日で終わるのか」
「電脳講習なんてそんなもんです」
「はあ」
 松本部長は深くためいきをついた。
「どうも電脳用語は、よくわかんないんだよなあ」

                                [完]





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