AWC あるトラニーチェイサーの死4    朝霧三郎


        
#593/598 ●長編    *** コメント #592 ***
★タイトル (sab     )  22/11/11  11:42  (277)
あるトラニーチェイサーの死4    朝霧三郎
★内容
 シャワーを浴びてもまだ時間が余っていた。
 ベッドに腰掛けてジャスミン茶を飲む。
「俺は、何を求めているのかなあ。女を求めているのにペニスを求めている。何で
ちんぽが欲しいのかぁ」
「3つ説があるの。
 第一の説は、ペニスをクリトリスに見立てている感じ。
 ペニクリっていって、バイブを鬼頭に当てて、行きそうになると離して、おさま
ると又当てて、って、何回もやると、じわーっと精液が滲み出てくるっていうプレ
イもあるんだけれども。
 第二の説。女にペニスがあるのは面白いという説。
 第三の説。女性性器嫌悪説。気持ち悪いじゃん、おまんこって。内臓みたいで」
「インターフェースが変わったって事かな。つまり、相変わらず女を求めてはいる
のだが、つながる箇所が女性性器から男性性器に変わったという事?」
 何気、関根惠子巡査のナニを想像してみたら、内臓が剥きでている様で(嫌だな
)と思えた。
(という事は第三の説かも知れない。いやー、それがペニス羨望の理由とは思えな
いなぁ)

 N-BOXに戻った頃には、すっかり賢者タイムになっていた。
(何時もこうなると、殉死したくなる。惠子巡査を守って殉死したい。何か見るも
のはないか)
 スマホでyoutubeを開いた。
 いきなり、「Movie CLIP - Sayonara, RoboCop!」が再生される。
 廃工場でクラレンスに胸を刺されてぐりぐりされるロボコップ。
「さよならロボコップ」ぐりぐりのシーンを繰り返し見る。
(今日は、サウナにでも行こう)と小川は思う。(新大久保の大泉でいいや。あそ
この休憩室から見える歌舞伎町の空は、なかなかおつなもの。水族館(ライブハウ
ス)でビールでも飲んでから行こう)

 翌朝、中1日で小川は出勤した。もう一人いる24時間警備員の北野が休みだっ
たので。
 ボイラー室で、警備服風作業着に着替えてくると、フロントに突っ立っている福
山に行った。
「福ちゃん、”ところてん”って知っている」
「つるつるーって食べるやつ」
「そうじゃなくてよぉ、アナルにちんぽを挿入して、その先っぽで、前立腺のそば
にある精嚢をつくと、勃起していないのに、精液が出てくるんだよ。たーらたらと
。ずーっとだぜ。その間中行きまくっているんだから、すげーオルガスムスだよ。
普通の10倍だよ。もう、トランスしちゃってさぁ、プレイ中にインストールされ
たものが脳裏に焼き付いている」
「何が焼き付いたんだよ」
「まあ、「ロボコップ」のシーンだけれどもな。ロボコップが廃工場で鉄骨の下敷
きになるシーン」
「お前、俺の貸してやった2万円で、そんなところに行っていたのかよ」
「今度、福ちゃんにも案内してやるよ」
「嫌だね。俺はそんな変態じゃない」
「やっぱ自衛隊は固いなぁ」

 ここまで話したところで、ラウンジの向こうから、ハイヒールの踵を鳴らして石
松が登場した。
「おはようございます」と目を合わせてにっこりと微笑する。
(なんだなんだ、今日は無視しないのか)
 石松はキッチンコーナーでコーヒーを入れると、管理室のスチールデスクにおい
た。
「コーヒー入りましたよー」
 と呼ばれるので、福山と言ってみる。
「全く梅雨でムシムシして嫌ですね」ずずずずーっとコーヒーをすする。
(何で無視しないんだろう。どうせお別れだからだろうか。主任管理員と石松だけ
採用されて警備員はお払い箱かなあ)
「管理会社が変わる件だけれども、蛯原さん、なんか言ってた?」と聞いてみる。
「あー、それだったら何か動きがあったみたいですよ。さっき更衣室に入って行っ
たからすぐに来ますよ」
 言う前もなく、Yシャツのボタンを2つ3つ外してネクタイをぶら下げた蛯原が
登場した。
「蛯原さん、管理会社の件、決まったの?」
「決まったよ。昨日言った通り四菱地所コミュニティが後釜に座るらしい」
「そんで俺らの扱いは?」と福山。
「今度の水曜日に、サンシャインシティ会議室で会社説明会があるんだって。まず
それに参加して、希望者は面接だってさ。でも、基本、パートなら雇ってくれるら
しいぞ」
「ずるいよな。自分で一からやるのが面倒くさいからって俺らを雇うのは」と福山。
「何言ってんだよ、福ちゃん。今いる土方の警備会社に比べたら西武系の警備会社
なんて雲の上の存在だぞ。たとえパートでも採用されれば、もしかして行く行くは
正社員という事だってあり得るだろう。特に福ちゃんなんて元自衛官なんだから」
「小ちゃんはどうするの?」と福山が降ってきた。
「俺かぁ。俺は分からないな」
 言うと、小川はふらふらと、正面玄関側のドアの方に歩いて行った。
「あれ、どこ行くの?」
「辞めるかも知れないから、見納めに一回りしてくるわ」
 言うと小川は鉄扉を開けて出て行った。

 駐車場奥の裏エントランスに通じる通路を行くと、足場の前に行った。
 カラーコーンとトラ柄のバーの前から見上げる。
 上の方で微かに揺れている様に見える。
(やるっきゃねーな)
 小川は、カラーコーンを蹴飛ばした。トラ柄のバーが外れて転がった。
 小川は肩をいからせてパイプに掴みかかると、揺らしだした。
 カンカンと鉄パイプがぶつかる音がして、上の方で、揺れている。
 しかしジョイント部が固くて、崩れる気配はない。
 更に揺らしても、揺れは大きくなるものの崩れない。
 小川は踏み台の1段目に飛び乗ってしがみつくと、オラウータンの様に揺さぶっ
た。
 足場が、組立ったまま、ギーーーーっという音と共に、こちら側に傾いできた。
 ガッシャーんという轟音と共に完全に倒壊する。
 1段目の踏み台の縁が小川の胸部に食い込んだ。
「うぅぅぅぅー」唸ると白い泡を吹いた。
 肋骨が折れて肺を潰しているようだ。
 息が詰まってすぐに意識が薄らいできた。
(ロボコップみたいに鉄骨の下敷きになるのとはちょっと違ったな)それが最後に
小川の脳に浮かんだ観念だった。そのままブラックアウトして意識を失った。

 蛯原が通報して救急車と警察が来た。
 ガイシャは、足場の下敷きになっていて、既に死んでいるのは明々白々だったが
、警察と消防で引きずり出して死亡を確認した。
 救急搬送は行われず、警察が現場検証を始めた。
 事件の可能性もあったので、刑事課に連絡が行った。
 刑事課の小林達也巡査部長、加藤凡平巡査部長、佐伯明子巡査が臨場した。
「こりゃひでーな」遺体を見下ろして小林が言った。
「スマホもめちゃくちゃ」と加藤。
 右のズボンのポケットから飛び出しているスマホはバリバリにヒビが入っていた。
「上着のポケットから何かの破片が飛び出しているな、なんだ」と小林。
 加藤が片膝をついて摘まみだしてみる。
「DVDですね。「ロボコップ」。割れているんで見られませんね…、ん?なんか
名刺みたいなのが挟まっている。なんだ、これ。風俗の割引券ですね。ニューハー
フリブレ高田馬場」
 小林、加藤が遺体を見ている間、佐伯巡査は事情聴取を行っていた。
「絶対に近づくなって言っていたのに」と福山。
「小川さんがそう言っていたんですか?」と佐伯明子巡査。
「でも、ここで下敷きになって死にたいって言っていたんだ」
「え、そんな事言っていたのか」と主任管理員蛯原が顔を突っ込んできた。
 その背後から石松が覗いている。
「あなたはいいから、ちょっとこちらの方に話を伺いたいから」
 言うと、佐伯明子巡査は福山の袖を握って、規制線のところに突っ立っている制
服警官の向こうまで引っ張って行くとそこで聞いた。
「どっちなの?。下敷きになりたいと言っていたの?。それとも、近づくなって」
「近づくな、でも自分はガレキの下敷きになって死にたい、ロボコップみたいに」
「映画の「ロボコップ」?」
「そう」
「何時そう言っていたの」
「昨日かな」
「それから」
「うーん ホルモンをやりたいと言っていた」
「ホルモン? 焼肉のこと」
「そうじゃなくて、ニューハーフのやるホルモンだよ」
「あの人、ニューハーフだったの?」
「そうじゃないけど、そういうのが好きだったんだよ。こういうのだよ」
 福山はスマホを出すと、シーメールの画像を表示した。
「Ellahollywood(エラハリウッド)っていうんだよ。顔はエマワトソンだけれど
もちんぽが生えていて。これがニューハーフの中では一番いいらしい」
 小林と加藤もこっちにくるとスマホを覗いた。
「それで、自分もそうなりたいからホルモンを?」
「そうじゃないけど、ホルモンをやれば、石松さんや西武と戦わなくて済むからっ
て」
「石松さん?」
「あそこにいるコンシェルジュだよ」福山は規制線の向こうで野次馬をやっている
石松を指さした。
「西武というのは」
「今度ここの警備会社が西武系に変わるんだけれども、俺らもそっちに雇われる予
定なんだよ。だけれども小川は西武を嫌っていたんだ」
「何で?」
「分からない。石松を嫌っていたのは無視するからだって。アップルウォッチで録
音までしていたよ。シカトの動かぬ証拠だと言って」
「ふーん。それが昨日の事ね? 昨日はそれで退勤したの?」
「あ、電話がかかってきた」
「なんて」
「金を貸してくれって。ニューハーフヘルスに行くから。好きなニューハーフがド
タキャンされて急に会える事になったって」
「それでお金を貸したの」
「うん」
「いくら?」
「paypayで2万。それで夕べ風俗に行って”ところてん”でトランスしたって」
「”ところてん”?」
「”ところてん”というのは勃起しなくても精子が出てくる技らしくて、それでト
ランスして、「ロボコップ」のシーンをインストールされたって」
「どういうシーン?
「ああやって、ガレキの下敷きになるシーン」福山は倒壊した足場を指さして言っ
た。
「ふーん。それで」
「それだけだよ。俺の知っているのは」
「分かった、ありがとう」

 証人を返してしまうと刑事3人になった。
「ロボコップが鉄骨の下敷きになるシーンを風俗でインストールされて、それを自
分でやったって?」と小林が言った。
「後催眠といって、催眠が解けた後にも催眠の効果が残っているのがあるんです」
と佐伯明子巡査。
「それじゃあ、これは自殺じゃなくて、風俗嬢が催眠をかけたって事か」
「分かりません」
「臨床心理士、佐伯明子巡査の出番だな」
 佐伯明子は、私立大の心理学科院卒で、臨床心理士の資格を取得していた。
「どうするんですか?」明子巡査が聞いた
「ガイシャのヤサに行ってみよう。免許証から住所が分かったよ。西川口だ」と小
林。
「ニューハーフ風俗の方は?」と加藤。
「西川口の後だな。令状なしで任意の事情聴取だな」

 西川口のアパートの1階には青山ふとん店という店舗があって大家が経営してい
た。事情を話すと大家立ち合いの下で中を見せてくれるという。
 ワンルームの居室に入ると、押し入れというかクローゼットの横にベッドがあっ
て、反対側にデスクとその上にPCがあった。
 クローゼットの取っ手にはとじ紐がついていて”大人のおもちゃ”らしき何かが
つながっていた。
「なんだ、ありゃ」と小林。
「アナルビーズです」と加藤。
「詳しいな。何で紐でしばってあるんだ」
「ああやって縛っておいて、ケツを動かして抜きながら前をいじる」
「変態だな」
 言いながら部屋の中へ入って行く。
「pcがスリープ状態ですね」と明子巡査。
「立ち上げてみな」と小林。
 電源ボタンを押す。パスワードは設定されていなかった。サインインすると
youtubeの画面だった。「Movie CLIP - Sayonara, RoboCop!」
「再生してみな」と小林。
 再生してみると、ロボコップの頭上に鉄骨が落ちるシーンだった。
「ガイシャは、これをやったのか?」と小林。
「多分、そうですよ」と明子巡査。
「何で?」
「分かりません」

 ニューハーフリブレ高田馬場に向かう途中、池袋署の近所で、明子巡査が言った。
「ロサ会館のツタヤに寄って下さい」
「何で」と加藤
「「ロボコップ」を借りて行くんですよ」
「なんでそんなもの」
「よく観たいんです」
 TSUTAYA池袋ロサ店に立ち寄って、「ロボコップ」を借りると、警察車両
はリブレ高田馬場に向かった。
 店のあるマンションに到着すると、表のオートロックから「池袋署のものだ、ち
ょっと聞きたい事が」と言う。
 504室のカウンターまで行くと、巨漢オカマと対峙した
「あら、なんですの」と巨漢オカマ。「うちはいわゆる本番行為はやっていないお
店なんですよ」
「そういうんで来たんじゃないんだよ。生活安全課じゃないんだ、刑事課だ。おた
くの客の一人が事故で亡くなったんだ。その事でおたくの風俗嬢に聞きたいんだよ」
「まあ、玄関に突っ立っていてもなんなんで、じゃあ、あがります?」
「じゃ、あがらせてもらうよ」
 刑事3人は、リビングに上がり込む。
「この向こうに女がいるの?」小林は引き戸を指して聞いた。
「そうよ」と巨漢オカマ。
「話しを聞きたいから、全員出てきてもらえないかなあ」
「しょうがないわねえ」
 言うとオカマは引き戸をあけて中のトラニーに言った。
「みんな、ちょっとでておいで」
 トラニー6人が引き戸の前に勢揃いした。
「こりゃあすごいなあ、完璧な女だな」小林はにやけた。
「そうですかぁ。よく見れば男っぽいのもいますよ」と明子巡査が小林に小声で言
った。「そんな事より、誰がガイシャに「ロボコップ」のシーンをインストールし
たか調べないと」
「ああ」
「誰がやったか私に突き止めさせて下さい」
「そうだな、臨床心理士だものな」

「じゃあ、みなさーん」明子巡査は引き戸の前に立っているトラニー6人に言った
。「何が起こったのか説明します。
 みなさんのお客さんが一人が勤務先マンションの足場の下敷きになって亡くなり
ました。
 自分で足場を揺らして倒壊させたそうです。
 しかも、ここでのプレイの最中に後催眠をかけられてそうやったって噂です。
 そんな事、あり得ると思いますかー?」
「え、なんのこと」などいいながら、トラニー達は顔を見合わせている
「じゃあ、何が起こったのかを最初っから私が説明します。
その前に、みなさんの荷物をもってきて、このテーブルの上において」
「え、荷物?」
「カバンの事?」
「そうじゃなくて、プレイの時に使う道具とか」
「そんなもの…」
 トラニー達は、指図を仰ぐように巨漢オカマの方を見た」
「いいから、もってらっしゃい」と巨漢オカマ。
 トラニー達は和室に入ると、トートバッグに入った商売道具をもってきた。
「はい、ここに並べて、ここに」と、明子巡査は「ロボコップ」のDVDを持った
手でテーブルを指図した。「ここに置いたら、どっか適当なところに座って。話は
長くなるかも知れないから」
 トラニー達はソファーやひじ掛けやカーペットの上に座った。
 明子巡査はDVDでトートバッグをつつくと中身ちチラ見した。
「これは何?」と、SODのローションをつつく。
「ローションよ。男のアナルに塗るのよ、はっ、ははっ」とトラニーの一人が冷や
かす様に笑った。
「う”ん、う”−ん」と咳払いをしてから、全員の前で明子巡査は言う。
「それじゃあ、これから何が起こったかを説明します。
 何で自分で足場を崩したか。自殺ですが。「死への欲動」とも言いますが。
 それと同時になんであの人は肛門性愛者なのか。
 あと、何故トラニーが好きだったのか。つまり、何故ペニス羨望があったのか。
 つまり、一つは、「死への欲動」、
 もう一つは「肛門性愛」、
 そして、もう一つの謎は、ペニス羨望、トラニーが好きな理由、
 この3つについての謎解きですね。
 この3つを謎と思わないんだったら、この謎解きを聞いてもつまらないけど」




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 続き #594 あるトラニーチェイサーの死5    朝霧三郎
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