AWC メイドロボット VS ニンジャ 4 つきかげ


        
#373/598 ●長編    *** コメント #372 ***
★タイトル (CWM     )  10/10/05  23:49  (344)
メイドロボット VS ニンジャ 4 つきかげ
★内容
百鬼はメイドロボットが立ち上がるのを見た。
自分に向かってゆっくりと歩いてくる。
百鬼は身を起こし、膝をつく。
手の中には錐刀がある。
一投で決めなければならない。
ふわりと重力を失ったようにメイドロボットが宙に舞う。
着地すると同時に、錐刀を投じた。
左目に突き刺さる。
メイドロボットの動きが止まった。
幾度か痙攣し、そして再び口を開く。
「亜川くん」
百鬼はなぜかその言葉に戦慄を覚える。
まるで、現実が溶解し流れさってゆくかのような恐怖。
「夢は終わるのかしら。これが夢なのかしら」
メイドロボットの手に、左目から抜いた錐刀がある。
メイドロボットは構えた。
避けなければと、百鬼は思うが。
メイドロボットの速度よりはやく逃れられるとは思わない。
「亜川くん、おはよう」
そう言ったとき、メイドロボットは唐突に停止した。
百鬼は溜息をつく。
なぜか生き延びることができた。
あと10秒動いていれば、間違いなく百鬼は死んでいた。

「活動限界です」
ヴォルグの声に、大佐は頷く。
「ニンジャボーイは10分生き延びたのか?」
「MD1から送られた最後の識別信号では、対象は生きていることになっ
ています」
「悪運が強いな、ニンジャボーイ」
大佐は溜息をついた。

「おい、どうなっている」
花世木が苛立ちの声を大佐にかける。
「MD1がやられてもう打つ手がないというんじゃないだろうな」
大佐は、凶悪な目で花世木を見る。
花世木は少したじろいだが、その殺気のこもった目を見つめ返す。
「MD1は基本的には時間稼ぎだ。やられる気は無かったのは確かだが。
確実性はひとの兵士より薄い。所詮ロボットだからな」
「だったらどうしようと言うんだ」
「もう少し、時間をひきのばせよ。花世木」
「いいかげんに」
その時、2台の黒いワンボックスカーが現場に入り込んできた。
花世木は舌打ちする。
「おい、何事だ」
黒服が、花世木に声をかける。
「王が、来ました。社長が拉致られたのを聞きつけたらしく」
花世木の表情が曇る。
ワンボックスカーから屈強の男たちが降りてきた。
皆、ジャケットを羽織っているが、その下には対刃対弾アーマーを着込ん
でいるようだ。
腰に大型拳銃とコンバットナイフを提げている。
男たちの後から、長身の男が姿を現す。
ビジネスマンのような七三分けの髪型の似合わない、分厚い身体の持ち主である。
そして表情が豊かな、濃い顔立ちをしていた。
花世木を見つけると、満面の笑みを浮かべる。
「花世木、助けに来たよ、わたしたち」
「王大人」
花世木は苦渋に満ちた顔になったが、王は気にせずにこやかな表情のまま
花世木に歩みよる。
大佐たちは、無表情のまま見物するつもりのようだ。
「やっかいな男に狙われたものね。よりによって」
花世木は、眉をあげる。
「やっかいな男? 何かご存知なのですか?」
「もちろんよ。ハンドレッド・デーモン」
大佐の表情が、少し強張る。
王は、大げさに顔をしかめた。
「指輪物語の映画あるよね。あれに出てくる王子が自分の国取り戻すの
に、幽鬼の軍勢をひきつれて戻ってくる」
王は、やれやれと首をふる。
「あれみたいな感じよ。ルワンダ、ダルフール。我が国の特殊部隊は何度
も酷い目にあったね。まるで。百の幽鬼に襲われたみたいに」
王は、オーバーアクションで語り続ける。
「音も無く忍び寄り、静かに斬る。百もの幽鬼が襲いかかってきたよう
に、兵たちが斬り殺される。わたしたち、こう呼んでたね。百鬼と」
「百鬼」
花世木は、繰り返す。
王は、うんうんと何度も頷いた。
「なぜか、刀というアナクロ武器がすきね、百鬼は。でも、よかったよ。
わたしたち、百鬼を追い詰めた」
「追い詰めた?」
花世木は困惑した声を出すが、王はにこやかな笑みでかえす。
「人質をとって立てこもるなんて、馬鹿なことしたものね。幽霊は神出鬼
没だから恐ろしいのに。袋の鼠に自分からなってくれれば、恐くないね」
花世木は少し皮肉な笑みを見せた。
「では、王大人なら、その百鬼というテロリストを殺せると」
「もちろんよ、花世木。簡単なことね」
大佐が背後でむっとなるのを感じたが、花世木は気にせず言った。
「どうやるおつもりですか?」
「正面から行けばいいよ、どうか斬らせてくださいねと」
大佐の怒気が殺気に近づいているが、無視することにする。
「斬らせてはくれんでしょう」
「もちろんよ。斬られるのはこっちね。でも、相手はたったひとりで人質
いるから逃げれない。日本刀なんて、せいぜい10人斬れば血脂でなまく
らになるね。そこをやればいいよ」
さすがに、正気の発言とは思えなかった。
10人差し出して斬らせると言っているのか、この男は、と呆れ顔で花世
木は王を見る。
王は気にせず、にいっと笑って背後の男たちを示す。
「15人用意したよ。こいつらを斬らせる。そして、わたし、とどめさす
よ」
「本気なのですか、王大人」
「一人二百万で売る。安いね。困ったときお互い様と日本ではいう。いい
言葉。だから安くしとく。どうね?」
花世木は、王を睨みつけた。
王は、うふふと笑い返す。
「判りましたが、即金は無理です。支払いに時間をください」
「決まりね。一筆書いて。ここにサインよ」
花世木は、唸る。
手回しがよすぎるし、やることがふざけすぎていた。
しかし、花世木には選択の余地がない。
花世木は差し出された紙にサインした。
「ありがとう、花世木。では行ってくるね。これは大変なチャンスね。百
鬼を殺したとなれば、懸賞金でるよ、国から」
あははと笑いながら、王は自分自身も鞘に納まった長剣を手に取ると、建
物へ向かう。
15人の男たちがそれに続く。
大佐は肩を竦めた。
「あの馬鹿、斬られるぞ」
ロシア語でヴォルグに囁きかける。
ヴォルグは苦笑した。
「いいじゃないですか。少しでも弱めておいてもらいましょう。ボカノウ
スキーたちがつく前に」
大佐は鼻をならす。

唐突に扉が開き、四門は、外へ引き摺り出される。
四門は、フロアの床に座り込んだ。
百鬼は、酷く消耗した顔をしている。
「悪かったな、狭いところに閉じ込めて」
四門は苦笑した。
「悪いと思うなら、解放しろよ」
「残念だが、それは無理だ」
百鬼は、いつものように無表情だが、しかしその顔は幽鬼にとり憑かれた
ようにくらい。
心なしか、肩で息をしているかのように見える。
四門は車椅子に戻されることなく、フロアに座らされたままだ。
百鬼はバッグからプラスチックケースを取り出すと、カプセルの錠剤を取
り出し飲む。
四門の視線に気がついたらしく、ケースを四門に差し出してみせる。
「ただのアンフェタミンと、カフェインのカクテルだ。あんたもやる
か?」
「ただのだと? 結構だ」
百鬼は少し肩を竦めると、ケースをバッグへ戻す。
そして、バッグの底にある蓋をはずし、中から細長い棒状のものを取り出
した。
革の鞘に納まった日本刀である。
ただ、柄がついてない。
百鬼は、バッグの中からラバーグリップとなった柄を取り出す。
日本刀に、手早くグリップを取り付けると、革製の鞘から抜き放った。
蒼ざめた光が、闇の中に浮かび上がる。
四門は息を呑んだ。
「まさか、こいつを使うことになるとはな。まあ、こいつのほうが魔法は
使いよいのだが」
百鬼は、自嘲のような笑みを浮かべている。
「見ろ、美しいだろう」
百鬼は、四門のほうへ刀身をかざしてみせる。
確かに、さっきまで百鬼が使っていた無骨な刀と違い、優美な美しさが
あった。
それは、ひとを斬るという特化した目的に向かう機能性と、見事に融合し
た美しさである。
持つものの、心に魔を呼び込む類の美しさであった。
「村正だよ。いい刀だ。ひとを斬るのがおしいくらいだ」
百鬼の意外な言葉に、四門は苦笑する。
百鬼は、抜き身の刀を持ったまま立ち上がった。
「どうも、次の客が来たようだ」
百鬼はフロアの入り口に向かって、数歩踏み出す。
入り口から、屈強の男たちが入ってきた。
十人以上はいる。
そして、その男たちより頭ひとつ高い男が最後に入ってきた。
長身の男は、背が高いだけではなく身体が分厚い。
その身体に似合わぬ、七三分けのビジネスマン風ヘアースタイルだ。
やたら濃い顔に、笑みを浮かべている。
「はじめまして、百鬼。わたし、王いいますね」
百鬼は、四門と壁を背後に背負い、刀を正面に構える。
部屋に入ってきた男たちは、皆大きなコンバットナイフを持っていた。
ナイフとはいえ、刃渡りが50センチ近くはある鉈に近いものだ。
「あなたの噂はかねがね聞いてますね、百鬼。わたし、あなたの望み、
判ってるよ」
百鬼は無言のまま、刀を構えている。
その回りを8人のおとこたちが、半円状に囲んだ。
のこりの男たちは、王と名乗った男の回りに控えている。
「百鬼、あなた結局のところ、金とかそういうものは、どうでもいいと
思っているね。要は、斬りあいたい。それが望みよね」
王は、上機嫌に言葉を重ねる。
「それが?」
「斬りあいをさせてあげるね。わたしたち、あなたと果し合いしにきた」
「ほう」
百鬼は、笑みを見せた。
「好きにすればいい。斬りかかってくるなら、斬りふせるだけだ」
「簡単じゃないよ。わたしたち洪家拳の使い手ね。棒術を応用して剣も使
いこなす」
「だから?」
「一応、降伏するか聞いておくね」
「しないよ」
王は、嬉しそうに笑う。
「日本刀という武器の選択は、悪くないと思うね。室内の戦闘において
は、武器としては拳銃よりも合理的ではある。でも、長すぎるね。より有
効なのは、このナイフくらいの長さよ」
四人の男たちが間合いをつめ始める。
手には、コンバットナイフを構えていた。
殺気が闇の中に満ちてゆく。
漆黒の火花が散っているようだ。
唐突に、百鬼の身体から緊張感が消える。
百鬼は、携帯電話を取り出すと、ひとことふたこと話した。
「状況が変わった」
百鬼は殺気の消えた、落ち着いた表情で語る。
「話がついたようだ、人質は解放する。武器を収めろ。そうすれば、おれ
も刀を捨てる」
「残念ね」
悲しげな顔をする王に、百鬼は穏やかな笑みを見せると、突然地面に前の
めりに倒れる。
そのまま前転し、左側にいた男の足を斬った。
百鬼のフェイクを信用したわけではなかったろうが、虚をつかれた形に
なっている。
どすん、と足を残したまま、男は床に倒れた。
百鬼は刀を突き出すと、その男の頚動脈を斬る。
百鬼は、地面を這うような姿勢から右側の男へ向かう。
男が反射的に突き出したナイフを持った右手を斬り飛ばした。
血を振りまきながら、ナイフを持った右手が床に落ちる。
そのまま、上段から一気に斬り降ろす。
左半身が、身体から離れ左手が床に届いた。
血が放物線を描いて床に撒き散らされる。
その男が倒れるのを見届けないまま、背後から繰り出されるナイフを身を
屈めてかわすと、胴を薙いだ。
とんと、百鬼が下がるのを追うように腹から血が噴き出る。
切り口から別の生き物のように、ぞろりと内臓がはみ出てきた。
男は内臓の出た腹を押さえながら前に倒れる。
百鬼は無造作に移動しながら、右側の男へ間合いを詰めた。
薙ぎ払われるナイフをかわし、刀を横へ薙いだ。
顔面が真ん中で断ち切られ、目玉を収めた顔の上半分が床に落ちて跳ね
る。
百鬼は、そのまま後へ下がり刀を正眼に構えた。
その左右に死体がバリケードとして築かれた形となる。
百鬼の前に道ができていた。
ひとりづつしか通れない道が。
奇声をあげながら、ふたりの男が斬りこんでくるが、縦一列になってし
まっている。
百鬼は身を屈めて先頭の男のナイフをかわし、股間から肩口まで一気に斬
り上げた。
身体を両断した男の後ろから、ナイフが突き出される。
その腕を押さえると、頚動脈を裂く。
血を噴出しながら倒れる男を突き放し、また後に下がる。
左右から同時に男たちが死体のバリケードを越えて切りかかった。
百鬼は右側の男が着地する瞬間に、その片足を薙ぐ。
倒れるところを突き飛ばし左側の男にぶつける。
男が、足を斬られた男にぶつかって体制を崩した隙をついて、首を斬りお
とした。
一瞬にして8人の男たちが斬られている。
百鬼の回りには、さらに高い死体のバリケードができた。
ひとりづつしか、近寄れない状態になっている。
足元は流された血で、かなり踏み込みにくくなっていた。
百鬼は四門を背にし、刀を正眼に構える。
その足元に何かが転がった。
スタングレネードである。
それが炸裂し、百鬼と四門は視界を失う。
雷鳴のような銃声がいくつも轟く。
四門は、必死で身を屈める。
銃声からすると、大口径マグナム弾のようだ。
着弾すれば、アーマーを貫通しなくても骨が砕ける。
百鬼は死体を盾にして間合いを詰めていた。
正面にいる男に死体を当てて、そのまま首を跳ねる。
左側にいる男を袈裟懸けに斬ると、そのまま刀を車に回して右側の男の頚
動脈を裂く。
最後に残った男が撃つマグナムをサイドステップでかわし、一瞬にして間
合いをつめる。
縮地であった。
銃を持った腕を斬り飛ばし、上段から斬り降ろす。
刀は右肩から入ると胸を裂き、左腋から抜けた。
さすがにもう、身体を両断することはできないようだ。
傷口から血を噴出しながら、男は倒れる。
「だいぶ、お疲れのようね。百鬼、あなたもあなたの刀も」
王はそう言うと、抜き放った直刀の長剣を百鬼に向けた。
分厚く丈夫そうな鉄の塊みたいな剣だ。
百鬼は、正眼に刀を構える。
明らかに、肩で息をしていた。
さすがに、疲労はピークになっているようだ。
「わたしとあなたは多分同類ね」
王は、剣を構えたまま語る。
「わたし、10代のころ非合法の賭博格闘技の選手だった。金持ちが金
を、殺し合いに賭けるゲームね。わたし、そのゲームでチャンピオンだっ
た」
王は、百鬼の様子を見ている。
疲労した状態がフェイクなのか判断しかねているようでもあった。
「そこで金持ちに気に入られ、用心棒として雇われて、手柄をあげて。幇
の幹部としてとりたてられた。でも、自分の全力の技は使ったことない
よ。それはあなたも同じね、百鬼」
王も百鬼も動かない。
四門から見て、王の構えは見事なものに見える。
疲労している百鬼とそう力の差はないかもしれない。
ただ、どちらも動けないのはおそらく、先に動いたほうが不利であるから
なのだろう。
「あなたも、自分の持つ技全てを使いたいね。自分の血肉に刻まれている
殺人の技術を全て解放したい、そう思っているね。それは、わたしも同
じ。わたしたちは、同じ種類の人間ね」
王は、にいっと顔を笑みで崩した。
百鬼は無表情のままだ。
突然、王が裂帛の気合を放つ。
がくん、と百鬼の頭が後へ仰け反る。
百歩神拳と呼ばれる技だ。
相手を倒すほどの力は無いが、ジャブ程度の威力はありそうだ。
百鬼の視線が王からそれた瞬間、王が間合いを詰めていた。
縮地である。
百鬼と同じ技を王も使っていた。
王は、気合を放ち上段から剣を叩きつける。
おそらく、刀で受ければその刀をへし折って、そのまま百鬼の頭を割るつ
もりだ。
百鬼は無造作にその剣を左手でつまんでとめた。
凄まじい速度で振り下ろされた長剣は、ひょいとつきだされた百鬼の左手
の人差し指と親指に摘まれて止まる。
いや、そうではない。
王の身体が金縛りにあったように止まっていた。
百鬼は摘んだ剣を脇によけると、刀を王の首筋に押し当ててひく。
さすがに頚動脈を裂くことはできたようだ。
血が噴出する。
王は硬直状態にあった。
動くことができないようだ。
「残念だな」
百鬼は、溜息まじりにつまらなそうに言った。
「おれは10代のころ、ポルポトの支配するカンボジアにいた。生きるこ
とは斬ることだった。あのころからな」
唐突に王の身体の硬直がとけ、膝をつく。
「馬鹿な」
王はかろうじて言葉を紡いだ。
「そうか、刀を気の増幅装置として使い、脳を揺さぶるのか」
「心の一法。二階堂流の魔法だよ」
王は、そのまま崩れおちる。
「あんたのはまあ、エリートの趣味としてはいいところにいってたんだが
な」
百鬼はそう呟くと、四門のところへ戻る。
「あれが魔法か」
四門は呆然と呟く。
あきらかに、百鬼は死ぬはずだった。
理解できないことがおこっている。
「まあね。宮本武蔵が恐れて逃げ出した技、心の一法。気を刀の光にのせ
て放つ。目から入った気は脳神経を一時的に麻痺させる」
四門は、溜息をついた。
説明を聞いても理解できるものではない。
百鬼は、疲れたようで腰を下ろすと熱心に刀の血脂を拭い始めた。
「松山主水は、大名行列を見物にきたひとびと全員を金縛りにしたと公式
文書に記録されているがな。おれのはとてもそこには及ばん。まず、全員
がおれと刀に注目してくれないことには無理だ。だからああいうふうに一
対一にしてくれれば助かるんだが」
やれやれと、百鬼は溜息をついた。
「おれもまだまだだよ」




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