AWC お題>双子>そばにいるだけで 〜 ツインズ 〜 2   寺嶋公香


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#144/598 ●長編
★タイトル (AZA     )  03/04/09  01:26  (321)
お題>双子>そばにいるだけで 〜 ツインズ 〜 2   寺嶋公香
★内容                                         04/04/11 11:07 修正 第2版
 最初に聞いた二時間弱という約束はどこへやら、純子が“風谷美羽”からや
っと解放されたのは、相羽達と一旦別れて約三時間十五分後のことだった。
「涼原さん、遅いわよ」
 白沼につっけんどんな調子で迎えられ、既に疲労がたまり始めていた純子を、
さらに疲れさせる。
「お疲れ様」
 相羽はさすがに嬉しそうだ。白沼の目のある状況だからか、普段に比べると
少し遠慮がちだが、それでもその笑顔に、純子は随分回復する。
「ありがと。ああ、お腹空いちゃった」
 双子の疑念もこのときばかりは忘れて、本音が出る。
「それじゃあ、どこかで……と言っても、今日は食べ物関係のスタンドは全部
閉まっているから、外に出ようか」
「何を言うの」
 白沼から横槍。相羽のことはあきらめたけれど、純子と相羽の仲を邪魔をす
るのが楽しい……そんな風に見るのは、穿ちすぎだろうか。
「貸し切りなんて、私でも滅多に味わえない、貴重なシチュエーションなのよ。
このチャンスを逃すなんて、ばかみたい。目一杯遊ぶわよ」
「え」
 白沼に手を引かれて、純子は慌てた。心構えができていなくて、足がもつれ
そうになる。
「動いてるのが普段の半分なのが、玉に瑕よね。でも、全部回れると考えれば
いいのよ」
「ちょ、ちょっと待って。付き合うから。落ち着かせて」
「あ、そう」
 ぴたりとストップする白沼。おかげでぶつかりそうになったが、腕を放して
もらったので、どうにか避けられた。
 まだふらふらする純子に、相羽が手を貸し、支える。
「白沼さん。僕もお腹が空いてきたな。自販機の食べ物でいいから、みんなで
休憩しない?」
「ついさっき、クレープを……。あ、そういうこと。ま、いいわ」
 白沼はこれ見よがしに息をつくと、くるりと音がしそうなターンをして、自
動販売機のコーナーに向かう。
 途中、振り返って、純子達に条件を突きつける。
「食べ終わったら、付き合ってもらうからね! ほら、ぐずぐずしない! 時
間がもったいないでしょうが」
「はいはい」
 声を揃えて応じ、早足で着いていく。
「白沼さんて何だか、町田さんに似てきたなあ。そう思わない?」
 相羽に小声で尋ねられて、純子は吹き出すのを懸命にこらえた。同じことを
考えていたのだ。
 吹き出すのを我慢できたあと、今度はにんまりしてしまう。相羽と同感だっ
たというだけで、やけに嬉しい。白沼に見つかって、やいやい言われたくない
ので、これも我慢我慢。
 別の話題を探そうとして、すぐに見つかった。双子の件をはっきりさせよう。
白沼の聞いていないときに済ませるのがよいだろうし。
「あのね、相羽君。おかしなことを聞くようだけ――」
「ほんと、遅いわね! いちゃいちゃもほどほどにしてほしいわ」
 白沼の金切り声が被さった。
 純子と相羽は顔を見合わせ、ともに早足から駆け足になった。

(結局、聞けなかった……)
 テラ=スクエアの敷地内から外に出た途端、仕事疲れに遊び疲れ、さらに気
疲れでがっくりと来た純子だった。
 駐車場までの道すがら、隣では、相羽と白沼が言葉を交わす。
「白沼さんがあんなにはしゃぐのって、初めて見たよ」
「声を出してないと、恐いから……というのは、う、そ」
 人差し指で突っつくような仕種をした白沼は、楽しげに笑い声を立てた。
「あなた達を黙ってみていたら、気分がくさくさしそうになるものね。分かっ
てくれる? 私のこの涙ぐましい努力を」
「分かるよ。ありがとう」
 相羽の答を聞いて、純子は理由もなく、少々腹が立った。強いて理由を言い
表すとしたら、「私にもかまってよ」ぐらいか。
「でも」
 そう続けた相羽が顔を向けてきた。純子が反応する間もなく、距離を詰めて
きた。
「僕はじゅ……涼原さんが疲れていないか、そっちの方がもっと気になる。何
しろ、ハードな仕事とハードな遊びを立て続けにこなしたんだからね」
「わ、私は大丈夫!」
 肩を抱こうとしてる? そんな風に察した純子は、慌てて元気を出した。
(相羽君と接近できるのはいいんだけれど、白沼さんの前では、やっぱりでき
ないーっ!)
 そんな純子の心を読んだかのように、白沼が呆れ口調で言う。
「どうぞ、思う存分に労ってあげて。だって、これから、テラ=スクエアのた
めに一生懸命働いてもらわなくちゃいけないものね」
 そう来たか。
 純子は苦笑するのにも疲れた。
 お喋りを重ねる内に、広い駐車場を横切り、相羽の母の車のところにたどり
着いた。純子らが遊んでいる間、大人達は契約面で最後の詰めをしていたとか
で、そんな仕事の話も終わったという連絡を携帯電話にもらい、こうしてお開
きになった経緯がある。
 助手席のドアが開き、相羽の母が姿を見せた。
「どうだった? 危なくなかったわね?」
 今このときばかりは、母親の顔になって言う。相羽信一にとってだけでなく、
純子にも白沼にも。
「平気だったよ。途中で工事も終わったしさ」
 相羽に続いて、白沼が慣れた物腰で、仕事での礼を述べる。
「本日はこちらまでご足労いただき、ありがとうございました。父もよい話が
でき、喜んでいることと思います」
「こちらこそ。よろしくお伝えしてね、白沼さん。とりあえず半年間、よいお
付き合いができそうだわ」
「はい。私自身、とても楽しみにしています」
 白沼は頭を下げ、その瞬間、純子を一瞥した。お手並み拝見という風に物語
っている。
 彼女のそつのない応対ぶりプラス豹変ぶりに、じっと見とれていた純子は、
どきりとして、無意識の内に胸元に片手を当てる。だが、負けてはいられない。
「ええ。すごくいいものをみんなで作り上げてみせるから、期待していてね」
 力強く宣言する。白沼は目つきだけ驚いたが、そんなかすかな表情はすぐに
霧散して、頼もしそうに頷いた。
「私、風谷美羽のことは好きなのよ」
 微妙なアクセントで白沼がそう言った。
 エールと受け取ることにしよう。

 杉本の運転で、助手席に相羽の母、その後ろに相羽が座り、純子は当然、彼
氏の隣。いつでももたれ掛かって、眠れる距離だ。実際、疲れているから、す
ぐにでも眠れそう。
 だが、純子には起きていたい理由があった。
(チャンスがあれば、双子のことを聞いてみよう)
 話題の推移を見守り、機会を窺う。今は、杉本が市川の意見を代弁している
最中だった。
「皆さんの前ではあまり言いませんが、市川さんもあれで案外、よそさまのタ
レントと比較しているんですよ。そうして、特色を出そうと戦略を練ってます」
「どんな人達を純子ちゃんのライバルと見ているのかしら」
 前方を見据えたまま、相羽の母が尋ねた。自分と市川との考え方の差を再認
識しておこう、そんな感じの問い掛けである。
「そうですねえ、大きく分けて二通りあります。一つは、今人気のある子。も
う一つは、純子ちゃんと似たタイプの子」
「理にかなってる」
 納得した様子で、軽くうなずく相羽の母。杉本は調子の波に乗って、いつも
以上に饒舌になった。
「この内、似たタイプっていうのは、案外いません。市川さんに言わせれば、
まだ風谷美羽のスタイルが固まっていないから、逆に、似ているのを探すのが
困難だってことになるんですけど」
「確かに。むしろ、久住淳の場合で、考察しないといけないわ」
「ええ、ええ。そうなんです。でも、久住なら充分に個性的で、これまた似た
タイプってのにはお目にかかれない。そうすると重点的に検討する対象は、今
人気のある子達となりまして」
「具体的に、誰を想定してるのかしら」
「筆頭は加倉井舞ですよ、やはり。歌唱力があって、演技力はさらに実力があ
って、高い人気を長く維持している。しかも同年齢と来たもんです。バラエテ
ィ系への露出も程良くて、お手本にしたくなるわとこぼしてました」
「人まねが嫌いだったわね」
 くすくす笑う相羽の母。市川との付き合いが長いだけに、互いにその性格や
好みをよく分かっているのだろう。
「放映中の連続ドラマ、何と言ったかしら。あれも大変な視聴率を稼いでいる
と耳にしたわ」
「『ダブル・ディーラー』です。僕は、全ては観ていませんが、物語そのもの
も面白いんだそうで」
「僕は面白く観てる」
 相羽が口を挟んだ。意外に感じた純子が、輪に加わる。
「観てるんだ?」
「色んな伏線らしき物が散りばめられて、謎解きの要素があるからね。純子ち
ゃんは観てないの?」
「うん。一度しか観てない。マコ……結城さんが、いいって言ってたから、観
ようとしてたんだけど、最初の二回をとばしちゃって」
「じゃ、あらすじを」
 話の輪は、じきに二つに分かれたようだ。相羽が前回までの展開を手短に語
る。純子も友達から教えられ、話の流れをある程度掴んでいるつもりだったが、
相羽の説明を聞いて、よりすっきりした。うまくまとめられており、分かり易
い。
「――私ね、初めて観たとき、加倉井さんが二役を務めているのが分からなく
て、混乱した」
「それは、加倉井さんが明日香と今日子を演じ分けられていないと?」
「ち、違うって。演技じゃなく、外見のことを言ってるの。だから、双子じゃ
なく、二重人格かなって思ってた」
 そういえばこれも双子の物語なんだわと改めて意識する純子。この分なら、
双子の件を聞くのに苦労しないですみそう。
「ああ、二重人格、多重人格の線は、まだ残っているかもしれない」
「え? どういう意味?」
「これまでの放映では、明日香と今日子が同じシーンに出て来ることはなかっ
たんだ。双子だと見せて実は……っていう仕掛けかもね」
「そんなあ。生き別れの姉妹の方が盛り上がる。最終回に向けて、感動を呼ぶ
のは双子よ、絶対――」
「王道、常道を行くのなら、そうだろうなあ。でも、意外性も捨てがたい。気
になるのなら、君から加倉井さんに聞いて、教えてもらったら?」
「……」
 相羽の台詞は、純子の耳をほぼ素通りしていた。その代わり、目は相羽の顔
をまじまじと見つめている。
(双子のこと、聞こうと思ったけど、これまで隠してきた理由が、何か悲しい
ことや嫌なことにつながっているんだとしたら、聞けない)
「どうしたの?」
 相羽の声のトーンが変わり、音量も小さくなる。これで、前のシートにいる
二人には聞こえまい。
(それに、そう。相羽君は、お父さんのことを自分からは話さなかった。双子
のお兄さんか弟さんがいたとして、それを積極的に言おうとしないのは、やっ
ぱり何かあるんだわ。今日は笑顔で会っていたみたいだけれど)
「――え?」
 うつむいて、吐息をこぼした純子の両二の腕に、相羽が手を添えた。
「やっぱり、相当に疲れてるみたいだ。大丈夫か?」
「あ、ごめんなさい。私、ぼーっとしちゃってた? 平気平気」
「加倉井さんの名前を出して、怒ったのかと思ったよ」
「そんなんじゃないわ。第一、どうして私が加倉井さんの名前を聞いただけで、
怒らなくちゃいけないの」
 これまでとは違う方向に話を持って行き、心を落ち着けようとする純子。
「あんまり、仲良しには見えなかったけど?」
「ううん。最初の頃だけ。今は友達……かな。時折、電話やメールでやり取り
してる」
「へえ、知らなかった。分かんないな、女同士って」
「それがね、いっつも、せっつかれてばかりなの。『モデルばっかりしてない、
ドラマに戻って来なさい。しごいてあげるから』とかどうとか。私はモデルが
本分だと思ってるのに」
 前に向き直り、お手上げのポーズ。相羽は思い出した口ぶりで言った。
「どちらかと言えば、久住としての方が、加倉井さんとは親しいんじゃなかっ
たっけ? 一緒に仕事をした時間も長いはず」
「久住は電話番号もメールアドレスも秘密だもの。仕事の場でしか、顔を合わ
すことがないから、なかなか付き合いが続かなくて」
「ふうん。じゃあ、一緒に食事した星崎譲は別格か」
 相羽の言い方にすねたような響きを感じ取って、純子は急いで否定した。
「そ、そんなことないよー。あれは断りきれなかっただけ。市川さんが勝手に。
だいたい、星崎さんは私を男と思ってるんだから」
 必死の様相がおかしかったらしく、相羽は口元に拳を当てて、声を殺して笑
っていた。
「もうっ……。あなたこそ、今日は白沼さんと二人でデートができて、大変楽
しかったんじゃない? 私がお仕事してる間にね」
 逆襲を試みる。本心からの台詞じゃないことは、断るまでもない。
 相羽は顎に手をやり、わざとらしく考え込むと、やがて応じた。
「“大変”だったのは認める」
「――」
 肩を震わせてがんばってみたものの、こらえきれず、爆笑してしまった。さ
すがに、相羽の母も杉本も、何事かと振り返る。そこを、「杉本さんは運転に
集中!」と相羽が警告。
「分かったよ。運転の腕、信用されてないからなあ」
 杉本は運転に専心し始めたが、相羽の母は依然としてこちらに顔を向けてい
る。
「遊園地の中で、危ないことは本当になかったわね?」
 こんな問い掛けが出て来るということは、子供達の会話を断片的にでも聞い
ていたらしい。
「何度も言うけど、危なくはなかったよ。工事中のところは運転していないん
だから、近付いても意味がない。最初にちょっと見ただけで充分。白沼さんだ
って、ちゃんと心得ていたし」
「それならいいけれど。その白沼さんとは、何か話したの?」
 母が息子にした質問。これは純子も知りたいところだ。聞き耳を立てるだけ
ではすまず、相羽の表情にも注目した。
「別に……また一緒のクラスになれてよかったとか、次の仕事のときもお母さ
んに着いて来なさいよとか」
「一方的に喋られておしまい? 会話が成り立ってないみたい」
「そういうわけじゃないけれど、こっちから話すことなんてないし」
 つまらなそうに言うと、相羽はこの日初めて疲れた様子を垣間見せた。
 純子はもう少し探ってみることにする。
「でも、一緒に色んな物に乗ったり、お化け屋敷に入ったりしたんでしょう? 
お喋りしなくても、遊ぶことはできるんだから」
「そりゃまあ。でも、お化け屋敷には入ってない。閉まってた。やっていたと
しても、入らなかっただろうけどね」
「そお?」
「純子ちゃんとなら入る」
「……」
 こういう相羽の台詞には、いつも一瞬、沈黙させられてしまう。しかも今の
は、母親同席の場での発言だから、なおさらだ。
「そうそう、面白い物があったよ」
 相羽は素知らぬ調子で続ける。踏切で車は一時停止した。
「まだ作り掛けだったけれど、基礎はできていたから、ちょっと覗いてみた。
君の仕事が終わったあと、もう一度行こうと思っていたのに、白沼さんのペー
スに乗せられて、行けなかった」
「先に白沼さんとは行ったのね」
 ささやかな逆襲パート2。と言っても、さっきとは違い、今度のは恥ずかし
さをごまかすため。
 相羽は貨物列車の通過を目で追いながら、何でもない口ぶりで答えた。
「いや。白沼さんが化粧室に行ったとき、僕一人で勝手に。……ほんと言うと、
純子ちゃんや母さんのことが気になってたから、少し覗くつもりで、建物の中
に入ったんだ」
「あ、あのときの」
 螺旋回廊を下っているときだ。
「やっぱり、気付かれていたのか。ちょうど、スロープみたいなところを降り
てくる母さん達が見えて、邪魔をしたらまずいと思ったから、急いで背を向け
たんだけどな」
 貨物列車がやっと通り過ぎて、遮断機が上がる。車の発進に合わせ、皆の身
体がわずかに揺れた。
 純子は、相羽自ら双子の話をしてくれるものと思い、神経を集中した。
「そうしたら、振り向いた目の前が、さっき言った“面白い物”。何ていう名
前か、まだ付いてないようだったけど、一種のマジックミラーだね、あれは」
「鏡?」
 怪訝さに瞬きの回数が多くなる純子。確かにあのときは、鏡ではないかと想
像したが、すぐに否定した。鏡なら、前に立った人が右手を挙げれば、鏡像の
方は左手を挙げるはず。
 そのことを口にする前に、相羽から答が示された。
「右側の物が向かって左に、左側の物が向かって右に映る仕掛けになっていた」
「え? どうやって?」
 相羽は手振りを交えて説明をした。
「原理は、普通の平面鏡二枚で、こう、直角を作るように並べる。これだけ。
その前に置いた物体の右側は、一旦は向かって右の鏡に当たり、左の鏡へ反射、
さらに反射されて、物体の左側に届く。つまり、右眼から出た光は左眼に届く
んだ。逆方向も成り立つから、普通の鏡と違って左右が入れ替わる。二枚の鏡
の境目を分からなくするには、技術が必要とかいう話を聞いたことがあるよう
な……」
「あ、あのね、相羽君」
 気が抜ける寸前ではあるが、純子は念押しすることに。
「その不思議な鏡の前に立って、右手で髪の毛を触った?」
「鏡の中の動きを見たくて、あれこれ試したから、そんなこともしたっけ。た
だ、右手かどうかまでは覚えてないよ」
「〜っ」
 がっくりときた。精神的に。ここ何日間かは否定しつつも気にし続け、いよ
いよ今日は双子の兄弟が現れた!?と焦ったのに……。
「な、何でそんなに落ち込む?」
 無意識の内に背を丸めてうつむいていた純子。その背中に相羽が手を添える。
 純子は勢いよく上体を起こし、声を大にして言った。
「落ち込んだんじゃなくて……ああー、また疲れることが重なった!って感じ。
――おばさま」
「え、なあに、純子ちゃん。話の背景がよく分からなくなってるのだけれど」
「いいんです。おばさま。信一君に双子の兄弟って、いませんよね?」
 純子の突然の問いに、相羽の母は目を丸くした。意図が分からない、そんな
様子だ。それでも分からないなりに、「ええ」と返答。
「信一は一人っ子よ」
「ですよね。あーあ、最初から聞けばよかった」
 両腕を突き上げ、大きく伸びをする。すかさず杉本から、「純子ちゃん、後
ろが見えにくい……」と注意された。
「あ、ごめんね、杉本さん。うふふ、悩みが解決して、すっきりしちゃった」
「悩み? もしかして、僕に双子の兄弟がいるっていう……?」
「うん」
「どうしてそんなことを考えたのさ。仕掛けのある鏡に映っただけで、いきな
り双子を思い付くものかな?」
「えっ? ああ、そうだわ。まだ完全には解決してないんだっけ」
 純子は、淡島の見聞きしたことを、相羽に話して聞かせた。
「――それで、唐沢君に『双子か』と言われて、肯定したんでしょ? ここだ
け聞いたら、信じてしまっても無理ないと思うんだけれどな」
「思い出した」
 笑いを忍ばせた口調で、相羽は言った。
「あのときだな。うん、勘違いするのも仕方がないってことにしておきますか。
ははは」
「笑ってないで、説明を早くして」
「そうだね。えっと……僕の誕生日、覚えてる?」
 脈絡なしに聞かれて、純子はもうすぐだわと思いながらも、口ではふてくさ
れ気味に応じた。
「当たり前じゃない。五月二十八日。関係あるのね?」
「まだぴんと来ない? うーん、男子より女子の方が関心の強い話題だと思う
のにな」
 もったいぶられて、純子は足を踏み鳴らした。
「もうー。早く教えてくれないと、家に着いちゃう!」
「分かった。大きなヒントを。純子ちゃんは天秤だよね」
「……あーっ!」
 純子のこれまでで一番の大声に、杉本がびくりとした。

――『そばにいるだけで 〜 ツインズ 〜 』おわり





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