AWC 本の感想>『貴族探偵VS女探偵』   永山


        
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★タイトル (AZA     )  16/10/29  21:00  ( 34)
本の感想>『貴族探偵VS女探偵』   永山
★内容
・『貴族探偵VS女探偵』(麻耶雄嵩 集英社)14/4451
 髭がトレードマークの貴族探偵は、自らは推理せず、召使いに推理させる名探偵。師
匠の教えを守って名探偵たらんとする高徳愛香との推理合戦?の数々を描いた連作短編
集。
 友人の山荘を訪れた愛香は、因縁の語り継がれる古井戸にて、友人と同じゼミ仲間が
殺される事件に遭遇。居合わせた人物の一人を犯人と指摘するが、その男こそ貴族探偵
だった(「白きを見れば」)。恋愛に関して奔放な依子には三人の恋人がおり、全員が
依子の別荘に揃った晩、一人が殺され、一人に疑いが。依頼を受けた愛香が示した犯人
は、またも貴族探偵(「色に出でにけり」)。知り合いの誘いで、光キノコを見に大学
の研究室を訪れた愛香は、貴族探偵と出くわす。時間を潰していると、給湯室横の控室
で、大学院生の一人が殺害され、否応なしに事件に巻き込まれることに(「むべ山風
を」)。

 貴族探偵シリーズの第二弾ということで、期待したんですが、もう一歩だったかな
あ。今回は、連作物として作者自らが課した(はずの)制約が非常にきつい。女探偵が
貴族探偵と同席し、事件が起きるというパターンはまあしょうがないとして、その後、
女探偵が(誤った)推理をし、その結果、貴族探偵が犯人とされ、そこから貴族探偵の
使用人が別の推理を展開し、犯人が捕まるという流れが、あまりにもきつい縛りになっ
てるような。実際、ワンパターン感が強くて、物語としてはさして楽しめない。せめ
て、女探偵が指摘する犯人が、貴族探偵以外でもかまわないのであれば、広がりができ
てよくなったんじゃないかしらん。
 多重解決が義務づけられているので、ロジックに重きを置いた作品集ではあるけれ
ど、そのロジックに所々甘さ・緩さが見受けられるのもマイナス。たとえば、最初を飾
る「白きを見れば」で、ボタンを落としたのが犯人の作為と決め付ける根拠がなく、偶
然落ちた可能性を排除し切れていないがために、作中では触れられなかった別の推理が
成り立ってしまう。
 本書の中で一番の作品、というか問題作は、「幣もとりあへず」でしょう。これをこ
の形式でフェアにやるのは無理だと思うんだけど。本作は少なくとも、登場人物に対す
るフェアプレーが担保されていない。
 と、色々書きましたが、意欲的な作品集であることは確かですし、最後の一編で落ち
が付けてあるのも、悪くない趣向。期待しすぎはよくないですが、一読の価値はあるで
しょう。

 ではでは。




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