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★タイトル (AZA ) 13/07/05 22:16 ( 37)
本の感想>『密室の如き籠るもの』 永山
★内容
映画「耳をすませば」を観ていると、書き込みを考える時間がどんどん減る。
てことで、本の感想を棚卸し。
・『密室の如き籠るもの』(三津田信三 講談社ノベルス)18/6552
袋小路にて若い娘が殺される事件が相次ぎ、容疑を掛けられた青年が自殺し
て一年が経つ頃、現場では怪異が頻繁に目撃されるようになっていた。青年の
霊の仕業か? そんな折、新たに若い女性が喉を切り裂かれる事件が。容疑者
はいるが、凶器が見つからない(「首切りの如き裂くもの」)。薬売りの少女
二人が立て続けに同じ場所を通ったにもかかわらず、一人は奇妙な家を目撃し、
もう一人は家などなかったという。もしや、人を喰らうために動き回る怪異<
迷家>が現れたのか(「迷家の如き動くもの」)。質屋を営む猪丸家の庭に、
一人の女が迷い込む。記憶喪失らしい彼女は、名を葦子という以外覚えていな
かった。葦子を気に入った主人は後妻として娶り、住まわせる。葦子は家事の
類は一切しなかったがやがて蔵座敷で<狐狗狸さん>を行うようになる。当た
ると評判になり、人が詰め掛けるようになるが、葦子には人ならぬ雰囲気があ
り、また蔵座敷には<赤箱>という代々伝わる開けてはならぬ箱があり、猪丸
家に嫁いできた嫁が相次いで死んだ場所でもあった。そして、噂を聞いた怪異
収集家の刀城が訪れた矢先、問題の蔵屋敷で密室殺人が起こった(「密室の如
き籠るもの」)。
ホラーと本格ミステリの融合した、四編からなる短編集。
下手にくっつけるとどちらもだめになりそうなホラーと本格ミステリを、絶
妙の配合で一つの作品にまとめ上げる作者の手腕が、遺憾なく発揮されていま
す。トリックだけを取り出せば、どうってことない物が多いのですが、それを
ホラーテイストでうまくカムフラージュしている。加えて、“ホラーと見せ掛
けてやっぱり現実的な事件でした”のパターン一辺倒だけでなく、“実はやっ
ぱり非日常的な現象が起きていた?”という余地を残すパターンを併せ持って
いるのは、大きな武器ですね。どちらに転ぶか分からないのは、読者にとって
もありがたい。
あと、本書の中で一番長い表題作では、ディクスン・カーや江戸川乱歩ばり
の密室講義が展開されますが、ほぼ全てが乱歩の分類をなぞった感があって、
蛇足に感じられます。それに密室講義があるおかげで、この作品の密室はこう
いう手口ではないかというのが想像できてしまうマイナスも考えられる。もう
少し短くまとめた方がよかった気がします。
この点を除けば、大変楽しめた短編集でした。
ではでは。