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★タイトル (AZA ) 12/07/26 21:02 ( 30)
本の感想>『白い花の舞い散る時間』 永山
★内容
・『白い花の舞い散る時間』(友桐夏 集英社コバルト文庫)12/3441
学習塾の生徒らだけが出入りできるチャット。そこで知り合ったアイリス、
シャドウ、ララ、ミスティー、ミズキ。互いの素性を知らなくても仲間意識を
強めていった彼ら?は、アイリスの発案で実際に会って五日間を過ごすことに
なった。場所は人里離れた山に建つ、曰くありげな洋館“ムラサキカン”。オ
フ会のあとも匿名性を維持できるよう、ムラサキカンでは別の名を割り振って
呼び合うことになった。ところが当日、姿を見せたのは四人だけ。来ていない
のは誰? そして話をする内に見えてくる、四人の共通性……。
集英社ロマン大賞佳作受賞のリリカルミステリー。
作者は数作発表後、しばらく沈黙を守っていたが、東京創元社から長編を今
年刊行する形で復活を遂げた模様。で、東京創元社がライトノベルのレーベル
から引っ張ってくる人って、ミステリとして何らかの光るものがあるに違いな
い。谷原秋桜子という前例もあるし。これは一つ、旧作を読んでみようと手に
取った次第。
リリカル・ミステリーと銘打っているけれども、少なくとも推理小説って感
じじゃなかった。確かに謎は提示され、一応解決を見るが、決定打がない。想
像を巡らせ、ちょっとありそうな仮説が正解とされる。手掛かりの提示も、館
に集まった四人の話によるものがメインで、裏付けに乏しい。それでもいわゆ
る“日常の謎”を解くタイプならいいんだけど、宗教を持ち出した大掛かりな
出来事だからそぐわない気がする。人の行動心理としておかしな点が多々あり、
それを宗教だからで済ませている。済ませるのはかまわないが、大元の宗教に
関する書き込み不足で、一向に実感を伴って迫ってこない。嘘くさいのである。
せめて作品冒頭で、これこれこういう宗教が流行りを見せて世間を少し騒がせ
つつある、みたいな導入をしておけば、唐突さは防げただろうに。
作風そのものは嫌ミスの趣か。悪くはない。<心地のよい後味の悪さ>には
到ってないものの、この路線で行くのなら期待してもよさそう。ただ、ミステ
リと銘打つからには、それなりの結構を用意してほしい。
ではでは。