#6321/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 10/10/10 20:57 ( 40)
叙述トリック>人外視点 永山
★内容
ミステリでは様々な叙述トリックが案出されてきました。読者に、登場人物
の性別を勘違いさせる、物語の時間軸を勘違いさせる、場所を勘違いさせる等
等。
人間以外の生き物(時には植物や無生物も)を、さも人間であるかのように
描くことで読者をだますというのも、その一つです。
これをさらに分類すると、人間以外の生き物を登場人物の一人のように客観
描写するものと、人間以外の生き物が視点者になり、一人称(もしくは極めて
一人称に近い三人称)で物語を綴るものとに分けられるでしょう。今回取り上
げたいのは後者で、ここでは便宜上、人外視点と呼ぶことにします。
人外視点の叙述トリックを用いた作品を、私も書いたことがあります。その
執筆時には無自覚だったある事柄について、迷うところがあるので、考えてみ
たいと思った次第。その事柄とは、フェア・アンフェアに関わる問題でして。
人外視点を取ることについて、読者の立場からいくつかの点で疑問が呈されて
いるのを、割とあとになって知りました。
話を進めやすいよう、視点者が犬だとします。
A.犬が人語を解するのはおかしい
B.犬が人語を解するとして……
B−1.犬は文字を書けないのだから描写などできない
B−2.犬が人間と同程度の思考をするのはおかしい
この内、B−1はさして問題になっていないと思います。記述者ならともか
く、視点者としてなら、文字が書けなくても一向にかまわない。
Aについては、私は問題ないと考えていた(というか意識すらしていなかっ
た)のですが、他の登場キャラクターは人間なので、人語を解さねば視点者に
なれない。厳密な公正さを求めるなら、何の説明もなしに犬が人語を解すると
するのは、飛躍があると見なされてもしょうがない。
となると、B−2も犬が人間らしい考え方をしたり、人間として教育を受け
たとしか思えない基礎知識を持っているのも、厳密にはフェアでないことにな
ります。
このような問題を抱える人外視点の叙述トリックを、厳密にフェアに成立さ
せるには、どんな手があるのか? 犬が人語を解するものだということを序盤
で示せばフェアになるが、それだと叙述トリックの仕掛けを早々に見破られる
恐れが極めて高い(明かさねばならぬことと隠さねばならぬことがほぼ重なっ
ているため、叙述トリックは実質不成立)。心理描写を排除し、人の言葉は耳
から聞こえた音をそのまま綴ったことにすればやはりフェアにはなっても、文
章がとてつもなく不自然になってしまう……。
てな訳で、何かいい方法はないかしらん?
ではでは。