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★タイトル (AZA ) 10/10/09 21:55 ( 31)
本の感想>『魔王の足跡』 永山
★内容
・『魔王の足跡』(ノーマン・ベロウ 著/武藤崇恵 訳 国書刊行会)
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英国の田舎町ウィンチャムに雪が降り込んだ翌朝、摩訶不思議な現象が人々
の前に出現する。点々と雪上に付いた蹄鉄の痕跡は獣を思わせたが、明らかに
二足歩行をしていた。その足跡は、道路上に突如として始まり、家々の玄関を
訪れ、生け垣の上に立ち、四阿を通り抜け、塀の上を進み、屋根に円を描いて
いた。最後に行き着いた木には、人間の死体がぶら下がり、足跡はそこで消え
ていた。
およそ一世紀前に英国の別の場所で起きた怪異を再現したかのような事件に、
ウィンチャムは大騒動となる。魔王の足跡としか思えない謎に、地元警察は翻
弄され、やがて次の事件が……。
幻の不可能犯罪派ノーマン・ベロウ、本邦初訳出。
とても魅力溢れる、ある意味愛らしい本格ミステリ。謎が素晴らしい。雪の
足跡自体はよくある設定で使い古された感があるけれど、ここまで徹底すると、
新たな輝きを放つんだなと感心させられた。
種明かしされてみると基本的なトリックが使われており、当時(一九五〇年)
ならでは、換言すると現代ではすぐに看破される類のもの。それを色々な装飾
や小技を効かせることにより、一時でも本当に魔王と足跡か?と思わせるだけ
のミステリに仕立てている。
反面、犯人が誰かは、かなり分かり易い位置付けかと。具体的な論拠はなく
ても、雰囲気で当たりが付いてしまうかも。加えて、名探偵役のランスロット・
カロラス・スミス警部が真相に辿り着く過程が、やや物足りない。もっと面白
く描けそう。
まあ、本書はそんなことは気にせずに、不可能味たっぷりの謎とその種明か
しを堪能すればよいのでしょう。
巻末解説には、スミス警部シリーズの他の長編四作が紹介されており、これ
またどれを取っても魅力いっぱいの不可能ミステリらしい。邦訳刊行してくれ
ないかなあ。
ではでは。