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★タイトル (AZA ) 09/04/29 01:04 ( 33)
本の感想>『虚空から現れた死』 永山
★内容
・『虚空から現れた死』(クレイトン・ロースン/白須清美 訳/森英俊 解説)
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奇術師ドン・ディアボロを控室に訪ねた女。地上五階の部屋に一人きりにし、
少し目を離した隙に、彼女は「コウモリ」云々と言い残して殺されてしまう。
閉まっていた窓は開けられ、そこから大きなコウモリが飛んで行った。被害者
の首には血を吸われたような痕跡が。さらには、コウモリの顔をした人間が目
撃され、謎は深まる。こんなことができるのは奇術師だけだと、警察から疑わ
れたディアボロは、姿を消して、真相を探る(「過去からよみがえった死」)。
警察署内の一室で、刑事が撃たれて死亡する。直後、銃声を聞き付けた上司
の警部が部屋に入るが、被害者以外に誰も見当たらない。にもかかわらず、警
部は何者かに声を掛けられ、ドアが勝手に開いた。現場には、“見えない男”
と署名されたメッセージが。その後も、透明人間の仕業としか思えぬ怪事件が
続発する。奇術師ディアボロと“見えない男”の対決(「見えない死」)。
クレイトン・ロースンが別名義で発表したマジック・ミステリ。
小説の下手さでは“定評”のあるロースンですが、これは他の作品に比べる
と、読みやすかった(あくまでも比較的)。冒険小説の色彩を強め、スピーデ
ィな展開を意識した結果、こうなったと言えそう。それでも余計な描写や言い
直し、つまらないジョークが目に着きますが。
二編ともパターンが同じで、不可解な事件が起こり、警部が「これは奇術師
ディアボロの仕業だ」と半ば決め付け、対するディアボロが潔白を証明するた
めに探偵をする――面白い設定だと思うのですが、あまりにも警部が短絡的で、
ギャグのようにも読める。これを長所とするか短所とするかは、見方が分かれ
そうです。
ミステリとしての中身は、これでもかとばかりに不可能状況を盛り込んで、
読者を楽しませてくれます。ミステリのトリックだけでなく、手品のトリック
も明かしてくれるサービス振り。
種明かしされるまでもなく、こいつしか犯人いないだろ的なところはありま
す(いみじくも、作中でディアボロによって言及されています)が、いかにも
ロースンらしい・黄金時代のミステリらしい謎とトリックのオンパレードは、
一読の価値ありでしょう。
ではでは。