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★タイトル (AZA ) 09/03/30 20:35 ( 27)
本の感想>『黄昏たゆたい美術館』 永山
★内容
・『黄昏たゆたい美術館』(柄刀一 実業之日本社)14/3551
カリスマ的な総合プロデューサーが転落死する。状況からは自殺と思われる
のだが、理由が見当たらない。唯一人の同居人である画家が鍵を握っている様
子だが、彼は他人とのコミュニケーションを苦手としていた(「神殺しのファ
ン・エイク」)。二十ヶ月も身籠もっているとされる女性の謎(「ユトリロの、
死衣と産衣」)。大学校内の一室で殺人が発生。被害者が特殊カメラを用いて
作品製作中であり、そのおかげで犯行の瞬間らしき映像が残されたが、そこに
映る人影は幻のようで……(「幻の棲む絵巻」)。個人の所有していた絵の中
に、ゴッホかゴーギャンの手による物と思われる作品が。ところがその科学的
証明をなした女性が、直後に服毒自殺?(「『ひまわり』の黄色い囁き」)。
以上四編に書き下ろしの表題作を加えた、美術ミステリ短編集。絵画修復士
御倉瞬介シリーズ第二弾。
前の作品集に比べると、本格味は薄まったものの、芸術関連のウェイトが重
くなったこれはこれで、シリーズとしての色合いがより鮮明になり、悪くあり
ません。
編中の白眉は、「『ひまわり』の黄色い囁き」でしょう。ゴッホとゴーギャ
ンにまつわる謎というのを、具体的に初めて知りました。それをこのように解
き明かす(解釈の一つを与える)一方で、現代の日本を舞台にした服毒死事件
についても、かなり力が入っています。構図は単純なんだけど、ある人物の台
詞にぞっとしました。
この一編が突出しているため、他は影が薄くなりがちですが、どれも及第点
の出来映え。「幻の棲む絵巻」は典型的なアリバイ崩しに、絵巻物についての
謎と解明を付加して効果を上げています。表題作は、ある程度は予想できる範
囲内で展開しますが、登場人物の一人がそうした理由に感嘆しました。
ではでは。