AWC 本の感想>『時を巡る肖像』   永山



#4512/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  07/10/01  23:34  ( 30)
本の感想>『時を巡る肖像』   永山
★内容                                         12/12/27 21:39 修正 第3版
 気楽に書け、かつ適度な分量で収まる雑談ネタがない……。
 ストックしてある数少ない自作の棚卸しも考えたけれど、結局、本の感想をば。

本の感想>『時を巡る肖像』(柄刀一 実業之日本社)14/4451
 見えすぎて疲れる――そう言って自らの目を突き、隻眼となった天才画家・
冷泉朋明の邸宅で、殺人が発生。犯行推定時刻の夜中に、冷泉の取った不可解
な行動が謎を深め、解く手掛かりになる(「ピカソの空白」)。母親殺しの疑
いを掛けられた娘に、虫の息の父が差し示した一枚の絵。一体何を意味するの
か(「遺影、『デルフトの眺望』」)。被害者は走る車の前に突然現れた? 
唯一の容疑者にはロープウェイに乗っていたというアリバイが(「デューラー
の瞳」)。
 絵画修復士・御倉瞬介が、その職務の過程で遭遇する六つの事件を収めた短
編集。

 絵画修復士が探偵役を務めるのは珍しい。少なくとも私は他に知りません。
 そして本書は、探偵の職業の新奇さを売りとするにとどまっていません。芸
術と芸術家をテーマに据えており、探偵役とテーマが調和している。この探偵
役でなければ解決が非常に困難なのでは、と思える事件もありました。
 冒頭の「ピカソの空白」にて、この短編集の方向性ははっきりと示され、私
はとても感嘆し、驚かされた次第。特に動機が……。
 それを踏まえて二本目に取り掛かり、途中で「よし、今度は分かったぞ」と
思ったのですが、これが大外れ。一本目の傾向から言って、当然触れられるべ
き点が触れられていない、そんな印象を受けました。
 あとは概ね、楽しめました。「モネの赤い睡蓮」は、なかなか事件が起きな
いので油断した結果、あからさまな手掛かりを見過ごしてしまい、悔しい思い
を味わいましたが(苦笑)。
 一見、地味なスタイルであるため、採点上は平凡になりましたが、作家の丹
念な仕事が感じられる、よい推理短編集です。

 ではでは。




#5432/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ    *** コメント #4512 ***
★タイトル (AZA     )  09/03/30  20:35  ( 27)
本の感想>『黄昏たゆたい美術館』   永山
★内容
・『黄昏たゆたい美術館』(柄刀一 実業之日本社)14/3551
 カリスマ的な総合プロデューサーが転落死する。状況からは自殺と思われる
のだが、理由が見当たらない。唯一人の同居人である画家が鍵を握っている様
子だが、彼は他人とのコミュニケーションを苦手としていた(「神殺しのファ
ン・エイク」)。二十ヶ月も身籠もっているとされる女性の謎(「ユトリロの、
死衣と産衣」)。大学校内の一室で殺人が発生。被害者が特殊カメラを用いて
作品製作中であり、そのおかげで犯行の瞬間らしき映像が残されたが、そこに
映る人影は幻のようで……(「幻の棲む絵巻」)。個人の所有していた絵の中
に、ゴッホかゴーギャンの手による物と思われる作品が。ところがその科学的
証明をなした女性が、直後に服毒自殺?(「『ひまわり』の黄色い囁き」)。
 以上四編に書き下ろしの表題作を加えた、美術ミステリ短編集。絵画修復士
御倉瞬介シリーズ第二弾。

 前の作品集に比べると、本格味は薄まったものの、芸術関連のウェイトが重
くなったこれはこれで、シリーズとしての色合いがより鮮明になり、悪くあり
ません。
 編中の白眉は、「『ひまわり』の黄色い囁き」でしょう。ゴッホとゴーギャ
ンにまつわる謎というのを、具体的に初めて知りました。それをこのように解
き明かす(解釈の一つを与える)一方で、現代の日本を舞台にした服毒死事件
についても、かなり力が入っています。構図は単純なんだけど、ある人物の台
詞にぞっとしました。
 この一編が突出しているため、他は影が薄くなりがちですが、どれも及第点
の出来映え。「幻の棲む絵巻」は典型的なアリバイ崩しに、絵巻物についての
謎と解明を付加して効果を上げています。表題作は、ある程度は予想できる範
囲内で展開しますが、登場人物の一人がそうした理由に感嘆しました。

 ではでは。




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