AWC 感想・守屋「お題>鍵>入れ換え」


        
#4374/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (mor     )  07/08/23  12:53  ( 87)
感想・守屋「お題>鍵>入れ換え」
★内容
 誤字ではありませんが、「入れ換え (後)」に、

>うちの女性で、推理小説好きなのがいるんですよ

 「うちの女性」という言い回し、このシーンにはちょっとそぐわないかも。女性であ
ることを強調する必要はない(女性だから気づいたわけではない)し、飛井田と江東の
親密さが事件を解く鍵になったわけでもない(そもそも親密ではない)ので、「うちの
部下」がより適切なのでは、と感じました。
 とりあえず、あれっと思った読者もいることをお伝えしておきます。

 以下、感想です。
 冒頭のモノローグ、そして登場人物の少なさで、犯人はすぐわかります。しかし、後
半のやりとりは「刑事コロンボ」を連想させる心理戦。短い枚数で不足なくまとめてあ
り、読みごたえがありました(自分も見習わねば!)。

>だが、ニコチンは致死量が甚だ曖昧だ。摂取してから死亡するまでの時間も、摂取量お
よび個人の体質や体調その他で大きく変わる。

 これ、ナイスな着眼点だと思いました。自分もミステリにおける毒物の安易な扱いに
は、首をかしげていたくちです。
 即死する毒物として有名な青酸カリも、実際には即死しないのです。救急を経験して
いないと、医者も知らないらしく、本によっては五分で死ぬなんて書いてありますが…
…。実際には自殺者、つまり思い切って致死量をえいっと飲んだ人も、死亡時刻は二時
間後だったりします。
 毒物の、致死量や死ぬまでの時間が不明瞭なところをうまく逆用されているな、と感
心しました。
 少なくとも救急車が到着した一時間後は、まだ存命で苦しんでいたという例を自分は
知っています。知っているだけに、うっとうめいて昏倒、即死というシーンが安易すぎ
ると思え、自分では書けません。
 以下の一文までは、本当にすごく高い評価をしていたのです。

     *     *     *

 以下、トリックに触れていますので、未読の方はご注意ください。

     *     *     *

>ジャケットの胸ポケットから、細長いペンを抜いた。ペン先が歪み、所々に汚れが目立
つ。

 え、これボールペン? インクはどうやって補充するのでしょうか? てっきり万年
筆だと思っていたので、ここで大きな違和感が。
 でも、万年筆ならキャップがついてますよね。丸みのあるキャップをつけたまま……
とっさに使ったというのは、相当な無理があるかも。といって、特注品ゆえキャップが
常識外れの鋭利なデザインだったのだ、と解釈するには、胸ポケットに差して常時、持
ち歩いていたという前提と矛盾します。机のペン立てに入れていたというなら、まだし
もわかるのですが。
 壊れたなどの理由で、このときだけキャップなしだったという解釈も苦しいです。イ
ンクが漏れて、ポケット周辺はエライことになりませんか。抜くまでもなく、服が汚れ
てますよと目敏い刑事に指摘されそうです。

 ボールペンはインク芯にペン先がくっついています。軸部分が曲がってしまうことは
あっても、「ペン先が歪み……」はありえません。歪みがぱっと見て取れるほどペン先
は外に出ていないからです。それに、どんなメーカーでもペン先ごとインク芯を入れ替
えればよいわけで、外側の軸が無事ならば、問題なしのはず。
 最後の最後で、どうにも納得のいかないオチでした。
 数日後の刑事の訪問時、まだ何の手入れもしていないというのは、信じがたい行動で
す。大事にしていたはずなのに、汚れも拭かなかったの……???
 万年筆でもボールペンでも、アリバイを作る間に、まず洗面所ででもペンの手入れを
するだろうと感じてしまいました。もちろん、拭いてもルミノール反応が出るから、警
察に調べられればいずれはバレてしまうわけですが。
 矛盾をまとめますと、

 万年筆→受賞記念のペンにふさわしい。キャップなしはありえない(ペン先が乾いて
は書けない。インクが漏れても困る)。「ペン先が歪み」という表現には納得。だが、
むきだしのまま胸ポケットに差すことはできない。
 ボールペン→受賞記念にしてはチープ。キャップなしで胸ポケットに差すのは可能だ
が、ノック式ならペン先は見えない。「ペン先が歪み」という表現は変。

 と、なります。「名探偵コナン」にも似たようなトリックがありましたが、それはお
父さんの唯一の遺品で、使わないがずっと持ち歩いているという説明でした。

 構成上、気になったこともあります。
 冒頭のモノローグで犯人を特定するのは、読者の興味を著しく削いでしまい、マイナ
ス面のほうが大きいかもしれません。動機にもつながるポリシーなので、ラストに持っ
てきてもよかったのでは。
 読者は最後に、ああ、犯人はポリシーとしてそう行動したのだな、と納得できます。
読後、さらに深い余韻を出せたのではないかと思え、少しもったいないかも、と感じま
した。

 当然のことですが、上記は参考意見として気づいたことを並べたまでですので、書き
直せという趣旨の指摘ではありません。代替案を出すのは、自分が作者だったとき、ま
ずい、悪いと書かれるだけではどうしようもないと考えているからです。
 料理もそうですが、ただまずいとだけコメントされては、どこが悪かったのか、直そ
うにもわからないでしょう。塩が多すぎたとか煮込みが足りないとか、自分としては具
体的に指摘されたいのです。
 以降の執筆に、ひとつの参考意見、留意点としてお役立ていただければ幸いです。





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