AWC バトン・タッチ 1   名古山珠代


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#3284/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 6/ 1  21:48  (174)
バトン・タッチ 1   名古山珠代
★内容                                         22/11/17 20:43 修正 第2版
 選考会の日の夜。ひどく冷静な声で、その言葉を伝えられたとき、すぐには
信じられなかった。
 F&M文庫の発売日。文庫の挟み込みで、自分の落選を確認したとき、現実
を認めざる得なかった。
 そして、雑誌『アウスレーゼ』の発売日。掲載された選評を読んだとき……。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
決定! 第二回F&M賞
 229編の応募をいただいた第二回F&M(ファンタジー&ミステリー)賞
は、以下の六作品を最終候補作として選出しました。

 「  占  術  師  」 神林大葉 (かんばやし おおは)
 「  水 晶 の 柩  」 篠木陸  (ささき りく)
 「 風にのせたメモリー 」 手塚美久 (てづか みく)
 「 白 の 六 騎 士 」 堂本浩一 (どうもと こういち)
 「僕はこの星で殺された」 新崎彩香 (にいさき あやか)
 「  夢 幻 物 語  」 藤井恵津子(ふじい えつこ)

 九月十五日、亜藤すずな、甲賀明日夫、桜井美優、杠葉純涼、蒲生克吉の各
氏による選考会が開かれました。その結果、以下の四作品を選出しました。

大賞
 「  占  術  師  」 神林大葉(かんばやし おおは)
 「僕はこの星で殺された」 新崎彩香(にいざき あやか)

佳作
 「  水 晶 の 柩  」 篠木陸 (ささき りく)
 「 白 の 六 騎 士 」 堂本浩一(どうもと こういち)


 選考の詳しい模様については、次ページから掲載しています。
 また、受賞作四編については、当文庫から順次、刊行していく予定ですの
で、お楽しみに。
 引き続き、第三回も募集しています。締め切りは1996年の六月三十日。
楽しいお話、恐いお話、哀しいお話等など、自信作を待ってまーす!


亜藤すずな
<(前略)……
 藤井さんの「夢幻物語」は、正統派ファンタジー。応援したくなる主人公の
青年は、性格設定の勝利です。西欧中世風と中国中世風を融合しようとした努
力が垣間みられ、これも興味深かったです。ただ、単なるいいとこ取りに終わ
っている観がなきにしもあらずで、より自然な形で二つの世界をつなげられる
と、もっとよかったのではないでしょうか。
                            ……(後略)>

甲賀明日夫
<(前略)……
 「夢幻物語」。純粋なファンタジー物の本作は、それなりにまとまっている。
青年剣士が愛する人を救うため、冒険の旅に出る。このありがちなストーリー
を読ませる腕は、新人とは思えないほどだ。しかし、ファンタジーとミステリ
ーのボーダー上にある作品が多かった中では、不利であった。何か特色を打ち
出すか、捻りを加えると、格段によくなる。
                            ……(後略)>

桜井美優
<(前略)……
 読んでいる間、ずっと引き込まれていたのが「夢幻物語」。読み終わった直
後、確かに満足して原稿を置いた。にもかかわらず、時間が経って、冷静にな
って考えてみると引っかかり始めた。難点はないのだが、これ!という突出し
た特色もないのでは、新人としてはマイナスイメージ。既成作家にない何かを
掴んだとき、この人は大化けするに違いない。エールと思ってほしい。
                            ……(後略)>

杠葉純涼
<(前略)……
 「夢幻物語」の藤井さんの文章力は、新崎さんのそれに匹敵する。こと、話
の運びぶりと女性の書き分けに関しては、藤井さんは新人離れしてると言えま
す。当然、話も面白く読めました。が、それっきり。本作の舞台その他が今ま
で書かれすぎているせいか、どこかで読んだような物語という印象だけが残っ
てしまった。新人らしい目新しさを身につければ、鬼に金棒でしょう。
                            ……(後略)>

蒲生克吉
<(前略)……
 いかにも本誌読者が気に入りそうなのは、「夢幻物語」。充分に水準に到達
しており、そのまま本にできそう。でも、それは、既成作家が書いたなら、と
いう条件付きなのです。もちろん、作者の意図はともかく、群雄割拠のフィー
ルドで勝負した心意気は買いますよ。でも、素人からプロとして飛び出すには、
ちょっとパンチが足りない。書ける人だと思いますから、もっと斬新な作品を
期待。
                            ……(後略)>
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 しばし、じっと誌面を見つめる。やがて、自然に、溜め息が出た。少し、鼓
動が早くなったような気がする。左手を胸元にやり、気持ちを落ち着かせる。
 一読しただけでは納得できなかったし、全てを飲み込めたとも言い難い。
 “藤井恵津子”は、『アウスレーゼ』十一月号を丸めるように掴むと、急ぎ
足でレジへ向かった。


                 1

 机に突っ伏していたら、不意に、後頭部に衝撃を感じた。
「痛いなぁ、もう」
 顔を上げ、振り返ると、優の奴が意地悪そうに笑っている。
「何するのよ」
「あら、生きてたか。てっきり、死んでるのかと思って」
「倒れている人がいたら、あんたは後頭部をはたいて、生きているか死んでい
るか、確認するのか?」
「幸か不幸か、そういう場面に出くわしたことがないから、分からん」
「あのねえ、今の私は、すっごく落ち込んでるの。無用な手出しは怪我の素よ、
覚悟しといて」
「おー、恐いな。で、何を落ち込んでいるんだ?」
「ぅるさいなぁ。……例の、落選よ」
「何を今さら。ずっと前に、分かったことじゃないか。最後まで行って落とさ
れるとは、つくづく運がないのぉ、とは思ったが」
 嫌な言い方をしてくれる。しかし、無視する訳にもいかず、私は仕方なしに
続けた。
「これよ、これ」
 さっき放り出した雑誌を、指で示してやる。
「何じゃこりゃ。『アウスレーゼ』って、確かドイツ語で、高級なぶどう酒の
ことだっけ」
 私と同じく、第二外国語にドイツ語を選択している優は、覚えたばかりの知
識を披露した。
「本の名前なんて、どうでもいいの。中身よ。選評が載っているの」
「選評というと……。ああ、つまり、こっぴどく欠点を指摘され、改めて落ち
込まざるを得なくなったって訳か」
 ほんと、ずけずけと言ってくれる。
 優は、雑誌を手に取ると、ぱらぱらとめくり始めた。どのようにけなされて
いるか、読んでやろうという魂胆なのだろう。
「これか」
 目的のページを見つけたらしい。静かになる優。さすがに、気を遣ってくれ
たのかもしれない。やがて、誌面から顔を上げ、口を開いた。
「そんな、落ち込むほどのもんかな」
「だって、ありがちだ、みたいなこと言われているのよ。新鮮さや斬新さとか
がないってのは要するに、新人としてのよさがないと判子を押されたようなも
んじゃない」
「それはそうかもしれないけど、他は大丈夫みたいじゃないか。一つの欠点を
直すだけで、次は入選という風にも受け取れる」
 他人事だと思って、気楽に言ってくれるわ。ため息が勝手に出ちゃう。
「簡単にできたら、苦労しないわ」
 唇がとんがるのが分かったので、急いで口元を引き締める。
 部室のドアが開けられた。
「ちわーっす……と、あれ、まだ集まってないのか」
 八代先輩は、気抜けしたようにつぶやくと、手近のパイプ椅子に腰を下ろし
た。壁に掛かる乾電池式のアナログ時計を見ると、一時まであと十分足らずと
いうところか。
「また来ているのか。えっと、縁川君だっけ?」
 優の方を見ながら、八代さん。
「はあ、すみません」
 頭に手をやる優。形ばっかり。
「井藤さんみたいに入部するなら、大っぴらに来てくれていいんだけどねえ」
 怒っていい立場の八代さんは、何故か言いにくそうだ。
「君、映研だろ? いつ部活やってるのさ?」
「月曜日です」
「ふうん。ま、二回生の自分ががみがみ言うことじゃないし、俺個人は別にか
まわないんだけど、一応、けじめだから……。これから部活ってときに部外者
がいられると、ちょっとまずい」
「一時までは、いいんですよね」
 優は、先輩の顔色を窺うような仕種をする。ちゃっかりしていると言うか、
何と言うか。
「いい、としか言いようがない」
 いささか投げやりに八代さんが言ったところで、続々と人が集まり始めた。
 相前後して到着したのは、三回生と二回生が合わせて十二名、私と同じ一年
生の新入部員が五名。他に四回生の人もいるので、文芸部の部員数は二十五名
ぐらいに達する……はず。総合大学のクラブとしては、多いとは言えない人数
かもしれないけど、文芸の名の下にこれだけ集まれば、上出来ではなかろーか。
 何しろ、部屋が手狭に感じられるぐらいなのだ。せめて机の上だけでも広く
しておこうと、私は『アウスレーゼ』を鞄に仕舞った。
「もう、お邪魔ですね。それじゃ、退散しようっと」
 優はおちゃらけ気味に、姿を消した。二時間後、学食で待ち合わせる手はず
になっている。私が部活のある水曜日はいつも、これ。この間、優がいかにし
て時間を潰しているのかは、不明である。大方、同じ映研の人と一緒にいるの
だろうけど。
「今日、三時までで終わりですよね?」
 優が行ってしまったあとになったけれど、確認のため、部長の柴原さんに聞
いておく。
「ええ、多分ね。学園祭のこと、決めちゃわないといけないんだけど」
 部長のその言葉を皮切りに、あと二週間ほどに迫った学園祭についての話し
合いが始まった。


−−続く





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