AWC そばにいるだけで 18−12   寺嶋公香


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#4352/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/12/24  11:52  (185)
そばにいるだけで 18−12   寺嶋公香
★内容
「おお。すげーっ」
 つまみ上げ、まじまじとコインを見る柚木。他の男子達も顔を寄せ、不思議
そうにしている。
「おもちゃのコインだけど、割と格好いいだろ?」
「あ、ああ。それよりどうやって……」
「気にするな。さあ、長瀬達も手を出した出した」
 柚木のときと同様に、左手をさっと振り、コインを次々と出す相羽。
 男子だけでなく、見ている女子も、拍手喝采。特に、相羽の奇術を初めて見
る白沼や長瀬、柚木の三人は、目を白黒させている。
「最後の一枚は、僕の分」
 と、六枚目のコインを左手に出すと、相羽は右手指先に持ち替えた。それか
ら視線を室内にさまよわせ、じきに固定する。
「そこのタオル、取ってほしいんだけど」
 指差す方向には、先ほど純子達が使ったタオルがまとめて重ねてあった。一
番近い位置にいる純子が応じる。
「一枚でいいの?」
「うん。−−ありがとう」
 白のタオルを受け取ると、相羽はそれを広げ、右手にふわりと被せた。
「自分のコインだから、なくなっても平気。こうして、一瞬の内に」
 台詞の途中で、タオルを引く。すると、コインは指先から消えていた。
 右手に作った握り拳を、じんわりと開いていく相羽。その中もやはり空だ。
「一瞬の内に消してしまっても、それは僕の責任」
「た……タオル、調べていいか?」
 長瀬が眉間にしわを寄せながら言った。
「いいよ」
 気軽い調子で答え、手渡す。
 受け取った長瀬だけでなく、観客総出でタオルを調べたが、どこにもコイン
は隠されてなんかいなかった。
「分かんねえ」
 そしてこれまた総出で首を傾げる。
(すっかり、ペースに乗せられているんだわ、これって。でも、分かっていて
も、どうしようもない!)
 純子はいじいじしつつ、次の手品を待つ。
 以後も相羽は好調を極めた。テーブルマジックに移ると、コインを使った手
品を二つ行い、そのあと得意のトランプを使った手品へ。いくつかやったあと、
お馴染みのカード当てでは当然、白沼の顔を立てて彼女を指名した。そして、
声の変化で当てると言って、白沼にカードを一枚ずつ見せると同時に、「この
カードですか?」と尋ねていく。白沼は全てに「いいえ」と答えてほしいと言
う。
 十五枚ほどカードをめくっただろうか。相羽は不意に、「さっき、声が変わ
って、同様が尾を引いていたような気がする」と、白沼を見据えた。口を手で
覆った白沼に対し、相羽はすでにめくったカードの中から一枚を持ち、「これ
だよね、白沼さん?」−−果たして、正解だった。
「声って、そんなに変わってた?」
 相羽を見、次に他のみんなを見回す白沼。信じられないといった思いが、顔
に明白に出ている。
「さあてね」
 相羽は曖昧に笑ってごまかすと、唇を舌でなめた。
「喋りすぎて、のどが渇いたな。ああっと、井口さん。そこのコップ、取って
くれる?」
 相羽が指し示したのは、手品のために端によけておいたガラスのコップ。さ
っき、ケーキを食べたとき、相羽が使った物で、今は水が半分ほど入っていた。
「これね?」
 近くの井口がコップを持つ。その瞬間、水が青みを帯びた。
 持っていた井口は、その変化に、コップから慌てて手を離す。テーブルに戻
されたコップは、波打つ水面が収まるのに合わせるかのように、液体が青く染
まっていく。
 相羽を除く誰もがどよめいた。
「あーあ、飲めなくなった」
 お手上げのポーズを取る相羽。さすがにちょっと、わざとらしい。
(あらかじめ、コップに仕掛けをしたのね! だけど、いつの間に……?)
 純子は種自体はある程度想像できたものの、相羽の用意周到さには完全に感
心させられてしまった。
 相羽は得意がる様子もなく、普段の態度のまま最後の演目に取りかかる。手
元でカードを見ていき、三枚、抜き出した。テーブルに置かれたのは、スペー
ドのキング、クイーン、ジャック。
「この三枚は、家族です。お父さんがキング、お母さんはクイーン、ジャック
はもちろん子供。一家揃って楽しいクリスマスを迎えるはずが、こいつのせい
で」
 相羽はさらに一枚、カードを取り出した。気味の悪い隈取りをした顔のピエ
ロに似たそれは、ジョーカー。
「このジョーカーのせいで、別れ別れになってしまう。えっと、ジョーカーの
役割をやる人が必要なんだ。キング、クイーン、ジャックをカードの山に適当
に差し込むだけ。誰かやってくれる?」
 白沼と富井と清水が立候補。一人一枚ずつということになる。
「どこでもいいのね?」
「いいよ。一番上とか一番下だと、面白くないけど」
 そんなやり取りを経て、三人によってカードの家族は、相羽の握るカードの
山にばらばらに差し込まれた。
 片手でカードの端をきれいに揃えつつ、相羽はもう片方の手でポケットから
新たにカードを出した。裏返すとジョーカーの絵柄。通常、トランプ一組には
二枚のジョーカーが付属しているから、それなのだろう。
「ジョーカーの魔力を消す方法、知ってる?」
 見渡してくる相羽に、誰もが首を振るか、「知らない」と答えるかした。
「凄く簡単なんだ。マジックにはマジック。マジックペンがあったら、貸して
ほしい」
「待ってて」
 白沼が急いで立ち上がり、しばらくきょろきょろしたあと、筆立ての中から
緑色の細いマジックペンを持って来た。
「これでかまわないかしら」
「充分。ありがとう」
 相羽はやはり片手で器用にキャップを外すと、ペン先をカードの上に走らせ
る。ジョーカーの顔の上に、緑の×印ができた。
「あ」
 まさかカードに落書きするとは思っていなかったため、小さな悲鳴が起こる。
 二枚のジョーカーをみんなに見えるようにかざし持ち、相羽は微笑した。
「こうすれば、ジョーカーの悪い力はなくなり、代わりに……そうだな、いい
魔法使いになる。いい魔法使い二枚で、カードの山を挟むと、カード全体に力
が染み通って、スペードの家族が集まるというわけ」
 実際にジョーカーで山をサンドイッチの状態にした。
「でも、効き目が表れるまでに、しばらく時間が掛かる。今日は二十四日だか
ら、二十四秒ぐらい待って」
 そう言われると数えたくなる。
 みんな、いつもより低めの声で、いーち、にぃ、さーん……と始めた。
 二十四を数えきったところで、相羽はカードの山に手を掛け、再びみんなを
見る。そして、一番上と一番下のカード−−つまり、ジョーカー二枚を指差し
た。
「魔法使いの役目は終わりました。お休みしてもらうため、この二枚を取り去
ります。誰かやりたい人?」
 井口と勝馬が手を挙げた。相羽は井口にカードを渡し、一番下を取らせ、次
いで勝馬に一番上を取らせた。
「どうもありがとう。これでいい。いくらシャッフルしても、スペードの三人
家族は、一緒だよ」
 講釈とともに、手元に戻って来たカードをシャッフルする相羽。
「いつでもストップをかけていいよ。ただし、ジョーカー役をやった人は、ち
ょっぴり魔力が残っているかもしれないから、遠慮してほしいな」
 冗談めかし、片目を瞑る相羽に、白沼達ジョーカー役三人は顔を見合わせた。
「ストップ!」
 叫んだのは長瀬。一つぐらい見破ってやろうと、かなり頭を悩ませている様
子が傍目にも明らかだ。
「ここでいい? 変えるなら今の内」
 手を中途で止めたまま、聞き返す演者。
「そのままでいい」
 長瀬が頑なな口調で告げると、相羽はシャッフルの形を崩し、右手を引っ込
める。左の手の平の上には、カードの山が整然と残された。
「次はめくる役だけど……これまで何にもしてもらってない涼原さんと柚木、
大谷に頼もうかな」
「私?」
 自らを指差す純子。
「そうだよ。全員が関わったら、どこにもいんちきがないって分かるだろ?」
「そうかな……まあいいわ」
 手を伸ばす純子。
「一枚ずつ、上から取っていって。すぐにはめくらないで。三人一斉に開ける。
分かった?」
 相羽の指定した通りの運びで、ことは進む。純子、柚木、大谷の三人はそれ
ぞれカードを一枚ずつ持った。
「じゃ、感動の再会と行こう。開けて」
「−−あ、ほんとに」
 見事にスペードのキング、クイーン、ジャックが並ぶ。成功を確信していた
純子にとっても、それは驚きだった。
 ならば、今夜初めて相羽のマジックを目撃した白沼にとっては、なおのこと
だろう。早速、「どうやったのっ?」と種明かしをせがむ。
「種? 言っても信じないだろうから」
 カードをてきぱきと仕舞いながら、秘密めかす相羽。それでも白沼が手を取
って懇願してくると、たった一言、さらりと告げる。
「クリスマスイブの奇跡−−そういうことにしておこうよ」

 帰り際になり、やっと白沼の家族達に会って、挨拶できた。
 予定を三十分ほどオーバーし、パーティも無事終了した。
 そう、純子にとっては無事。
(やっぱり取り越し苦労だったみたいね。確かに、白沼さんはいつも以上に積
極的だったけれど、郁江達と険悪になる気配は全然なかった)
 そのことだけで、ほっとしていた。無論パーティ自体も、最初に思い描いて
いたよりずっと楽しめた。
「今日はありがとうね」
 見送りに出て来た白沼は、いつになく柔らかい口調で言った。
「いえいえ、こちらこそ」
 主に男子らが、半ばふざけてお辞儀をする。純子もつられて頭を下げると、
髪がなびいて大きく広がった。
 風は弱いが冷たく、たいていの者が寒そうに首をすくめていた。
「それから、相羽君」
 自転車に手を掛けて、空を気にする仕種の相羽に、白沼が声を掛けた。
「何?」
「プレゼント、帰るまで開けちゃだめ。約束よ」
「ちゃんと覚えてるよ」
 苦笑いを浮かべ、自転車篭の中を一瞥する。
「これ、割れ物じゃないよね?」
「ええ」
 返事してから、白沼は急に寒気が来たらしく、ぶるっと肩を震わせた。
「そ、それじゃあ、みんな、本当にありがとう。三学期から、またよろしくね」
「よろしくー」
「楽しかったわ」
 めいめい、手を振って、進み出した。しばらく、九人揃って塀に沿って行く。
 角を折れ、白沼家の玄関が見えなくなると、相羽は自転車に跨った。
「悪い。お先に」
「ああ。またな」
 勝馬ら男子がそういう返事をよこすのに対して、純子達は一瞬顔を見合わせ、
それから言った。
「相羽君、よいお年をねー!」
「どうもどうも。それにしても気が早いな」
 軽く片手を振って、相羽は漕ぎ始め、見る間に加速をした。
「気を付けてねーっ!」
 富井と井口は、自転車が見えなくなるまで、両手を大きく振っていた。

−−つづく




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