AWC そばにいるだけで 14−1   寺嶋公香


    次の版 
#4116/5495 長編
★タイトル (AZA     )  97/ 8/31  13:14  (200)
そばにいるだけで 14−1   寺嶋公香
★内容
 お祭りのスタートを告げる花火は、白くて空々しい。音も、タイヤのパンク
を想像させかねない。
「出だしにあれをされると盛り上がらないから、やめればいいのに」
 花火の方を見上げなら、町田が言った。
 対して、富井が反論する。
「いいじゃなあい。もう、習慣になってるしぃ、あれがないと、お祭りが始ま
った気がしないよー」
「そうかいな」
 素っ気なくあしらうと、町田は視線をいつもの高さに戻し、左右に頭を巡ら
せた。
「遅いなあ、前田さんと遠野さん」
「まだ約束の時間まで、間があるわよ」
 スポーツセンター前にある時計を見やりながら、純子が言った。
 只今、十時十分。十時二十分までに集合しようと決めているので、遅刻とは
言えない。
 ただ、夏祭りの開始時刻が十時ちょうどなので、せっかちな町田はいらいら
しているのかもしれない。
「久仁香はまだ、おじいさんのところ?」
「みたいだね。ま、どうせ宿題を片付けるときに、顔を合わせるでしょ」
「お祭り、明日も来るでしょう?」
「遊びたいけど、宿題も残ってるからねえ」
 などとお喋りしていると、前田と遠野が相次いで現れた。
 時計が示す時刻は、十時十八分といったところか。
「前田さんが来るとは思わなかった」
 町田が茶化すように言って、肘でつつく真似をする。
「どうしてよ。昼から国奥さんが来るんでしょ。会いたいじゃない」
「だって、前田さん。二人っきりで来たかった相手がいるんじゃないのかな」
 前田は瞬間的に顔を赤くし、皆に背を向けた。
 が、気持ちは平静さを取り戻したらしい。
「楽しみは、明日に取ってあるのよっ」
 声高に言って振り向くと、前田は小さくあかんべえをした。

 人混みの間を縫って、露店の居並ぶ通りを抜けた。
 誰もはぐれてないと確認して、ほっとする。
 空気の温度が下がったような気がする。風が心地よい。
「あ、あそこ!」
 すでにたくさんの人が場所取りをしている広場の一角に、全員が座れそうな
スペースを見つけた。急いで駆けつけ、確保。
「うう、健康に悪そうな食事」
「いいから、いいから」
 芝の上に並ぶは、たこ焼き、焼きそば、おでん、うどん、アメリカンドック、
ハンバーガー……。たい焼きやクレープ、ぜんざいといった甘い物まである。
「お祭りなんだから、やっぱ、こーゆーのを食べなきゃ」
 富井は言うなり、この暑いのに、いきなりぜんざいをすすり始めた。
 屋台で売っている冷たい物と言えば、わらび餅かアイス、かき氷ぐらいか。
 さっきまで不健康だと文句を言ってた町田は、たこ焼きと焼きそばをしげし
げ見ながら、アメリカンドックにぱくついている。
 純子は首を傾げた。
「そんなに見てるのに、何でたこ焼き、食べないの、芙美?」
「青のり系は苦手だなあと思いまして。誰か片付けてね」
「う、そう言われれば」
 純子だけでなく、他のみんなもざわめく。
「歯に張り付くと、みっともない。だからって、鏡を見て、取ってる姿も格好
よくないしさ」
「そんなこと言ったら、手を着けにくくなるじゃない」
「平気平気。大口開けて、放り込めば歯の表側には着かないでしょ、多分」
「何か、いいかげーん」
 そんなこと言ってても、わいわいやってる内に、食べ物はどんどん消えてい
った。
「あれ……涼原さん、こんにゃくが残ってる」
 空になった皿を片付けていた遠野が、上目遣いに聞いてきた。
「取ってるの? 好きな物を最後に食べる、とか」
「ううん。こんにゃく、苦手で……」
 苦笑いしながら答えると、町田や富井らが意外そうな顔をする。
「へぇー、こんにゃくって美容食なんでしょ。モデルがそういうことで、いい
のかな」
「美容食じゃないでしょ? お腹の活動を助けるとかって聞いたけど」
「だから、美容食。便秘予防」
「あのね、まだ食べてる人がいるんですけどね」
 呆れ口調で、前田が声を飛ばす。
「早く食べないと、国奥さんとの待ち合わせに遅れちゃうよ」
 うまく話をすり替えた富井は、自己満足したのか、にっこり笑った。

 待ち合わせは、一時に、西ゲート前で。
 人の波をかき分け、三分前ぐらいに行ってみると、国奥の姿がすでにあった。
 純子達のいる位置からは見えないが、誰かと話をしているようだ。
「……あれ?」
 近付いて、国奥の話し相手がはっきりすると、純子達は一様に声を上げた。
「相羽君、何で一緒にいるの?」
 真っ先に聞いた純子。町田が続く。
「まさか、国奥さんと待ち合わせ、なんて?」
「やだな、町田さんたら」
 国奥が身をくねらせるようにして、町田の肩を叩く。校則で決められている
のだろう、制服姿だ。
「偶然、来合わせただけ。そうよね、相羽君?」
「うん」
 すでに女子から距離を取り始めた相羽。
「友達と待ち合わせてるんだ。一時にここに集合ってさ」
「もう過ぎてるんじゃない、一時」
「どうせ、また遅刻だよ。みんな、ルーズだなあ」
 その声が合図となったかのように、相羽を呼ぶ声がした。続けて何を言った
のかは、はっきり聞き取れなかったが、立島だと分かる。
「あ、れ。君ら……」
 驚いた風に目を丸くする立島。その視線は、主に前田に向いている。
 前田の方も驚いてしまって、もう、これでは、国奥と久しぶりの再会を感激
しいているどころではない。
「今日、用事あるって言ってたの、このことだったのね」
「そうだけど、何だか……間が抜けてるな」
 笑い合う前田と立島。
 その後方で、純子や富井は相談を始めた。すぐにまとまる。
「ねえ、前田さん」
 代表する形で、町田が持ちかける。その表情はにこにこ、笑いをこらえきれ
ない感じ。
「何?」
「私達、これから別行動を取るからね。お二人でごゆっくり」
「ちょっと、冗談でしょ」
 さらっと告げて、立ち去りそうな勢いの町田らを、前田が慌てて呼び止める。
「冗談でもないんだけど」
「前田さんも、その方が嬉しいよねえ?」
 町田に続き、富井が笑いながら言うと、前田は立島と顔を見合わせた。
 そしてすぐに向き直ると、首を横に振る。
「嫌だわ、みんな。明日があるって、言ったでしょう?」
「二日連続の方が、もっと楽しいと思うよー」
「今日、来たのは、国奥さんに会いたかったからよ。だからいいの」
 前田があくまで否定するのが面白くないのか、富井と町田は今度は、立島に
話を振る。
「立島君、それでいいのぉ?」
「か、関係ないだろ。富井さん達には」
「あ、無理しちゃって」
「そんなことないってーの。明日があるから、いいんだよ、明日が」
 そんなやり取りを傍観している内に、純子は安心した。
(よかった。ちゃんと、元通りになったみたいね、前田さんと立島君)
 考えながら、思わず微笑んでいると、相羽と目が合った。
 同じことを考えていたらしくて、彼もまた微笑む。耳打ちするかのような調
子で、囁きかけてきた。
「うまくいってるみたいだね」
「うん。私達も、苦労した甲斐があったってものよ。うふふ」
「−−あのさ、涼原さん」
「え、何?」
 相羽の口調が変わったように感じて、改めて見返す純子。
 続けて相羽が何か言おうとした矢先……。
「わりーぃ! 遅れちまって」
 周りの目が集まるのも何のその、大きな声が響き渡る。清水、大谷の順で走
って来るのが見えた。
「わりい、わりい。ゲームセンターに寄ってたら……あ? 何で、涼原がいる
んだ?」
「……女子同士、待ち合わせだってさ」
 息をつき、肩を落とすようにしながら相羽が教える。
 それに続いて、会話の途中を遮られた純子は、きつい調子で注意した。
「見れば、だいたい想像できるでしょっ」
「お、そう言や、前田さんとかもいるな」
「あれー、国奥さんまでいる。懐かしー」
 大谷がとぼけた口調で言うのを聞いて、純子は力が抜けた。
 気を取り直して、男子達に聞いてみた。
「そう言えば、鈴木君や木戸君の近況、伝わってくる?」
「ああ、あいつらなら、今日、来るって言ってたぞ」
 清水が得意げに答えるのへ、興味を駆られた純子。
「ふうん? じゃ、会えるかな?」
「おまえ、これだけの人数で、一編に回る気かよ」
「いいじゃないの」
 純子が頬を膨らませると、清水と大谷はそっぽを向くようにした。どことな
く、強がっている様子が見え隠れ。
「やーだね。小学生の遠足じゃあるまいし、男女仲よく、ぞろぞろと歩けるも
んかよ」
「そうだそうだ、みっともない」
 純子はさらに抗議を重ねようとしたが、それより早く、清水達は相羽を引っ
張って、立島のいる方へ行こうとする。
「もうっ……相羽君の話も、途中のままなのに」
 結局、この日は女子と男子、別々にお祭りを観て回った。

 が、祭り会場は、大草原のように広いわけではない。
 ましてや、純子達は六人、相羽達は七人いるのだから、グループとしても大
所帯の方。互いに目に着いても不思議でない。
 午後六時を過ぎ、そろそろ帰ろうかという頃、二つのグループは出くわした。
 ここまで来て距離を置く必要もなく、なし崩し的に入り乱れる。
「……鈴木君達は?」
「帰った。帰宅時間とか、校則が厳しいらしくて、用心して早めに」
 純子の問いかけに、相羽が答える。
「そっか」
 声を落として、ちょっぴり残念がる純子。
 と、突然、首筋に、ぼこんと、妙な感触が。後頭部に手をやりながら振り返
ると、清水がにやにや笑って立っていた。その手には、青色の水風船がある。
「何すんのよ!」
「涼原、そんなに鈴木と会いたかったのか? 惜しいことしたな」
「変な風に受け取らないでよ。久しぶりに話してみたかっただけ。鈴木君とも、
木戸君ともね」
「何だ、木戸の方がいいのか」
 わざとに違いない曲がった解釈をする清水に、純子は付き合いきれなくなっ
た。
「知らん!」
 荒っぽい調子で言い捨て、早足で進む。
「待てよ。冗談に決まってんだろ。本気で怒るなっての」
 清水と大谷が追いかけてくる気配が感じられたが、無視して前進。時間帯故
か、人の往来が割に激しいが、器用にすり抜けていく。
「涼原あっ。聞こえてんだろ」
「うるさいわねえ、みっともない」
「怒るなっての。謝ってんじゃねえか」
「もう怒ってないから、着いて来ないでよ!」
「何っ。−−こうしてやる」
 町田らと話をしていた相羽や勝馬を追い抜いたそのとき。
 純子の後ろで、何かが弾けたような音がした。
(え、何?)
 立ち止まって振り返ると、そこには相羽の背中が。
「相羽君、大丈夫?」
 町田らが心配そうな声を上げている。
 清水もしきりに手を拝み合わせ、「悪い」を連発している。
 純子は、相羽の前に回ってみた。
「あっ」

−−つづく




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE