AWC そばにいるだけで 番外編−3   寺島公香


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#3637/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/12/24  23:24  (157)
そばにいるだけで 番外編−3   寺島公香
★内容
「そうか、ずっと着いてもらったから」
 男の人は、おもむろにサングラスを外した。折り畳み、ポケットに仕舞う。
(……鋭い目つき)
 ぽかんとして見上げる。
(鋭いけど、優しそう)
 そう思っていると、純子の視線に相手は高さを合わせてきた。
「何を買いに来たのか、よかったら教えてくれないかな。クリスマスのプレゼ
ント?」
「えっと、クリスマスプレゼントはクリスマスプレゼントですけど、今度の水
曜日、クラスでお楽しみ会をやるの。それ用のプレゼントだから、誰に当たる
か分からない。だから迷ってて」
「……皆で輪になって、曲に合わせてプレゼントを順番に回すっていう趣向? 
曲が終わったとき、手元にあるのをもらえる」
「そうです、それ」
「今でも、そういうことするのか。いいな」
「よくないですよ」
 懐かしそうにする男の人へ、純子は反論した。
「どうして?」
「だって、男子なんてどうせろくなこと考えてないっ。そんな奴のが当たった
ら、最悪。折角の気分が台無しになる」
「決め付けられたら、どうしようもないな」
 相手は苦笑して続ける。
「僕も小学生のとき、経験がある。誰にでも喜んでもらえる物って何だろう。
うん、確かに頭を使ったな」
「何にしたんですか?」
「簡単なジグソーパズルを買ってきて、その裏に手を加えた。文字をたくさん
書いたんだよ。完成した物を裏返せば、そこにメッセージができるようにね」
「へえ、面白そう。そのメッセージは何て?」
 興味を引かれ、さらに尋ねる。
「これも単純で、少し捻った。メリークリスマスって書いて、その下にパズル
を出題したんだよ」
「それ、当たった人は、ジグソーパズルを完成させられたんですか」
「はは。解いてくれた」
「男、女? 何て言ってました?」
「女の子。僕は当時、二人、好きな子がいたんだけど、その内の一人だったん
だ。こうなると分かっていたら、もっと気の利いたメッセージにしたのにと悔
やんだけど、後の祭りだね。案の定と言うべきかな、まず、パズルが分からな
いから答を教えてくれと言われてね。そのパズルはちょっとした引っかけ問題
だったんだけど、答を教えたら、相手の子は喜んじゃって。『そういう問題、
他にもない? 教えて』と来た。すっかり、パズルマニアにされてしまった」
「ふうん。よかったじゃないですか、その子と仲よくなれて」
「物知り博士っていう奴さ。おかげで、自分の気持ちを言い出すなんてとんで
もない。僕が物知りだとか推理小説好きだとか、表面的なことしかその子には
伝えられない状況を、自ら作ってしまったわけ」
「その……惜しかったですね」
 純子の言い種がおかしかったのか、男の人はまた笑い出した。今度はこれま
でにない、はっきりした笑い。
「そうだね! 惜しかった! −−さあ、時間がもったいない。君の買い物に
付き合おうじゃないか」
「え? 別に……」
「さっきみたいに、品物を落っことしたら困るんじゃないかな? 僕が見てい
たら、それも防げると思うね」
 男の人の切り返しに、純子は呆気に取られてしまった。
(案外、子供っぽいところもある人……。悪くないけど)
「さあ、どんどん時間が経っている。涼原純子さん、急がないと」
 急かされて、純子は男の人の後ろについて、早足で歩き始めた。
(この人と会ってから、ずっと変な感じ。悪い人じゃなさそうだから、まあ、
いいか)
 そう思っている途中で、ふと、疑問がわいた。
「あれ? あ、あの……あなたは」
 前を行く男の人の背中に何と呼びかけてよいものやら判断しかね、焦った挙
げ句に「あなた」なんて口にしてしまった。
「何だい?」
 相手は歩きながら、振り返る。
「そ、その、どうして私の名前を知っているんですか? さっき、確かに呼び
ましたよ」
「手品の種は知らない方がいいんだよ」
 その一言でごまかされてしまった。

 プレゼントを選び終わり、純子と男の人は、自動販売機の前にいた。
(知らない人に物をもらうなんて……先生やお父さん、お母さんに知られたら、
怒られるかも)
 頭の中では引け目を覚えながら、もらったジュースを飲む。
「今日はありがとう。おかげでいい贈り物を買えたと思うよ」
「そんな。私の方こそ……」
 慌てて頭を下げる。大の大人から礼を言われ、恐縮してしまう。
「あのう、私、そろそろ帰らないと」
「え? もちろん、自由にしてください」
 引き留めているつもりはないよとばかり、男の人は缶を片手に両腕を広げる。
その物腰の丁寧さに、またまた恐縮。
「帰るの前に、お名前を教えていただきたくて」
「まだ、そんなことを気にしているの? 仕方ないな」
 ため息混じりに言うと、男の人は名前だけ教えてくれた。
「ありがとうございますっ。あと、私の名前が分かった秘密は……」
「……トイレに行ったら分かるよ」
 謎めいた返答に首を捻る純子。突っ込んで聞きたいが、もう時間がない。
「それじゃ、私、行きます。本当に、ありがとうございました」
「こちらこそ」
「七歳の女の子にいいことがあるようにって、イブにはお祈りしますね」
「いいね。僕はそれなら、君のためにお祈りしよう。ちょっと早いけど、メリ
ークリスマス、涼原さん」
「メリークリスマス」
 同じ言葉を返して、純子はエレベーターに乗り込んだ。
 一階に着いて、特に行きたくなったわけではなかったけれど、化粧室−−ト
イレを目指す。ふと思い付いた、ただそれだけ。
 鏡で自分の顔を見てから、ともかく手を洗ってみた。そしてハンカチを取り
出す。
「−−うん?」
 ポケットの中に違和感があった。ないはずの感触。純子はハンカチごと、そ
の物を引っぱり出した。
「これ……」
 小箱だった。見覚えのある形、大きさ。純子はまずハンカチで手を拭いてか
ら、問題の箱を取る。包装紙を外し、ふたを開けてみた。
 ガラス製の天秤の小さな置物。純子が気に入っていた天秤。あの男の人と知
り合うきっかけとなった天秤。無論、壊れた物じゃない。
「あの人の仕業だわ」
 あまりのことに、つい、つぶやく。
(私が自分の買い物をしてるとき、一瞬だけ姿が見えなくなったと思ったけど、
まさか、これを買っていたなんて……)
 返さなきゃと考え、箱を閉じようとしたとき、そのふたの裏に書かれている
文字に気づいた。
「−−あは、凄い! 『返さなくていいよ』だなんて」
 先を読み切ったそのメッセージに、思わず笑みがこぼれた。楽しくて仕方が
ない。素直にもらってもいいと思う。
 純子は小箱を元の状態に戻して、ポケットに丁寧な手つきで仕舞った。そし
てハンカチを畳み……。
「あぁ! 分かった」
 また叫んでしまった。ハンカチの縁に、刺繍があるのを見つけたのだ。母に
してもらった、赤糸の刺繍。Junko Suzuhara とある。
(ハンカチを渡したとき、これが見えたんですね。ほんと、手品の種は知らな
い方がいいみたい)
 くすくす笑いながら、純子はハンカチもまた、丁寧に仕舞い込んだ。

 建物を出て、寒さに身をすくめたところへ、知っている声に話かけられた。
「あれ、涼原さん?」
 相羽だ。同じ六年二組で、彼は委員長、純子は副委員長をしている。
「偶然だね、また」
「そうよね。あなたとばかり顔を合わせるのは、どう考えてもおかしいんだけ
ど、偶然は偶然」
「買い物?」
「そう、見れば分かるでしょ。そう言う相羽君こそ、お楽しみ会のプレゼント、
ここで買うつもりなんだ?」
「当たり。それよりどうかしたの?」
 じっと見つめてくる相羽に、純子は眉間に小さなしわを寄せた。
「何か変?」
「凄く楽しそうに見えるよ。普段以上に、楽しそう」
「−−いい人と会ったから」
 言い当てられた気持ちから、純子はそんな答を返した。
「いい人って誰?」
「……サンタクロース、かな」
 もし現代にサンタクロースがいるとすれば、あの人のような感じかもしれな
い。子供一人一人に喜んでもらおうと頭を痛めている、ちょっと遊び心を持っ
た人。
 純子はそう思う。
 対する相羽は一瞬、びっくりした風に瞬きをしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「サンタクロースかあ、いいね!」
 相羽の素直な反応に、今度は純子が驚かされる番。そしてすぐに思い出し
た。相羽がサンタの存在を、ある意味で信じているらしいことを。
「何て名前だった? サンタクロースが本名?」
「違うわ。私、教えてもらった」
 純子は首を振って、間を置く。そして静かに答えた。
「地天馬鋭(ちてんまえい)っていうんだって」

−−『そばにいるだけで 番外編』おわり


 スペシャルサンクス>永宮淳司氏




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