AWC 占いなんて 1   名古山珠代


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#3355/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 8/16   0:15  (200)
占いなんて 1   名古山珠代
★内容
−−今週の運勢−−   by オリヴィエ 玖珂
 ……

☆獅子座(7/24〜8/23)
<全体運>
 先週までの勢いがなくなり、低迷期に向かいつつあります。誰の協力も得ら
れない、そんな孤独感にさいなまれて、落ち込んでしまうかも。でも、きっと
あなたを支えてくれる人がどこかにいる。そう信じて、明るく頑張って。
<恋愛運>
 恋愛運は、とても盛り上がっています。と言っても全体運の方が下降気味な
ので、理想の相手はちょっと厳しいかもね。思いも寄らない異性から告白され
て、急に気になり始めちゃいそう。じっくり考えて、結論を出すのが吉よ。

 ……


 毎週、読んではいるけど、さほど気に留めていない占い。たかが少女雑誌の
おまけのページ、そうそう当たるもんじゃない。と、気楽に考えてた。
 でも、今朝は違ってたみたい……。
「島川さん」
 下駄箱のところで名前を呼ばれ、振り返ると、同じクラスの佐々木君。
 今日の日直、私と佐々木君。男女別に、五十音順。
 早朝の学校は静かだ。日直でもない限り、自転車を飛ばしてまで、こんな時
間には滅多に来ない。
「佐々木君も今?」
「ちょうどよかった。鍵、取って来るから待ってて」
 教室の鍵を職員室に取りに行くのが、日直の最初の仕事。二人一組で日直を
やるせいで、行き違いになると結構、面倒なことになる。今朝はラッキー。
「お待たせ」
 鍵をちゃらつかせ、かけてくる佐々木君。廊下、走ったらいけないんだぞ。
「ありがとう」
 私の隣まで来ると、ちょっとスピードを落とした佐々木君。横に並ぶのも何
だから、私は遅れて進み出す。
「早く早く」
「急かさなくたって」
 相変わらず早歩きの佐々木君。何をそんなに急いでいるんだろ。
「待ってよ」
「早くしないと、みんなが来る」
「佐々木君て、日直の仕事、そんなに熱心だっけ?」
 おかしくなって、冗談を言ったつもり。
「熱心じゃないさ」
 先に教室前にたどり着いた佐々木君は、にぎやかな音をさせて、戸を開けた。
 彼の姿が教室内に消えたところで、私はやっと一つ手前の廊下にいた。
 何のために私を待たせていたのよ。なーんて。
 机の列を整える音がする。
「あっ、先に窓、開けない? ほこりっぽいじゃない」
 前の扉のところに立って、主張する。
 カーテンさえ開いていない教室は、中途半端に明るかった。
「じゃ、開けて。机並べるよりも楽でしょ」
「はいはい」
 鞄を自分の机に置いて、窓際に寄る。
「あのさあ、島川さん」
「何?」
 カーテンに手をかけようとしたら、また名前を呼ばれた。今朝、二度目。何
だか気になる雰囲気が、彼の口調にあった。
「窓、開ける前に聞いてほしいんだけど……」
「だから何」
「……俺、島川さんのこと、好きなんだよな」
 自分の眉間にしわが寄っただろうな、このとき。
「は、はい?」
「聞こえなかった?」
 佐々木君は、眼鏡のずれを直して、もう一度その台詞を言いそう。
「い。聞こえたっ。聞こえたわ」
「そう」
 にっこり笑う彼。
「じゃあ、聞かせて。島川さんの気持ち」
「え……っと」
 突然言われて、何て答えればいいのやら。
 これまで何度か日直で一緒になったぐらいで、あとは……どうだっけ。そう
だ、宿題を教えてもらったことも三度ぐらい−−もっとかな?−−あった。彼、
クラスで一番成績いいもの。委員長に選ばれるぐらいだから、頼りになるし。
だけど、好きかどうかなんて、考えたことなかった。
「断るなら、きっぱりどうぞ。気にしないから、俺」
「えっと、その……急」
「きゅう?」
「急すぎる。考えさせてくれないと……」
「ああ。考えてくれるんだ? それだけでも嬉しくなっちまいそう、俺って」
 またにっこり笑う。悪意のない顔してる。こっちはどっきんどっきんしてる
のに。あ、何か暑いと思ったら、気温が高いんじゃなくて、顔が紅潮してるん
だ、私。
「もう窓、開けていいよ」
 そう言われたって、頭がぼーっとしてる。手、カーテンをつかんだまま、動
かない。
「何やってんの。代わろうか」
 すぐ側まで、佐々木君が来た。
「え! いや、いい。いいです。私、やる」
「だったら、俺、ごみを捨ててくる。ついでに黒板消しもはたいてくっか」
 彼は黒板消し四つに加え、ごみ箱をついと抱えると、ばたばたと出て行った。
 はぁ。何なのよ、もう……。
 窓を開けると、風がふんわり、流れ込んできた。顔の火照りが冷やされてい
く感じ。
「占い、当たったのかな」
 独り言を言ってると、廊下の方がまたばたばたと騒がしい。
 もう帰って来ちゃったのかと、再び顔が赤らむ思い。うつむいてしまう。
 ところが。
「島川?」
 佐々木君の声じゃなかった。はっと顔を上げ、確認するために振り返った。
 幸村。隣の席の幸村だった。
「な、何で」
 すぐ横を向いた。顔が赤いの、見られたくない。
「何で、幸村が来るのよ?」
「俺が来ちゃおかしい? クラス替えされた記憶はないんだけどなあ」
「馬鹿」
「ひっでえ」
 言いながら、幸村は入ってきた。サッカー部、朝練があったのか、水をかぶ
って頭が濡れてる幸村。
「馬鹿はないよなあ。俺、おまえの姿が見えたから、飛んで来たのに」
「ふざけないで。ほら、早く着替えてきなさいよ。部室の方でしょっ」
 今は誰とも話をしたくなかった。でも、特にこの幸村とは。普段、馬鹿話ば
っかりしてるから、気取られるかもしれない。
「何のために来たと思ってる?」
「わ、忘れ物でもしたんじゃないの!」
「はずれ。聞いて驚くな」
 ふふん。そんな風に笑ったように見えた。
「二人っきりになれると思ったから来たんだよなあ、これが」
「……ど、どういう意味よ」
「俺がおまえを、すっごく好きだってこと」
「え−−」
 視界がくらくらしてきた。
「告白するのにいいチャンスだと思って……。おーい、聞いてる?」
 気が付いたら、目の前で手を振られていた。
「ば、馬鹿。何やってんのよ!」
「いや、ほうけちゃってたから、おまえ」
「そんなことないわよっ。ええ、そんなことない」
「何、言い聞かせてんの。てことで、考えといて」
 さっさと行ってしまいそうな風情の雪村。
「ちょ、ちょっと。言うだけ言って、逃げるの?」
「逃げるとは心外だよなあ。返事できる? 無理だろ? だから猶予をあげる
訳よ。それに日直の相方−−佐々木か? 佐々木が来るかもしれないしな。ん
じゃま、よーく考えてくれたまえ」
 背中を向けて、片手を振りながら、幸村は教室を出て行った。
 ……とても疲れている私が一人、残された。
 が、休む間もなく、今度は本当に佐々木君が戻って来た。
「焼却炉の蓋、固くって参ったよ」
「そ、そう。ご苦労さま」
「堅苦しい言い方。ひょっとして、さっきのを気にしている?」
 まだ窓を開けきっていない私を手伝いに、佐々木君が近寄ってきた。
「う、うん」
 頭の中はパニック起こしてたけど、説明するのも変だから、ただ単にうなず
いておく。
「返事、なるべく早く聞かせてほしいな」
 佐々木君は無邪気な笑顔を、こちらに向けた。

 勉強、一時間目から、ちっとも身が入らない。
 授業前後の号令は、佐々木君。その声を耳にする度に、どきどき。
 授業中、隣には常に幸村がいて、どきどき。
 これで休み時間も、いつもみたいに幸村がちょっかいかけてきたら、どうに
かなっちゃってたかも。けれど、その辺はあいつにもデリカシーあるらしくて、
休みになったらどこかに消えていた。
 日直の仕事は色々あって、佐々木君からは離れていられそうにない。
 この休み時間も、クラス全員のノートを返却しておくようにと言われて、職
員室まで取りに行く。
「重くない? 持とうか」
「いい、いい。平気」
 昨日までだったら、何でもない一言なのに、今日はずっと緊張して聞かなく
ちゃならない。目も合わせづらいし。
「ごめんな、急で」
「え?」
 何のことか一瞬、分からなかった。だけど、すぐに理解できた。謝るのも急
だ、佐々木君は。
 教室に戻って、みんなにノートを配る。
 私は女子の分、佐々木君が男子の分を返す。ちょっと、ほっとする。
 二時間目も三時間目も四時間目も緊張が取れなくて、首とか肩が痛くなって
しまった。お昼を挟んで五、六時間目は合同体育なのに、大丈夫かしらって思
えるほど凝ってる。
「何、年寄りくさいことやってんのよ」
 右手で拳を作って、左肩をとんとん叩いていたら、とくちゃん−−徳田保子
と、えりりん−−山添理梨香がお弁当箱を持って机を寄せてきた。
「勉強のしすぎなのだ」
 お弁当を広げながら、私は恥ずかしさをごまかした。
「そうかな? 午前中、身が入ってないように見えたけど」
 理梨香、君は観察していたのか、私のことを。
「そうね、何か上の空だったわよね、ショウったら」
 保子も同調する。
 ちなみにショウとは、私に与えられたニックネーム。祥子と書いて「よしこ」
と読むんだけど、みんな「しょうこ」と呼ぶから、いつの間にか「ショウ」で
定着してしまった。中学のときは「しま」で通ってて、気に入ってたのにな。
「悩んでるとか? 言ってごらん」
「えりりんに言っても」
 口に出してから、しまったと後悔。もう遅い。
 理梨香は大きくうなずいた。
「やっぱ、悩んでるんだ。白状しろっ」
 箸で突っついてくる格好をする保子。
「え、と……」
 横目で探る。
 まず、幸村−−いない。たいてい学食を利用するから、今日もそうなんだ。
 次に佐々木君。席が離れているから、頭をぐるっと動かさないと。
 彼もいなかった。そう言えば、三時間目が終わったとき、委員長としての仕
事を何か言いつけられていたような。
 とりあえず、これから話題にする男子二人がいないと確認できた。けど、い
つ戻ってくるか分からない、そんな不安なまま話すのは遠慮したい。
「言ってもいいけど、今はだめ」
 私はそう結論を出した。
「じゃあ、いつよ」
「次、体育でしょ。そんときに話す」
 だって、体育は男女別なのだ。話しやすい。
「ふうん。絶対よ」
 理梨香は強く念押ししてきた。

−−続く




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