#3299/5495 長編
★タイトル (AZA ) 96/ 6/16 0:43 (171)
お祈りアクセスマジック 1 亜藤すずな
★内容
今日も放課後から、江山君のお家を訪ねちゃってます。
「何だか、にぎやかになっちまったな」
江山君がお茶を運んできてくれた。
最初はあたし一人だったのが、仲のいい成美と、当初の目的−−片想いから
の脱出−−に目覚めた司との三人で押しかけるようになっていた。
「お邪魔した上に、ごちそうになって、ごめんなさーい」
調子よく言って、成美はさっさと自分の分を受け取った。こういうときだけ、
かわいらしい声、出せるんだから。
「はい、三波さん」
「あ、ありがとう」
江山君から司にカップが手渡される。司、ほっぺたを染めちゃって、すっご
くうれしそう。
「はい、飛鳥さんも」
江山君があたしのことだけ下の名前で呼ぶのは、単に同じクラスに「松井」
という同姓の男の子がいるからだ。
「ごめんね。毎回、押しかけてくる度に」
「別に。僕は運んでるだけ。うちの母親、女の子を連れてくると、何だか張り
切っちゃってさ」
さらさらの髪を手でとく江山君。満更でもなさそう。彼、時計を見ると、芝
居がかって言った。
「さて。そろそろ東野も来る頃だけど」
「何っ?」
途端に表情を固くしたのは成美。
「呼んだの、あいつ?」
「いけなかった? 小学校のときから友達だし、特に横川さんとは仲がいいっ
て聞いたから」
「仲いいんじゃなくて、単にマンションの部屋が隣なだけ」
成美ったら、冗談じゃないとばかり、右手をひらひらさせてる。
「どうしてそんなこと言うの? 東野君、格好いいじゃない」
司がゲームのコントローラを放り出して言ってきた。ゲームの方は、一時停
止がかかっている。
「なら、司があいつと付き合ってみればいいでしょうが」
「ひどーいっ。なるちゃん、あたしの気持ち知ってて、そんな」
抗議の途中で口を押さえる司。そりゃそうよね。本命の江山君がすぐそばに
いるんだから。成美の方は並びのいい歯を見せて、あきれている。
「気持ちって?」
あたし達三人の会話が途切れたのを不思議に感じたのかしら、江山君が聞い
てきた。
「あー、それは」
「言っちゃだめ!」
成美がゆっくり始めようとするのへ、司が大声でさえぎる。成美もあらかじ
め承知していたのか、言葉を止めると、ぺろっと舌を出した。
「分かんないなあ」
江山君が言ったところへ、呼び鈴の音が。東野君が着いたみたい。
何だかんだと挨拶の声がしたかと思ったら、東野君が部屋に入ってきた。
「よ。−−女子の靴が三足あったのが目に留まったけど、成美達か」
ごくごく短い挨拶を江山君に送ると、東野君はあたし達の方を見ながら言っ
た。クラスが違うから、彼とはあんまり親しくない。でも、有名だから知って
いる。おおむね女子に人気があるのだ、東野君は。
「今日はお暇なわけね」
成美の口調、皮肉っぽい。
「誰ともデートじゃないなんて、珍しい」
「女子三人の相手してくれって、江山から頼まれたんだ」
断りなしに回転椅子に座ると、東野君は足を組んだ。
「ほんと?」
あたしと司は、江山君を振り返った。焦った様子の江山君。
「おーいっ。そういう言い方はしてない。僕一人が相手だと遊び方、パターン
にはまるだろうから、何かないかって聞いたら、『任せろ』って引き受けたく
せに」
「そういうことか」
いつの間にかゲームコントローラを手にしている成美。それって、司がやっ
てた途中じゃあ……。
「これだけ集まっておいて、ゲームなんて情けない。外に出ようという気、な
いのか?」
東野君は両手を広げ、江山君を含めたあたし達四人を見回した。
「時間がない。休みなら話は別だけどな」
「おまえ、放課後しかこうやって集まってないの? 何ちゅう、もったいない
ことを」
「そんなこと言われたって、きっかけがゲームだったから。ね、飛鳥さん?」
「え? あ、そうだよね」
急に振られて、びっくり。紅茶を飲もうとしていたところだったから、こぼ
しそうになった。
「あたし、『Reversal』と書いてあるフロッピーディスクを拾ってさ。
落とした人に返す手がかり、ないかなと思って、中身を調べてみたくなって、
それで江山君にお願いしたの」
「ふーん。結局、それって何だったの?」
「ロールプレイング系のゲーム」
江山君に交代。
「制作者の名前とかの情報はなかったんだ。多分、アマチュア作品だろうけど」
「持ったままでいいのか、そういうのって」
そう言われると、不安になる。今でもときどき、拾った場所に行って、あの
ときぶつかった人が現れないか、待ってみるんだけど、行き違いになるのか、
最初から現れていないのか、巡り会わない。
「警察に届けたら?」
「ちょっと事情があって、それはできない」
江山君は答えてから、あたしと目を合わせる。
『Reversal』には秘密があった。スタート前に主人公の設定をする
んだけど、プレイヤーがその設定通りになっちゃうという奇妙な力が。
当たり前だけど、それを知らずにやってたあたし、現実世界でも魔法使いに
なってしまった。それだけならまだよかったかもしれない。
ところが、『Reversal』のフロッピーを狙って、怪しい男に襲われ
る目に遭ったから、のんきにしてられなくなる。そのときはたまたま、二つ使
えた魔法の内の一つ、レベル1の攻撃魔法だけで撃退できたけど、もしもこの
先、新しく狙ってくる奴が現れて、そいつを倒せるかどうか、全然保証がない。
幸いと言っていいのかな。ゲームを進めて身に着けた魔法は、あたし自身も
使えるようになるみたい。だから、万が一に備えて、『Reversal』を
手放せなくなったわけ。
ちなみに、あたしがやったあと、江山君も『Reversal』を何度かプ
レイしているんだけど、同じことにはなっていない。成美や司もやったけど、
やはり何もなし。江山君が言うには、最初にゲームをした人だけ、不思議な力
を得られるようになっていたんじゃないかって。あたし一人じゃ不安なのに。
こんなことなら、江山君に先にやってもらってればよかった。
「警察にフロッピーを出したくないほど、面白いゲームなのか? コピーすれ
ばいい」
東野君、首を捻ってる。司と成美は、すでに話の輪を離れ、テレビゲームに
熱中している。
「プロテクトがかかってて、外せないんだ」
「ともかく、やらせてみろ」
「いいよ」
東野君はパソコンの前に陣取った。その横に立ったまま、問題のフロッピー
を差し込み、起動させる江山君。
「へえ……。シンプルだけど、なかなか」
オープニング。続いてリターンキーを押すと、キャラクター設定の画面に切
り替わる。
「いきなり設定かよ。ゲームの目的とかは?」
「あとから出て来るって。それよか、早く」
「分かってるって」
入力を始めた東野君。性別、年齢、名前、職業……と順次入れていき、最後
に決定の意味のリターンキー。
あたしは固唾を飲んで見守っていた。もしかしたら、あたしがやったときみ
たいな変化が起こるかなという期待と不安を抱きながら。
−−でも、ゲームは今度も普通に始まった。
がっかりするのとほっとするのと、二つの気持ちが混じって変な感じ。
ふと、江山君を見ると、表情からあたしの考えてることを察したのかしら、
苦笑いしていた。
夜、九時ぐらいになって、江山君から電話があった。
「どんな感じ?」
「なかなか進めなかったわ」
『Reversal』のこと。今日やった成果を、報告するの。みんながい
る前だとできないでしょ。だから電話。
「リパルシャンは変わってない。ハーモニーのレベルは、2に上がったんだけ
どね」
「リパルシャン」とは攻撃魔法のことで、「ハーモニー」は治療魔法。とも
に最初から備わっていたものだ。
「どうやって新しい魔法を覚えるのか、さっぱり分からない。魔法書なんて売
ってないし、教えてくれる親切な人にも巡り会わないし」
「そうか……。困ったな」
「あとね、治療魔法、自分には効かないみたい」
「そう言えば確認してなかったっけ。本当に?」
「多分、間違いないと思う。この間、風邪をひいて学校を休んだでしょう、あ
たし」
「うん」
「そのとき、試してみたの。自分に向けて、ラスレバー・ハーモニーって」
「ラスレバー」というのは、すべての魔法に共通する呪文。この言葉を頭に
付けて唱えると、各魔法(まだ二つだけど)が使える。
「それが、効き目なかったわけだ」
「そうなの。がっかりしちゃったせいか、熱、上がって」
「……まさか、魔法が悪い方向に働いたんじゃないよね」
「え? どういうこと?」
「想像だけど、自分自身に魔法を使うと、本来とは逆の効果が現れるんじゃな
いかなって。治療魔法が逆に働いて、風邪を悪化させた……」
「まさか! そんなことないって。熱、すぐに下がったわ。もしそれが当たっ
ているとしてもよ。じゃ、自分が怪我したとき、攻撃魔法を自分にかけるの?
そんなの恐くって、試せない」
「なるほどね。このことは、他の魔法を身に着けてから、調べるのがいいかな」
江山君は、おかしそうに笑ってる。もうっ、他人事だと思って。
「江山君!」
「はは、ごめんごめん。冗談だって。よく考えたら、自分にかける魔法なんて、
いくらでも想定できる。防護とか移動とか。そういうのまで自分自身に正常に
働かないんじゃあ、魔法の意味がないからね。きっと、治療魔法だけが特別な
んだよ。残念だけど」
「よく分からないけど。結局は、少なくとも三つ目の魔法を身に着けない限り、
はっきりしないってことじゃないの?」
「当たり、だよ」
がっくり。疲れたよー。
「じゃあ。そろそろ何かあったらいいね」
人の気持ちも知らないで、江山君、電話を切っちゃった。
−−続く