AWC そりゃないぜ!の恋3   寺嶋公香


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#208/1165 ●連載
★タイトル (AZA     )  04/02/20  23:19  (172)
そりゃないぜ!の恋3   寺嶋公香
★内容
 うわ、全然、現実的じゃねえ! つーか、まるっきり悪役じゃないか、自分。
滅茶苦茶格好悪い。
 動揺が面に出た。箸先からプチトマトがつるりと逃げて、土の上を転がった。

 そして午後は気怠く、憂鬱に過ぎて行った。
 しばらく自己嫌悪で三井さんをまともに見れないでいた。が、自分でも驚い
たことに、そんな憂鬱ささえ、三井さんと接していると、消えていくのが分か
った。一目惚れの後遺症は相当に深い。あきらめきれるだろうか。少なくとも
現時点では自信ゼロ。
 それにしても……と、授業中にも関わらず、僕は三井さんについて新たな疑
問を見つける。
 結婚するという話を、三井さん自身は僕の前でまだしてくれていない。何故?
 彼女も僕に一目惚れして、でも結婚が決まってるからどうしようもなくて、
ただただひた隠しに隠している……なんて嬉しい展開はコンマ一パーセントも
あるまい。それくらいは冷静に判断できる。自慢にならないが。
 好奇の目で見られるのが嫌なのだろうか。慣れ親しんだクラスメートならと
もかく、どんな奴だか分からない転校生に、結婚なんて重大事を話せやしない
ってか。
 否。これも僕の考えすぎだろう。多分、恥ずかしいだけなんだ。高校生同士、
初対面の挨拶のあと、「ところで、実は私、近々結婚するの」などと言えるも
のか。
 だったら僕も、三井さんの前では知らないふりをしておく。決めた。こう決
心しておかないと、僕自身、三井さんに相手の男について根掘り葉掘り質問し
てしまいそうな予感があるしね。
「岡本君の家は、どっちの方角?」
「は?」
 三井さんがこっちを向いて、何か言ってる。気が付いてみれば、今日最後の
授業が終わっていた。
 僕は頬杖を慌てて解除し、まさかとは思うが口の周りを念のために拭った。
「岡本君て、目を開けて眠れるの?」
 真顔で聞かれて困ってしまった。「いや起きとったがな」と、困ったときの
関西弁頼みで切り抜け、最初に何を言っていたのかを聞き直した。
「だから、家はどこ? もし方角が近かったら、途中まで一緒に帰らない?っ
て思って」
「……三井さんは、車でしょ」
 どういうつもりか知らないが、送ってあげると言われたとしても、婚約者の
運転する車になんか乗りたくない。
 自分がぶーたれた顔になるのを自覚したが、どうにも止めようがない。三井
さんにはどう映るんだろ。
 果たして彼女はころころ笑いながら答えた。
「あ、昨日の。見てたのね。今日は迎えなし。えっと、運転手の都合ってやつ」
 そういうことか。仕事の関係か何かなんだろう。
 それにしても、相変わらず、婚約者の存在をちらとも匂わせない三井さん。
 ともかく、僕は大まかな通学ルートを伝えた。
「あっ、よかった。ほんとに途中まで同じだわ」
 手を打って微笑む三井さん。僕も内心、かなり喜んでいるのだが、それを押
し隠して尋ねる。
「何でまた、僕なんかと一緒に帰ろうと?」
「岡本君のことまだよく知らないから、ちょっとでも知っておこうかなって。
折角、友達になれるチャンスを得たんだから」
 友達。まあ、仕方がないよな。
「まさか、二人きりで下校ってんじゃあないよね?」
「あはは。その『まさか』をどう受け取ったらいいのかしら。少なくともゆき
ちゃん……蓮沼さんは一緒。あと、クラスは違うけど、知念さん」
「女子に囲まれて嬉しくないはずがないけど、気恥ずかしいよ」
「じゃ、男子も。これでも結構人気があるんだよ。声を掛ければ一緒に帰って
くれる男子の一人や二人ぐらいは……なんて」
 そりゃそうでしょうとも。三井さんは握り拳を作って冗談めかして言うけれ
ども、僕は素直に頷けた。
 結局、僕は一緒に帰ることにした。つくづく思うけれど、これで三井さんに
婚約者がいなけりゃ、理想的な展開なのに。

「へえ、大地って格好いい名前。ドラマやアニメの主役みたい。名付け親のセ
ンスを感じるわ。そうそう、私、知念麻衣子。万里とは小中高と一緒」
 名前を誉めてくれたあと、自らを指差し、忙しない調子で自己紹介をしたの
は、いわゆるツインテールが印象的な子。脱色しているのか元からなのか、髪
が若干茶色がかって見える。目は、さして大きくないが、くるくるとよく動く。
「岡本は部活はしないのか? 結構いい体格してるんだし、運動部に入れば、
今からでもいいとこ行くんじゃねえの」
 そういったのは、クラスメートの合田邦晶。当人は相撲か柔道あるいはラグ
ビーでもしそうな体型なのに、テニス部でラケットを振っている。白くて高い
帽子を被ったフランス人シェフが、中華のフルコースを作るぐらいの違和感が
あるなあ。
「体格の善し悪しで決め付けるのはよくないぜ。俺のようにスポーツ万能でも、
ロックしてる人間だっているんだからな。ロックも体力・スタミナが必要なの
は言うまでもないが」
 連城賢は知念さんと同じクラスで、背が一九〇ほどある。指だけを見れば細
長くて華奢だが、体格のよさは学生服の上からでもよく分かる。スポーツ万能
と言うのも満更嘘じゃないんだろう。伸ばした髪の内、前髪の先を茶に(こっ
ちは明らかに)染めている。微妙に色調が違っているから、カフェオレ色とで
も言うべきか。
「どこかの部に入るつもりはあるんやけど、まだ全然。参考にするから、話聞
かせてな」
「私に言ってくれたら、案内したのに」
 三井さんがかわいらしく異を唱える。うんうん、ありがとう。でも本当に候
補すら決まってないんだ。
 てなことを口で説明して、改めて聞く。
「まず、三井さんから。部は?」
「私はこの前まで合唱部だったけれど……」
 きれいな声が答える。
「辞めたの? 四月にすぐ入部したとしても、六ヶ月で辞めたとなると、雰囲
気悪かったとか」
「ううん、違うわ。先輩も他の新入部員も、とってもいい雰囲気だった。私、
忙しくなっちゃって。辞めたと言うよりも、休ませてもらってる感じかな」
 忙しくなった理由を聞いてもよかったのだけれども、やはりそれは結婚に関
係しているのだろうと想像できたので、よしておく。
 このあと、蓮沼さん達女子二人の入っている部を聞いたが、僕にとってはあ
まり大きな意味を持たない。申し訳ないけど、聞き流す状態に近かった。
 でも、何のクラブかぐらいは、覚えていた。そのはずだったんだ。
 忘れてしまったのは、直後に起きた出来事のせいであって、僕自身の責任じ
ゃないと思いたい。
 交差点やバス停などで一人抜け、二人抜けし、僕にとっての最寄り駅に降り
立った段階で、他には三井さんと知念さんだけになっていた。
「こーんなに近いんだ? 大阪から越してくるのがもっと早ければ、中学も同
じだったわね、きっと」
 知念さんがそう言って、「惜しい」と指を鳴らした。割と大雑把な性格なの
か、兵庫と大阪を区別しないし、僕の関西に対する諸々の感情ってものをまる
っきり無視してくれてる。
 だけど、この手のタイプは前の学校にもたくさんいた。もっとずっとひどい、
がさつな女がいっぱい。そんなこともあって、こっちの女子に思いっきり期待
してたんだよな。期待以上の人がいたにも関わらず、現実は厳しい。
 僕は知念さんの言葉を適当に受け流し、二人がどの方角に行くのかを聞こう
とした。
 その瞬間、車のクラクションが短く、柔らかく鳴った。続いてもう一度。最
初より少し長めに鳴り響く。
 僕らは三人とも振り返った。視線の先には、黒光りするきれいな車がエンジ
ンを掛けた状態で停まっていた。国産高級車だ。大型ではないが、妙に威圧感
がある。
 運転席側の窓が下がって、淡い青色のサングラスをした細面の男が笑顔を覗
かせる。尖った顎が目に着いた。
 誰だあれ? 先生か? にしては若いし、やけに格好を付けている。
 そんな自問自答を積み重ねていた僕の横で、三井さんが呟いた。
「由良さん……」
 ええ? 由良ってことは、あの人が、あいつが君の婚約者?
 そうと知れた途端に、敵意を覚えてしまった。なかなかハンサムな奴だなと
ちらと思ったのが一転、狡賢そうな極悪面だと決め付けた。いかんいかん、感
情が暴走気味。
 懸命に抑制しながら、僕にできることと言えば、三井さんがどう反応するの
か、見守るぐらいしかない。彼女の表情や仕種、一挙手一投足を全て見落とす
まいと、僕は必死に横目を使った。
「仕事があると言っていたのに」
 三井さんはそう呟くと、車へと小走りに駆け寄った。表情はあっという間に
見えなくなる。僕と知念さんは、歩いて後を追った。
「万里」
 男が口を開いた。やや低音で、男らしさをイメージさせる声だった。
「思いも掛けず、空白ができてね。学校まで迎えに行こうかと思ったんだが、
時間帯を考え、こちらで待つことにしたんだよ」
「待ったでしょう?」
「いや。ほぼ計算通りさ」
「それにしたって、携帯に電話くれたら、学校で待ってたのに」
「いいじゃないか。驚かせたかったんだ」
 気障な喋りが鼻につく。これだから東京もんは! などと感じるのも、やは
りこの男が三井さんの婚約者であるからに違いない。
「ところで、そちらのお二人さんは? 万里のクラスメートかな?」
 車を降りた由良は、上着を脱いだビジネスマン然としていた。背が高く、足
が長く、胸板は逞しい。研究者のイメージを作り上げていた僕にとって、かな
りギャップがあった。
「私はクラスは違いますが、小さい頃からの友達です」
 知念さんが言った。どことなく刺があるように聞こえたのは、気のせいだろ
うか。
「クラスメートの岡本大地です」
 とりあえず、名乗るぐらいはしておこう。別にどうとなるもんでもないが。
 軽く頭を下げ、再び面を起こしたとき、相手の笑み混じりの視線を受けた。
優越感たっぷりのそれは、僕や知念さんを完全に子供扱いしてやがる。
「二人とも、ここまで万里に付き合ってくれて、感謝するよ。あとは私が送る
から」
 三井さんを横に立たせて、由良が饒舌に言う。早く帰りなさいと、手の動き
が語っている。僕らが何気なく粘ると、彼は更に言葉を重ねた。
「それにしても万里はいい友達に恵まれている。普段から万里がお世話になっ
ているようだね」
「いいえ」
 相手の言葉尻を僕は速攻で否定。
「ん?」
 やった。ちょっと間抜け面を拝めたぞ。そういう表情もするんじゃないか。
格好つけてないで、同じ位置まで降りてこい。
「僕は転校してきたばかりでしてね。分からないところだらけで不安だったの
が、三井さんに親切に教えてもらって、大変助かってます」
「ほう……」
「もうしばらく、三井さんの助けを借りたいな。よろしいですか? 婚約者の
由良さん?」

――続く





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