#350/598 ●長編
★タイトル (AZA ) 09/11/30 00:51 (287)
お題>嘘のない世界 1 永山
★内容
木でできたベッドに、丸太を組んだ壁。一夜明けて目が覚めても、周囲の光
景は前日と同じだった。夢ではなかったようだ。
うたた寝をしたのがよくなかったのか、昨日の昼過ぎから、妙な世界に迷い
込んでいる。ラウデソンさんによると、ここは嘘のない世界だという。誰も嘘
をつかない、つけない。それが当たり前の世界。大昔はこの世界の人々も嘘を
言えたらしく、概念としての嘘は存在する。嘘をつかないのは、倫理的に潔癖
だとか、正直者ばかりが揃っているとか、そんな訳ではなく、ここの摂理だと
いうことである。
と言われても、私には確認する術がない。それに、私自身はこの世界にいる
今も嘘をつける。私の職業は探偵なのだが、未知の土地にいきなり飛ばされた
だけでも途方に暮れているのに、その上、ここの西洋風の人達に胡散臭がられ
てはまずいと考え、旅行雑誌の記者だと名乗ったのだ。
ただ、常識を越えた世界に来たことだけは分かる。私は日本語を喋り、彼ら
彼女らはどこの国のものともしれぬ言葉を喋るのに、お互いに理解し、会話が
完全に成り立っているのだから。
「キムラさん。朝食の準備ができました。そろそろ起きませんか」
ラウデソン夫人のマルシャさんの声が、ドアの向こうから聞こえた。この辺
には宿屋がなくてお困りでしょうと、彼ら夫婦は私に泊まっていくよう勧めて
くれた。大変ありがたく、どんなに感謝しても感謝しきれない。
私は今行きますと返事をしたあと、急いで身支度をし、髪を手でなでつけて
から廊下に出た。
さて。
そんな感謝している相手に、こんなことを尋ねるのは忍びなく、申し訳ない
ののだが、昨夜、眠りに就く前に思い付いた質問をしてみたい。嘘をつかない・
つけないというのが、真実なのかどうかを確かめるために。
「いくつか質問をさせてください。あなた方のプライバシーに関わることです
が、よろしいですか?」
「かまわんよ」
ラウデソンさんは席にゆったりと腰掛け、コーヒー(らしき物)の入ったカ
ップを口元に運ぶ。その顎髭に埋もれるような人のよい笑顔を歪ませるような
真似はしたくないのだが、仕方がない。たとえこれで怒りを買って、追い出さ
れたとしても、悪いのは自分だと納得できる。
「気分を害されたら、謝ります」
「前置きはいいから、早く質問とやらをどうぞ」
「では……」
言い掛けたものの、切り出しにくい。元いた世界に戻る方法が分からない内
は、余計なことはせず、逗留させてもらう方が賢明だろうか。
私のそんな困惑顔を目の当たりにしてか、ラウデソンさんがにやにやし始め
た。視線を合わせると、弁解する風に答えてくれる。
「いや、こいつは失礼をした。どんな質問をお考えになっているんだろうと想
像すると、つい。嘘を言えないと確認するには、やっぱり、我が家の財産か、
でなければ性的なことかね?」
「え、ええ、まあ……」
図星をさされ、驚くよりも恐縮してしまう。
「実は、あなたのように別の世界から来る人は、あなたが初めてじゃあないん
だよ」
「ええ?」
「聞かれなかったので黙っていたんだがね。私が知る限り、この近隣だけでも
十人以上いたなあ」
「その人達はどこに?」
私は気負い込んで聞いた。みんなで情報を持ち合えば、異世界に来てしまっ
た理由が分かるかもしれない。あるいはすでに分かっているのなら、教えても
らいたい。
「もう誰もいやせんよ。元いた世界に戻れたんだろう」
「だろう、ということは……」
「ある日突然、姿が見えなくなったものでな。こちらにいる我々としちゃ、戻
ったと推測するほかない訳だ」
「そうでしたか。じゃあ、その人達は何日ぐらい、こちらにいたのでしょうか」
戻れるらしいと分かって安心したのも束の間、それが十年も二十年も先の話
では困る。
「みんなばらばらだったな。ざっと、十五日前後からひと月。一番長かった人
でも、三ヶ月ほどだった」
「三ヶ月……。あ、こちらの世界で、ひと月は何日間なんです?」
「ん? ああ、そうか。キムラさんのとこが何日か知らないが、こちらでは三
十四日が基本で、三十三日の月もある」
「なるほど」
およそ百日後と思っておけばよさそうだ。無論、厳密に言えば一日が何時間
に当たるのか、そもそも一秒が私の知る一秒と同じ長さなのかを知らねば、時
の流れの感覚は掴めない。携帯電話を持つようになってから腕時計をしなくな
ったし、その携帯電話は活用を思い付いたときには使えなくなっていた。まあ、
ここに着いてから今までの実感や、今朝起きたときの目覚めのよさ、日に食事
が三度あるという生活習慣などから考えても、大差なしと捉えて大丈夫そうで
ある。
「それで? キムラさんはどんな質問で、私達が嘘つきか否かを判定するつも
りでしたかな」
ああ、すっかり忘れていた。
「やっぱりよします。今しなくても、こちらで数ヶ月暮らす内に、自ずと明ら
かになるでしょうから」
異世界に来てから十日間が経過した。私は厚意に甘え、ラウデソン夫妻にお
世話になりっ放しでいた。こっちの世界の人達全員がそうなのか、ラウデソン
夫妻が特別に親切で優しいのか、それは分からない。とにかく、彼らはよくし
てくれる。
居候を決め込み、ただで食事と寝床を得るのは、楽だが本意でない。私は何
かの形で恩返しをしたいと考えていた。具体的には、働いて稼いだお金で返す
ぐらいしかなさそうだ。最初の戸惑いから来る心身のダメージは回復し、ラウ
デソンさん以外の町の人達にも顔と名前を知ってもらい、ようやく馴染んでき
た(そして、確かにここの人達は誰も嘘をつかない。少なくとも今までは)。
そろそろ動くべきタイミングだろう。
決心したはいいが、私に何ができるかとなると、些か心許ない。どうやら私
は、この世界の言葉を理解し、文字を読むこともできるが、書く行為だけは練
習しないと身に付かないらしい。これでは事務仕事は難しそうだ。探偵を本職
とするからには、人並み以上の体力や持久力はあるつもりだから、力仕事なら
どうにかなる。だが、根本的な問題として、町に仕事が溢れている状況ではな
く、近くに工場の類がある訳でもない。
結局、ラウデソン夫妻に相談するしかなかった。
「何だ、そんなことなら、うちの畑仕事を手伝ってくれればいい」
夫妻は農業をやっている。根菜が主のようだ。大根ぐらい大きな人参や、鮮
やかな黄色をしたさつまいもと、元いた世界では見られない物ばかり。あとは
果樹が少し。こちらの方は、とても美味しい桃が採れるらしい。実りの時季で
ないため、まだ味わえないのが残念。
「息子が独立してからは、妻と二人でやって来たが、ぼちぼち下り坂に差し掛
かった気がしないでもないしな」
太い腕をした主人は冗談めかして言った。髪に白い物が混じってはいるが、
肉体にはまだまだ力と元気が漲っている。少なくとも農作業に関しては、私の
倍は仕事をこなすに違いない。
「しかし、それではかえって足を引っ張りかねません。お手伝いはしますが、
他に何かをしたいと思いまして」
「うーん、そうさな。あっちの世界から来た人なら、あれを持ってるんじゃな
いかな」
「あれとは」
「写真機だよ。あれはこちらの世界にはないんだ」
「ああ……」
私は妙に合点が行った。
こちらの世界の文明は、私が元いた世界よりも若干遅れている。およそ四十
年ほどだろう。分野ごとに大きな差はなく、万遍なく追走している感じだ。た
だし一点だけ、完全に進歩を止めていると思えるのが、物を写し取る技術。カ
メラの類が一切ない。映画やテレビも当然ない。日常の娯楽はラジオが主役で
ある。こちらに来た当初、新聞にテレビ欄がなくて不思議だった。
「カメラなら持っていますが、それをどうしろと」
携帯電話は充電器をなくしたため、早々に使い物にならなくなったが、カメ
ラはよくあるデジタルを一台、万年筆型をした小型カメラを常時身に着けてい
る。探偵の七つ道具の一つ、といったところか。
「写真は鏡を切り取ったみたいで、受けるんだ。商売になると思うんだが、ど
うかね」
「ええっと」
私は考えながら答える。
「ラウデソンさんがご覧になったことのあるカメラは違ったのかもしれません
が、自分の持っているカメラは、専用の機械がないと写真を一枚一枚取り出せ
ないんです」
「かまわんよ。ちっこい窓枠みたいなところに写真を表示できるんだろう?
そいつを見せるだけでも喜ぶ」
そんなことでお金を取っては悪い気がする。いくらにすれば妥当なのか、相
場も分からない。とはいえ、いつまでも足踏みをしている訳にも行かない。値
段設定のアドバイスをもらい、私は早速写真屋を開いた。
「毎度ありがとうございます。またのご利用を。足下、お気を付けて」
二度目になる町の人を笑顔で見送ったあと、受け取った硬貨を右手に持った
布袋の中に落とし込んだ。重みを感じる。左手にはまだ、もうすぐ三時だから
と渡された菓子が残っていた。
写真屋はそれなりに繁昌していた。ここの人達は、映った姿を見るだけで大
喜びしてくれる。雨上がりで地面がぬかるんでいても、わざわざ足を運ぶほど、
気に入ってくれている人さえいる。
無論、この人気は長く続くまい。近い将来、頭打ちになるのは分かり切って
いる。いつ元の世界に戻れるか分からないことでもあるし、もっと短期間でも
う少しまとまった稼ぎが欲しい。
いっそ、私もここの人達を見習って、嘘をやめようか。正直に職業を打ち明
け、探偵として看板を掲げれば多少は……いや、だめか。この町の規模なら、
依頼があるとしても浮気調査か泥棒ぐらいだろう。でも、この世界の人達は嘘
をつけないのだから、浮気調査なんて必要がない。泥棒などの犯罪にしたって、
一人一人を問い質せば確実に犯人を見つけられる。
この世界では、事件が起きても、警察がほとんどルーチンワークで処理して
事足りる。探偵は不要な存在なのだ。そう思うと、少し寂しい気がする。
詮無きことで物思いに耽っていると、外が騒がしくなった。遠くから聞こえ
ていた声が、段々近付いてくる。声の主がラウデソン家の前を通過する頃、や
っとその内容を把握できた。
「シリンガムのじいさんが亡くなった! 殺されたのかもしれんそうだ!」
――やはり、殺人事件は珍しいとみえる。
往来に出て、様子を窺ってみる。興味はあったが、野次馬根性を面に出して
見に行くのには躊躇を覚えた。私はこちらの世界では、異人種なのだ。まだま
だ馴染めていない現在、目立つ振る舞いは避けた方が賢明かもしれない。
と考えていた矢先、泥を跳ね上げながら駆けてくる制服警官の姿を視界に捉
えた。こちらの世界に来て、真っ先に事情聴取を受けたが、そのときの若い男
と同じ人物のようだ。通り過ぎるものと思っていたが、さにあらず。私に声を
掛けてきた。
「おー、キムラさん。いたいた。いてくれてよかった」
「な、何でしょう?」
笑顔を見せてはいるが、殺人事件が起きた直後に警官から呼ばれるのは、あ
まりよい気持ちはしない。
「あんた、写真屋を始めたんだってな」
「え、ええ。ラウデソンさんの家で……」
「写真機を持って、来てくれ。スケッチするよりもずっと早いだろう?」
「何のことです?」
腕を引っ張られ、たたらを踏みそうになる。警官は分かり切ったことを聞き
返されたという風に、目を丸くした。それでも教えてくれた。
「現場のスケッチだよ。現場の様子を絵に描くのは、毎度大仕事なんだ」
そうか。言われてみれば、カメラがあるとないとでは、大違いだ。
「容疑者さえ絞り込めば楽に片付くんだが、それまでは念のため、色々と記録
しておかなきゃならん訳だ」
「分かりました。でも、民間人の私が関わっていいんですか。カメラを貸しま
すから、ご自分で撮れば済む」
「万が一、使い方を誤ったらまずい。あんたは嘘をつけるようだが、こっちに
来たばかりのあんたが、シリンガムのじいさんと殺す殺されるの関係になるは
ずがないから、信用しているよ」
「はあ」
こうして予想外の形で事件に関わることになった。
事件の舞台となったシリンガム家は、ラウデソンさんの家から徒歩で十五分
ほどの距離にあった。赤い規制ロープを通され、門扉をくぐると、敷地内には
母屋と離れ、そして何かの工房らしき建物があった。捜査を取り仕切るらしい
私服の刑事――シャルオン・メル刑事に紹介されたあと、離れの方向へ連れて
行かれる。
「指示するから、その通りに写真にしてください」
メル刑事は丁寧な物腰で頼んできた。撮影という単語はないものとみえる。
まず、建物の全景を収めたあと、足跡を撮影した。ぬかるんだ地面に、他と
違って乾き始めた足跡が残っており、母屋との間を往復していた。そこを重点
的に撮るように言われた。
「第一発見者の足跡ですか」
シャッターを切りながら、つい尋ねてしまう。これは余計な口を聞いたかと
はっとなったが、メル刑事は簡単に「ええ、そうです」と答えてくれた。これ
も嘘をつけないせいだろうか。
「これから離れの中に入りますが……キムラさん、殺人現場は初めてで?」
「いえ、何度か」
相手の親切な対応につられ、私も正直に答えていた。
「それなら大丈夫かな。尤も、頭部を切断されているのは、刺激が強いと思い
ますが」
「平気です」
そんな残虐な犯行とは知らなかった。だが、ここは多少無理してでも、捜査
の様子を知っておきたい。これが探偵の“さが”か。
中は仕切りがなく、一部屋のみの造りになっていた。万年床を脇に、悠々自
適の日々を送っていたのだろうか。遺体はまだ搬出されておらず、切断面の様
子や血の飛散具合などを撮影するよう指示された。断面を恐々見ると、喉元か
ら斜め上方向に切ったのが分かり、犯人は竹槍でもこしらえたかったのか?と
妙な感想を抱いた。
「あと、これも。切断した凶器と思われます」
床に転がる鋸を示す刑事。私は焦点を合わせ、シャッターを切る。
こんな具合に現場写真を撮る間、メル刑事は事件の背景を話してくれた。
シリンガムのじいさんことコルト・シリンガムは、齢八十近い痩せた人で、
年中何らかの小さな病気を持っているような状態だったらしい。シリンガム家
は亡くなったコルトを含め、六人家族。コルトの一人息子、バンド・シリンガ
ムと妻のエリンケの間にまだ成人に達しない三人の子供がいる。代々染色を稼
業としているが、ここ数年は新技術の登場で売上げは激しく落ち込んでいた。
コルトは普段から離れに住んでいた。第一発見者はバンドで、昼食ができた
ので呼びに行ったところ、惨状を目の当たりにした。現時点で死因は判明して
いないが、首の切断は死後行われたとの見立てだという。
「凶器の鋸は、シリンガム老は日曜大工に凝り始めていて、元から離れに置い
てあったという話です」
なるほど。他にも板切れやハンマー、様々なサイズの釘に荒縄などが転がっ
ている。
とにもかくにも、言われた写真は全て撮り終えた。カメラの画面を覗かせる
と、相手は感心かつ満足したように頷いた。
「こいつは素晴らしい。ご協力をありがとうございます、キムラさん。それに
しても随分と興味関心を持っておられるようですが、キムラさんの世界では、
こちら以上に殺人が珍しいんですかね」
「殺人の起きる頻度に関しては、何とも言えませんが……まあ、記者をやって
いると、警察や探偵の真似事もたまにする訳でして」
つまらないことでも嘘をついていると後ろめたく、口調も言い訳がましくな
る。私は早口で言葉を足した。
「こちらではじきに解決するんでしょうね。嘘をつけないのだから」
「多分。希に、だんまりを決め込む輩もいるが、それは要するに口を開くと真
実を言わざるを得ないから黙秘していると解釈されます。悪あがきですね」
そうか、黙っているという選択肢もあるんだな。刑事の言う通り、真に犯人
なら無駄な抵抗だが。
「容疑者は挙がっているのでしょうか。差し支えがなければ……」
率直に質問する。実は、さっきメル刑事の話を聞いて、引っ掛かった点が一
つあった。
「まだ始めたばかりですから。とりあえず、家族全員に詳しく話を聞くつもり
ですよ。まずは死亡時刻の絞り込みをして――」
「家族一人一人に、『あなたが殺したのか?』と尋問するようなことはないん
ですか」
この質問に、メル刑事は少し笑い声を立てた。
「今は無理です。キムラさんがご存知ないのも無理ありませんが、こちらの世
界では、我々警察は疑う根拠なしにその手の質問を関係者にすることは、禁じ
られていましてね。端から質問できれば、楽に終わることも多いんだが、ルー
ルはルール。守らねばなりません」
被疑者の人権、いや、関係者の人権を守るためという観点から、そうなって
いるらしい。私は引っ掛かっていた点をぶつけてみることにした。
「メル刑事。気付いていると思いますが、第一発見者の証言は不自然ですよね。
そのことをもって、『あなたが殺したのか?』と尋問するのはありなんじゃな
いでしょうか」
「うーん。あいにく、次から次に入ってくる情報の整理に忙しく、あなたが何
を示唆しているのか……ああ、分かりました。第一発見者のバンド・シリンガ
ムは、食事ができたのでシリンガム老を呼びに行った。ところが、警察への通
報は午後二時半頃。遅めの昼食だったとしても、通報が一時間は遅れているこ
とになる――ですね?」
「ええ、その通りです」
こちらの世界でも一日は二十四時間であり、食事は日に三度。昼食は正午過
ぎに摂るのが一般的な習慣だ。
「バンド・シリンガム氏を怪しむに足る、充分な理由になるのではありません
か」
「まあ、そうなりますね。遺体を正午過ぎに見つけたのは間違いないでしょう
から、そのあと、一時間ほどを何に使ったのか……」
遺体発見が午後二時辺りというケースを考慮しなくていいのか。内心、そん
な疑問が浮かんだが、声にする前に自己解決した。ここの世界の人は嘘をつけ
ないのだから、食事に呼びに行った際に遺体を見つけたことは、事実と判断し
ていいのだ。
「早速、確かめるとしましょう。さすがにキムラさんをご同席させる訳に行き
ませんが、あしからず。あとで――数日後になるかもしれませんが、お知らせ
すると約束します」
「あの、このカメラはどうしましょう? 警察で保管、とか?」
「そうですね。分からない連中が触って、証拠写真を台無しにしても困ります。
できれば、あなたが厳重に保管してくださると助かります」
そんなことでいいのだろうか。彼らには扱えないカメラではあるが、捜査資
料だ。場合によっては、重要な証拠にもなろう。民間人どころか異世界人であ
る私に、証拠の保管を頼むなんて。
――続く