#151/598 ●長編
★タイトル (AZA ) 03/06/11 21:26 (290)
公園の背広男 1 永山
★内容
※本作は、電脳ミステリ作家倶楽部の第二回競作イベント「共通の謎に挑戦!」
のテーマ候補の一つ“公園の謎”に対し、自分なりに応えた物です。
* *
(今日もまたいるのう)
いつものように朝の散歩に出掛け、自宅から十分ほどの公園、その横を通り
かかった甲斐は、ベンチに座る一人の中年男性に自然と目をやった。
甲斐は歩調を若干落とすと、ジャージのポケットから懐中時計を取り出し、
蓋を開いた。
午前九時五十五分。
元の場所に時計を仕舞いながら、「時間も一緒だ」とつぶやく。ここ数日、
これと似たようなことの繰り返しである。
甲斐がベンチに男を見掛けるようになったのは、七月最初の火曜日からであ
った。今日で八日目になる。
定年退職をして以後、持ち前の好奇心に拍車の掛かった甲斐ではあるが、冴
えない中年男に一週間以上も興味を持ち続けるほど酔狂でもない。にも関わら
ず、その存在を気に留めずにいられないのには、ちょっとした理由がある。
男は背広を着ている。毎日だ。全く同じ服装にも見えるが、さすがにそこま
での確証はない。ともかく、背広を着ているからには、サラリーマンなのだろ
う。ただ、勤め人にしては、そしてこの年齢にしては、髪が長く、耳を隠すど
ころか、肩に付きそうなほどある。そこがいささか奇態であったが、長髪を認
めない会社ばかりでもあるまいと、気にしないでいた。
だが、深く考えるまでもなく、サラリーマンなら、平日の午前十時前に、公
園で一人、ぽつんとベンチに腰掛けているとは、おかしい。
営業担当の不良社員で、外回りの時間を、公園で潰しているのかと最初は思
って、顔をしかめていたのだたが、どうも違う。
まず、鞄も何も持っていない。営業の人間が、何も持たずに外回りをするこ
とがあるのだろうか。まず考えられない。同様の理由で、訪問販売員でもある
まい。
それともう一つ。あと五分もすれば、つまり十時になると、中年の背広男は
迷いのない様子でベンチをすっくと立ち、公園から出て行ってしまう。さぼっ
ているにしては、その踏ん切りの付け方があまりにもしゃきんとしており、違
和感が拭えないのだ。
そこで新たに思い浮かべたのが、解雇された元会社員ではないかという説。
このご時世、リストラの憂き目にあったことを家族に言い出せず、出社のふり
を続け、公園で時間を浪費している。職探しをしようにも当てがないし、職安
に行かないのは朝は特に混むからではないか。十時を機に、己を奮い立たせて
職安に向かうのだ。鞄がないのは、恐らく目立つところに会社の紋章のワッペ
ンでも貼り付けていて、それを持って歩くのに気が引けるため。駅のコインロ
ッカーにでも仕舞い込んでいるのだろう。事実、公園から駅までは一本道だ。
顔色が悪いのも、不安定な現状を憂えてのことかもしれぬ……。
などと想像して、内心、我ながらなかなかの名推理だと得意になっていた甲
斐だったが、これも日を重ねるに従っておかしいと思うようになった。
平日は出勤のふりをする必要があるのは分かる。だが、かの背広男は、土日
もやはり公園にいたのである。普通、会社は休みのはず。ならば、家でごろご
ろしておればいいではないか。いや、外に出てもかまわぬが、何も背広を着込
んで、公園でただ座っているというのは妙だ。
それでもなお、この説に執着した甲斐は、ひょっとすると月曜が休みの会社
に勤めていたのかもしれぬと考えた。火曜日に初めて目撃し、土、日まで続い
た時点での話だ。ところがその翌日の月曜日、公園のベンチにはやはり背広男
がいたのである。仮説は崩壊した。
ならば一体何なのだと、八日目の今日に到った次第である。
(これはわし自身の習慣を、ちょっと変えなきゃいかんかもしれん。今日、何
の発見もできなんだら、明日は早めに散歩に出て、何時からあの男が公園に現
れるのか、見届けてやるとしよう)
公園の周囲をゆっくりと半周し、出入口の門に差し掛かった甲斐は、ベンチ
の男を気にする素振りを見せず、公園内に入った。いつもの順路だ。背広男が
現れる以前より、散歩のコースは変えていない。
(初めて見掛けたときに、挨拶をしておけばよかったんだが)
後悔を覚える。甲斐は人見知りをする方ではないが、こと背広男に限っては、
初見時に、さぼりの会社員だという印象を抱いたがために、挨拶しそびれ、結
果、その後も何となく声を掛けられなくなっている。
ベンチには近付かないようにしながら、公園の中を散歩する。横目を使って
の背広男観察はもちろん怠らない。
しばらくして甲斐はかすかな異変に気付いた。懐中時計を取り出し、見る。
十時を一分過ぎていた。
(おかしいな。今日はまだ立ち去らないのか)
訝る甲斐は歩むスピードを落とし、男の様子を詳しく見極めようと試みる。
普段よりも表情が険しく、顔色はいつも以上に悪い。青ざめた感じすらある。
よくよく見ると、口を忙しなく動かしているのも分かった。独り言か? 残念
ながら声は聞こえない。甲斐は己の耳の遠さを悔やんだ。
と、視界の隅で、背広男がすっくと立ち上がった。
その瞬間、甲斐は急いで懐中時計を再度見た。午前十時五分を示している。
これまでは、十時ちょうどかほんのわずか遅れる程度でベンチを立っていた
男が、今日は五分も遅い。しかもまだ出て行こうとはしない。何かあるぞと緊
張した甲斐は、公園の柵沿いにぐるりとある木立の緑に目を奪われたかのよう
なふりをし、視線を移していった。
背広男は前日までの迷いのない立ち去り方はしなかった。いや、むしろその
場に居続けようとしている。ベンチの前に立ち尽くし、左耳の辺りを片手で押
さえながら、きょろきょろと頭を巡らせていた。
距離を詰めたいと思った甲斐は、意を決して近付こうとした。ベンチが空い
たので座りに来た風を装えば、不自然に映るまい。
が、そんな計算は無駄になった。背広男は、歯ぎしりのような仕種をしたか
と思うと、名残惜しげにしつつも、土を蹴って駆け出した。そして公園の外へ
出ると、左に折れて走っていった。
「あ……」
突然のことに、意識せずに声を漏らした甲斐。その右腕は肩まで上がり、見
えなくなった背広男に、待ってくれ……と告げていた。
翌水曜日、甲斐はいつもより二時間近くも早くに家を出た。元来早起きの質
なので、散歩に出掛ける時刻を早めても、息子夫婦ら家族は喜びこそすれ、心
配は一切していないようだった。
八時には公園に到着した甲斐は、ベンチに誰もいないことを視認し、まずは
安堵できた。それから、さてどうしたものかと、一晩考えても妙案の浮かばな
かった難問に、この土壇場で再び挑む。
(どこで待つのがいいかのう……)
背広男がやって来るのを、自分はどこで待ちかまえるのが最適なのか。ベン
チに座っている訳にはいかない。ベンチどころか、公園内にいるのさえまずい
かもしれない。砂場で遊ぶ幼児でもいれば、まだ助かるのだが。
(近くに喫茶店も本屋もないし、コンビニエンスストアはあるが、角度が悪く
て見えない可能性が高いし。車があれば乗り付けて、身を潜めるんだがのう)
この頃めっきり減った電話ボックスが、道を挟んで反対側の酒屋前にある。
絶好の観察ポイントだが、長時間入っていられないのが難だ。
そうして頭を捻っていたとき。
「甲斐さんじゃないか」
歩道前方から呼ぶ声に、甲斐は飛び上がりそうになるほど驚いた。後ずさっ
て、左胸を押さえながら、声の主に目の焦点を合わせる。
「……おお。ゆーさんか」
「声で分からぬとは、目も耳も故障が出だしたか。ははは」
ゆーさんこと有木とは飲み仲間、へぼ将棋仲間である。仕事上の付き合いは
随分前からあったが、個人的な付き合いは十年目ぐらいになるだろうか。
「命が惜しくなって、煙草をやめるような奴に言われたかないねえ」
「嫌煙は世の趨勢ってやつだ。住み易い世の中にしようじゃないか。はははは」
「こんな朝早くから、何してたんだい」
「そっくりそのまま返したい質問だが、答えてやろう。甲斐さんと違って、ま
だ現役なんでね。仕事がないときもこうやって情報集めに出歩くのさ」
「情報って……」
「日々変わり行く街の様子を、我が頭脳にインプットする。こうした地道な積
み重ねが、いざというときに役立つもんだ。さて甲斐さんよ。次はそっちの答
える番」
手のひらを上に向け、促してくる。甲斐は本日の目的を思い出し、慌てて公
園全体と周辺に注意を配った。
「おいおい、何なんだ。急にくるくる回り出すたあ」
「どうやらまだらしい。いや、実はな。今のわしはおまえの真似事をしとるん
だ」
「俺の真似事たあ、つまり、探偵ごっこか」
さすがに声を潜める有木。彼は正確には興信所員だが、探偵紛いのこともす
る。刑事や弁護士の知人も少なくない。
「何を調べてんだ? プロじゃないんだから、依頼人の秘密を守ることもある
まい」
「自分自身の興味から調べてるんだ。暇だけは持て余すぐらいにあるんでな」
「なら、話してみなよ。力になれるかもしれない」
真顔になって囁きかける有木。甲斐は依然として周囲を意識しつつ、渋面を
作った。
「プロのゆーさんに頼んだら、金を払わないといかん」
「何を言う。そこまで友達甲斐のない真似はせんよ。白紙の状態から、甲斐さ
んが頼んできたならまだしも、今はこっちから話してみなと言ってるんだ。料
金を取る訳なかろう。それとも何かい? 甲斐さんはそういう目で俺を見てた
のかい」
少々怒った口調になった有木に、甲斐は肩をすくめ、それから頭を下げた。
「すまん。そういうつもりじゃなかった。ただのう……正直言って、笑われる
かもしれんのう」
「急にじじむさい喋り方になって、弱気な。笑わんと約束する。話してくれよ、
甲斐さん」
真剣な顔つきで言われ、甲斐も話す気になった。今日を含めた九日間の出来
事をなるべく丁寧に、それでいて手短に伝える。
「――というような次第でな。今は、その男を待っておる」
「待って、その男が現れたらどうするつもりなんだい?」
「お? 興味を持ってくれたか、ゆーさん?」
質問に答えるよりも先に、嬉しくてそんな返事をしてしまった甲斐。有木は
にこりともせず、「ああ、興味あるねえ」と唇を歪めた。
「で、男が来たら?」
「とりあえず、観察だな。昨日までは見られなかった時間帯だ。そこで新しい
発見があれば、また自分で想像を膨らませるよ。なければ……そうだな、ゆー
さんも来たことだし、当人に事情を聞いてみるか」
「それも悪くはないが……まあ、いい」
気になる台詞の区切り方をした有木。だが、甲斐が深く尋ねるよりも先に、
彼は言葉を続けた。
「甲斐さんはどんな風な考えだ?」
意見を求められ、甲斐は以前、自ら否定した説を口にした。
しばらく聞き役に回っていた有木は、説明が終わるや、「よく興味を持てる
もんだなあ」と呆れ口調で言った。
「あ、勘違いしないでくれ。感心してるんだ。その程度の奇妙さだったら、俺
なら放っておくかもしれんてことよ」
「そりゃあ、ゆーさんがプロである証拠だ。わしだって探偵を仕事にしてたら、
こんなことに時間を潰さん。で、そのプロの見解はどうなんだい?」
「確かなことはまだ何も言えない。思い付きを一つ示すなら……背広男は大事
な鞄を紛失して一週間以上、おろおろしていたのかもしれないな」
「ほう」
自分が考え付かなかった説に、甲斐は素直に感心した。
「なくした物をどうしても見つけられず、通った道を最初から辿ってみるとい
うのは、有効かどうかは別として、よくある発想じゃないか?」
「うむ。確かに。そう考えると毎日同じ時間に同じような行動をしたのも、理
解できるのう。再現を試みたということか」
「だがまあ、これは色々と穴のある説だから、恐らく外れ……。立ち話は疲れ
るから、どこか座れる場所に移動しようぜ」
「公園を離れる訳には」
「あ、ベンチはだめか」
自らの額を叩くと、有木は慌ただしくポケットに手を突っ込んだ。銀色っぽ
い小物を取り出す。車のキーだった。
「車を持ってくる。なるべく目立たぬところに停めて、中で話そうじゃないか」
有木が車を公園前に回すまでの間も、背広男が姿を現すことはなかった。
いや。結果から振り返るに、この日は特別な日だったようだ。
「来ないねえ。その背広男とやらは」
白のセダンの中、運転席に収まっていた有木は両手を突き上げ、大きく伸び
をした。天井を撫でながら、外に向けていた顔を戻す。
「十一時が来るぜ」
有木の言う通り、デジタル時計の黄色い数字は10:59になったところ。
どんなに短めに見積もっても、背広男は一時間以上の遅刻となる。
それからさらに静寂が続き、十一時五分を過ぎた。
「こりゃあ、今日は現れんのう……」
甲斐は呻くように言った。想像でしかないが、恐らく当たりだろう。助手席
の彼は、身体ごと運転席に向き直った。
「ゆーさん。信じてくれ。嘘じゃないんだ」
「疑ってなんかないさ。一体全体どういうことなのか、頭を使ってるところだ。
たとえこのあと背広男が現れたとしても、いつもと違う行動を取ったのは動か
せん事実。それをどう解釈すればいいのやら……」
「ああ、考えてくれていたのか。沈黙しているから、腹を立てられたかと」
「余計な心配なんぞしないで、一緒に考えよう。甲斐さんの話じゃあ、昨日も
特別な日だってんだな」
「その通り。普段よりも行動が遅かった。未練たっぷりという足取りで、結局
は公園を出たが」
「昨日の変化が今日に連動しとる。これは確かだと思うんだ。仮に、今日現れ
なかったのは、昨日で全てが片付いたからだとしてみるか」
「片付いたとは、何が片付いたんだろうか?」
「難しいねえ。弱ったことに、手がかりらしき物が全く見当たらん。公園で何
かを待ち続けたんじゃないかとするのがせいぜいだ」
「八日目にして、その待ち続けた何かが来るなり起こるなりした。背広男は目
的を果たし、公園に来なくなったと、こういう筋書きかい? 分からんでもな
いがのう。待ち続けた何かを、わしも見てないとおかしい」
「そうなんだ。だけどな、甲斐さん。逆に発想すりゃあ、男の待ち望んでいた
物、そいつは目に見えないのかもしれねえぞ」
「あん? ……ははあ、なるほどのう。見えないだけでなく、わしには聞こえ
ない、感じられない何かでもかまわん訳だ」
「察しいがいいな、甲斐さん」
甲斐の背を強く叩く有木。甲斐は咳込みこそしなかったが、前方に揺らめい
た。
「痛いな、ゆーさん。勘弁してくれよ。昔とは違うんだから」
「すまんすまん。昔と違うと言や、甲斐さん、耳はどうだい?」
「さっきもちぃと触れたが、歳を取って、遠くなった。だが物音や声を完全に
聞き逃すことは、ないと思うんだがの。ついでに目は、細かい字を読むときに
は眼鏡を掛ける」
「ここは甲斐さんを立てて、聞き逃しや見逃しはなかったことにしてやろう。
実は、甲斐さんから聞いた話をじっくりと思い起こしてたんだが、確か、問題
の背広男は長髪で耳が隠れていたと言わなかったか?」
「言ったとも」
「それに、男が途中、片方の耳を手で押さえながら、口を動かしていたとも言
った」
「おお、言ったのう。そこから何が分かるんだい?」
「分かるってほどのもんじゃねえな。勘だ。背広男はイヤホンをしていたんじ
ゃないかってことさ」
謙遜する口ぶりだが、有木の表情はどうだと言わんばかりに、自慢げである。
唇の端っこがにやけてしまっている。
甲斐は甲斐で、素直に感心した。車内に拍手の音を響かせてから応じる。
「いい考えだよ、ゆーさん。そのイヤホンで、競馬か株式市況の放送を聞いて
いたのかのう?」
「競馬にしろ株にしろ、曜日が引っかかる。それに、背広男は口も動かしてた
んだろ。だったら、誰かと会話していたと考えねえと。競馬に熱が入ったのな
ら、甲斐さんに聞こえるくらいの大声で絶叫するだろうしねえ」
旧友の言い種に、甲斐はただただ苦笑をした。忌憚のない物言いもいいが、
こういう皮肉っぽい洒落ですら、心地よく聞こえる。
「会話と言うと、もしや、あれかい? 流行りの携帯電話」
「うむ。それも普通の携帯電話じゃねえな。イヤホンで聴くのは特殊な仕様っ
てことだ。そんな特殊な物を一般人が使うとは考えられん」
「もしかすると、特務機関の人間かのう」
甲斐の発言に、有木は頬に皺を寄せた。
「スパイではないと断定はできないが、飛躍が過ぎるんじゃねえのかい。甲斐
さんの話だと、スパイにしてはかなり目立っていたことになるしな」
「それじゃあ何なんだろう? あ、刑事?」
これだとばかり、手を打つ甲斐。あまり白くない歯をこぼしたその顔全体に、
色が広がった。有木は小刻みに頷いた。
「確かに、スパイよりは現実的だな。こっちが考えていたのは全く逆だ。背広
男は何某かの悪事を働こうとしていたんじゃないかとね」
「犯罪者てことかい」
「犯罪をやる前だったかもしれないから、犯罪者とも言いにくいが。言葉の遊
びはまあいいとしてだ」
有木は言葉を切って、時計を見た。十一時三十分になろうかというところだ
った。二人は、口を動かす間も油断なく公園の監視を続けていた。
「見切る頃合かな。甲斐さん、どう思う? 見張ってても進展はないぜ、こり
ゃ」
「うん……」
「悪事が行われていたとしたって、既に終わってる可能性が大だろうなあ」
「背広男が犯罪をしでかすような悪人だったとして、どんなことを企てていた
のかのう?」
「男は六日、同じことを繰り返し、七日目は違った……。天気はどうだった?」
「あ? ああ、天気。ずっと晴れだった。雨だったら、わしも散歩を中止して
いるから。多少曇った日はあったかもしれんが、印象にないんだから、大した
ことなかったろう」
「雨を待っていたというんでもないか。公園で七日間、十時まで待って分かる
こと……」
腕を組んで車の天井を睨む有木に、甲斐は「背広男の立場になってみりゃあ、
何か分かるんじゃないかい?」と提案した。
「立場か」
有木の目線が元の高さに戻る。甲斐は大きく頷き、指先を窓ガラスに当てて、
公園の中を示す。
「たとえば、あのベンチに座ってみる。あそこからでないと分からん何かがあ
るのかもしれん。そう思わんか、ゆーさん?」
「一理も二理もある」
有木は車のキーを取ると、ポケットに落とし込み、ドアに手を掛けた。道路
に足を着いてから、助手席の方を振り返った。
「甲斐さんも来るかい?」
「そうだなあ」
最後まで返事をする代わりに、甲斐もまた車外に出た。
ドアロックを忘れずにし、二人は公園に向かった。太陽が高くなっていたが、
人通りはほとんどなく、ましてや公園を利用する者となると皆無だった。
「結構広いのに、使われてないんだな」
――続く