AWC ぎりぎりっ 〜 the upper limit 〜 6.術中   永山


        
#7480/7701 連載
★タイトル (AZA     )  01/03/09  00:04  (199)
ぎりぎりっ 〜 the upper limit 〜 6.術中   永山
★内容
「ああ?」
「ジャンケン勝負、三本先取した方が勝ちだ。二万枚が懸かっていると思って、
ようく考えろ。いいな?」
「あ、ああ。仮に、だろ」
「そうだが、本気で考えろって」
「分かった」
「いいか、三本たってな、こういうのは最初が肝心だ。一本取った方が圧倒的
に有利になる。だから、一本目に全神経を集中させて、考えに考えて、出す手
を決めるんだぞ」
「ああ、分かったよ。決めた」
「それじゃ、ジャンケン――ポン」
 カシアスはチョキ、グレアンはグー。
「あ……」
「だから、よく考えろって言ったのに」
 歯噛みするカシアスに、にやつくグレアン。
「まだ一本目だ。次だ、次」
「よかろう。気合い入れて来いよ。――ジャンケン、ポン!」
 グレアンの声にも気合いと力がこもっていた。結果は、カシアスはグー、グ
レアンはパー。カシアス、二連敗。
 首を傾げたカシアスに、間髪入れず、グレアンは三本目のコール。今度は一
転、ふんわりやんわりとした声で。
「ジャンケンポン」
 カシアスは心の準備が整わないまま、手の形そのままに、パーを出した。グ
レアンはチョキだった。
「これで俺の勝ちだな。いやー、こんなにうまく行くとは思わなかったぞ」
 グレアンが高笑いする横で、カシアスは再び首を捻っていた。
「俺、こんなに弱くはなかったつもりなんだが」
「そこが話術さ。チムからの受け売りだが、人間てのは、複雑なものほどよく
考えた結果だと思い込むもんでな。ジャンケンだと、チョキが一番複雑なんだ
よ」
「……まあ、そうかな」
 グー、チョキ、パーの順に手を動かし、うなずくカシアス。
「一本目、俺はおまえにようく考えろって、しつこく言っただろ。それに引っ
かかって、おまえはチョキを選んだ」
「そうなのか?」
 にわかには信じがたいが、現実はそうなっている。
「で、二本目。初戦を落としたおまえさんは、熱くなって、気負った。身体に
も力が入ってたはずだよな」
 指摘されてみれば、そうだった気もする。
「力を込めるとなりゃあ、グーだ。相手を倒したいっていう気持ちも強い。人
をぶん殴るのにも、げんこつが一番。こういうときは、グーを出しやすい」
「……かもしれねえ」
「最後のパーは、騙し討ちみたいなもんでねえ。二連敗して、焦って、気持ち
がふわふわしてるおまえの隙を衝いて、さっさと勝負をかけたんよ。思考力が
落ちてるときにジャンケンを挑まれたら、たいていの奴は手をそのまま出しち
まう。それがパーってことさね」
 理にかなっているように聞こえた。カシアスは、今のが仮の勝負でよかった
と心底感じた。恐らく、本当にコインを賭けていたとしても、グレアンの術中
にはまってしまったに違いない。
「おまえとの勝負、ジャンケンにすればよかったかねえ」
 グレアンはかかと笑った。

 入獄二日目。カシアスにとって初めての公式ギャンブル参戦。
 対戦には格付けらしきものがあった。観客の興味を引かない、どうでもいい
ような試合は一斉に組まれ、処理される。たとえば、安全な戦いをする中堅ク
ラス同士の試合や、実力差があって結果の見えている勝負等が該当する。
 コイン枚数が多い者の試合は、そこそこ面白い。駆け引きがあるからだ。だ
が、命の危険度が薄まるが故、ゲームの色合いばかり濃くなる。少なくとも、
試合開始からの数十分は。相当な実力者や手練れの対戦でないと、盛り上がり
にくいのが難点と言えよう。
 その点、枚数が少ない者同士ならば、最初から緊迫感満点。一枚を賭けるだ
けで大変な時間を要するケースさえある。ただ、これも、両者が相手を0に追
い込む気がないと分かれば、観客達は途端に興味を失っていく。
 だから、最も人気があるのは一枚同士の対決。文字通り、命を賭した決闘で
ある。次いで、一枚の者が多数枚の者にぶつけられる組み合わせ。こちらは猫
が鼠をいたぶるような感覚を味わえるのが受けるようだ。
 カシアス=フレイムはどのタイプの試合を期待されたか? 彼は実力者と見
なされた。獲得枚数も二万枚を越えている。ゲームとして魅せる試合をすれば、
今日明日の二日間はOKとされる立場だ。
「おまえに恩を売っておくと、何かとよさそうだ」
 見返りを期待する心根を隠すことなく、グレアンはしゃあしゃあと言った。
「トーマス=ゲットマンは駆け引きがうまい。ポーカーでは特に強いんだ。弱
い手を強く見せ、強い手を弱く見せる。賭け金の釣り上げも巧みで、気が付い
たら追い込まれていたなんてこともしばしばさ」
「俺が知りたいのは、いかさまを仕掛けてくるかどうかなんだがな」
「そりゃ分かんねえ。たとえいかさまをやってる奴がいたとしても、今まで一
度もばれずにやってきたら、そいつはいかさまをやったとはならねえ。だろ?」
「……悪い。その通りだな。聞いた俺が間抜けだった。ゲットマンが今までに
いかさまをしたことがあるのかどうか、だ」
「答える前に一つ忠告しておくとよ、俺がそれをおまえに教えるってことはだ、
別の奴に聞かれりゃ俺はおまえのやり口を教えちまうぜ?」
「恩を売ろうって言ってたのは、どの口だっけかな」
「へへへっ、こいつはやられたねぇ!」
 自らの額を手の平で叩くグレアン。歯抜けのさまが剥き出しになった。
「ゲットマンは自分のペースに引きずり込むために、先勝をぜひとも欲しがる。
だから、緒戦に何かを仕掛けてくる恐れはあるなあ、うん」
「……それだけかよ」
「はっきり言えば、奴が今までにいかさまをしたかどうか、誰にも分からねえ。
ただ言えるのは、緒戦に勝つ確率が飛び抜けて高い。常識外れってえやつさ。
その裏には、何かずるがあるのかもしれんが、証拠がないからどうしようもな
い」
「参考になるような、ならないような……」
 カシアスの頭の中では、たった一つの疑問が渦巻いていた。
(緒戦に強い、か……。確率的に不自然なほどの勝率だとしたら、それは恐ら
くいかさまだ。いかさまを逆手に取れば、こちらに勝ちが転がり込んで来るん
だが……さて、どんないかさまだ?)
「ゲットマンと戦った奴、知らないか?」
「そりゃ知ってるさ。だが、何か教えてもらおうと思ってるんなら、ただとい
う訳にはいかないだろうぜ」
「話をまとめるには、時間が足りないか」
 対戦予定時刻まで一時間ほど。情報の取り引きを成立させるには、やや厳し
い。仮に情報を得られたにしても、分析して、ゲットマンとの対決に活かせる
かどうかは微妙だ。
「おお、ニールセンが出て来たぞ」
 カジノ場に姿を現したチャック=ニールセンは、いくらかやつれたように見
えた。髪のセットも部分的に乱れている。
 対戦者両名が席に着き、お決まりのルール説明が済むと、勝負開始となるは
ずだった。が、その前にニールセンが片手を挙げた。裁判所で宣誓をする銀行
マンのような佇まいだ。
「勝負の前に、一つの提案をしたいのですが」
 立会人と対戦相手を均等に見つめながら、弱々しい声で言う。
「発言は認めるが、この勝負に関する提案や要求は、私と相手、双方の了解を
得ること。よろしいな?」
「はい、お時間を取らせて、どうもすみません」
 平身低頭を体現するかのようなニールセン。
「恐縮するのは結構だから、早く言いたまえ」
「一発勝負にしてほしいのです。枚数は一度に千五百エッジ賭けましょう」
「断る」
 相手は即座に答えた。静かだが、有無を言わせない口調だった。
「今、落ち目だと自覚しているのは賢明だ、ニールセン。落ち目のときは、勝
負の流れを掴めず、ずるずる負ける恐れが強い。ちびりちびりと勝負して、勝
ち運を呼び込むには、この俺は強すぎるからな。だが、一発勝負なら、運次第
では勝てるかもしれない。負けたにしても、ショックは小さく、負け分も一定
額で収まる」
 対戦相手のロウ=ゴブリングは、両肘を突いて組んだ手に顎を載せ、ニール
センの考えを見透かすように喋った。
「その考え方は概ね正しい。だが、戦う前から、そんな提案をするようじゃ、
話にならん。弱みを自ら宣伝するに等しい愚行だ」
 片隅で成り行きをぼんやり眺めていたカシアスは、グレアンの肩をつついた。
「あのゴブリングって奴は、強いのかな?」
「さあて、強いと言っていいのかどうか。はったりのうまい奴だな」
 簡単に答えておいてから、グレアンは下品な笑いと目つきをセットにして聞
き返してきた。
「カシアス。おまえさん、自分が仕留め損なった男の最後が、気になるっての
かい? へっへっへ」
「ニールセンのことは、関係ないね。ゴブリングという奴とも当たるかもしれ
ないと思うと、ちょっとでも情報を仕入れておきたいだけさ」
「そうだなあ、当てられるかもしれんよ、確かに。と言うのは、あのゴブリン
グもおまえさんと同程度、稼いでるはずだからな」
「そういうもんか」
 顎を引き、得心の身振りを見せてから、ニールセンとゴブリングの試合に注
目する。本当は、ゲットマンとの勝負をどう運ぶかに思考が行きがちなのだが、
根を詰めて考えても無意味だと思い直し、敢えて他に意識を集中できることを
探した結果がこれなのだ。
「それでは、せめて、勝負の時間を十分に区切ってもらえまいか。長引くと、
全てを失ってしまいかねない」
 ニールセンは見下されたことで、逆にプライドを取り戻したか、話し言葉に
力強さが戻って来た。
 ゴブリングは三十秒間ほど沈思黙考し、やがてニールセンを指差した。
「こちらから出した条件を飲むのなら、制限時間を二十分としてやってもいい。
十分はだめだ」
「……承知した。とにかく条件を聞きましょう」
「カードの枚数を減らす。各マークとも絵札とエースと十の五枚ずつ、合計二
十枚だけを使うとしよう」
「何と……」
 ニールセンは、眉間に深いしわを刻んだ。真向かいに座るゴブリングは、両
手を広げ、愉快そうに、余裕たっぷりに話す。
「言うまでもないが、カード交換は一度きり。役の強さは通常のポーカーと同
じだ。こうすれば、一回の勝負が早くなる。どうだい?」
「……分かりました。受けましょう」
 立会人が条件を確認し、カードを二十枚だけ選び、勝負開始となった。参加
料の一エッジをそれぞれテーブルに置いたところで、カードが配られる。初回、
先攻はゴブリング。ニールセンの手元には、ダイヤのエース、クラブのキング、
スペードとハートのクイーン、そしてクラブのジャックが来た。
 そしてこの手を見て、最初の賭け金を決める。
「五百エッジ賭けよう。ニールセン、これくらいなら大丈夫だな? 確か三千
五百枚ほど残っているはずだ」
「あ、ああ……」
 微妙なところだ。これから金額がつり上がることを思うと、どちらかと言え
ば苦しいかもしれない。しかし、ここは強気に受けねば。
 ニールセンも五百エッジを置いた。それから交換するカードを考える。
(普通のポーカーなら、クイーンのペアを残して三枚交換だが、このルールで
果たしてそれでいいのやら)
 首を傾げるニールセン。幸い、相手のカード交換が先だ。ゴブリングの動き
を見てから、決めればいい。ニールセンはカードから相手へと視線を移した。
 ゴブリングはそれを待っていたかのように、重々しい口調で言った。
「カード交換は、しなくていい」
 唇の端に笑みを張り付け、カード五枚をテーブルに伏せると、上乗せするコ
インを置いた。
「さらに五百エッジだ。さあ、受けてくれよ」
「分からんよ」
 勝負への計算を急ぐ頭で、どうにか対応するニールセン。
(交換なしとはつまり……ゴブリングは、ロイヤルストレートフラッシュ、フ
ォーカード、フルハウス、ストレートのいずれかが完成しているのか。しかし、
私の手元にそれぞれのマークが一枚以上あるのだから、ロイヤルは消える。ま
た、フォーカードだとしたら、それは十の四枚揃い。とにかく、私は最低でも
ストレート以上の手を作らねば、勝負にならない)
 ニールセンは口元に拳を当て、熟慮を重ねようとした。
 が、ゴブリングのわざとらしいだみ声が飛ぶ。
「おいおい、ニールセンさん。時間稼ぎはよしてくれよ」
「しかし」
「立会人さんも、注意してやってほしいな」
 ゴブリングは立会人を仰ぎ見て、オーバーアクションで頭を振る。
「勝負時間の短く制限してきた上に、こんな時間稼ぎをされては、こちとら勝
負にならない」
「――ニールセン、早くしなさい」
 立会人は感情のない声で、促した。

――続く




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 永山の作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE