AWC 対決の場 19   永山


        
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★タイトル (AZA     )  01/03/08  00:01  (200)
対決の場 19   永山
★内容
「カメラ、見当たりませんね」
 嶺澤が室内を視線で一周し、結論づける。遠山は、スポーツバッグ自体を指
し示した。
「あの中は? カメラ一台くらいなら入るかもしれない」
「そうですねえ、では、いよいよ開けてみますか」
 手袋をした手で、バッグのチャックを引っ張る嶺澤。音もたいしてせず、滑
らかに開いた。
「ないな」
 悪い予感とは言え心構えができていたため、落ち着いた語調の遠山。
「何か大事な物が写ってたんでしょうかね」
「つまり、ヂエが持ち去ったのだと考えている?」
「そう見るのが妥当かと思いますが」
 嶺澤の見解に、すぐにはうなずかない遠山。まずは、確実な点からチェック
しておこうと思った。
「志垣さん」
「はい、何でしょう?」
「ここにも、フロントで貴重品を預かるようなサービスがありますよね」
「もちろんです」
「姿さんのカメラを預かっているかどうか、すぐに分かりませんかね?」
「私は存じませんけど、聞いてくればすぐですよ。ちょっと失礼してよろしい
ですか?」
「ああ、かまいませんとも。ぜひ、お願いします」
 志垣が戻るまでの間、遠山達は姿のバッグの中身を見ておくことにした。フ
ィルムがたくさん、付け替え用のカメラレンズ一つ、手入れのための道具もい
くつかあった。姿晶のカメラの凝り様は、相当なものだったらしい。
 嶺澤が不可解と言わんばかりに、首を捻った。
「これはかなりやってますねえ、カメラ。最初に被害者と話をしたときと、イ
メージがずれる」
「そうだな、嘘とは言わないまでも……隠していたようだ。それが何のためな
のか分からない」
「これが容疑者なら、一気に容疑が濃くなるというのに、残念ながら被害者で
すからね」
「念のため、他の持ち物も調べてみよう。万一、ヂエから脅されていた、なん
ていうメモでも出てくれば、方針も変わってくる」
 口ではそう言いながらも、実のところ期待せずに始めた遠山。被害者がカメ
ラの件で本当のことを言わなかったのは、単に、「女だてらに機械いじりが好
きなのか」という目で見られるのを嫌っただけかもしれないのだ。
 ところが、検査を開始して三分と経たない内に、遠山は色めき立つ発見があ
った。それは一枚の写真。姿晶が撮った物ではないらしい。何故なら、そこに
は本人が写っていたのだ。そして遠山達が関心を寄せたのは、もう一人写って
いる人物が、姿晶と瓜二つあるという事実。
「双子ですかね。一卵性の」
 嶺澤のまっとうな意見に、遠山は無言でうなずく。服装が異なっていなけれ
ば、全く見分けが着かないだろう。
 写真を裏返してみると、ご丁寧に、「晶&優 1999.7.31」とサイ
ンペンで書き記してあった。
「『ゆう』とでも読むのかな。カメラの件の他にも、双子がいるとも言ってな
かった訳か。まあ、吹聴するもんじゃないが」
「友人に双子の奴がいるんですが、双子だと知られると好奇の目で見られるか
ら、いい気はしないと言っていましたよ」
「ふむ。要するに、双子の存在を隠していたこと自体は、意味がない。代わっ
て、別の可能性を考えねばならなくなった」
「つまり、姿晶の双子の姉だか妹だか知りませんが、優が犯人だと? いや、
ヂエ本人か、もしくはその一味ということですかね」
「それもある。しかし死んだのが、姿晶だとはまだ断定できない。晶の方が生
きていて、優が死んだのかもしれない。双子のが入れ替わりも考慮する必要が
出て来た」
「ああ、なるほど。あり得ますねえ」
 一通り感心してみせた嶺澤だったが、そのあとには注釈を付けた。
「現時点では机上の空論ですよ、警部」
「そうなんだ。遺体を科学的に調べれば、また何か出て来るかもしれないが、
今の状況でそれを期待するのは、絵に描いた餅だ。ただ、双子が加害者と被害
者を演じたのだとしたら、説明の付く点も多い。たとえば毒の混入方法。加害
者は被害者に毒を薬と偽って渡し、食前に飲むように仕向ける」
「仮にそうだとして、加害者は今、どこに潜んでいるんですかね」
「……とりあえず、林の中か」
 遠山がつぶやいたとき、志垣が戻って来た。
「お預かりしていないそうです。カメラも何も」
「そうでしたか。いや、どうも」
 新しく確定した事実を基に、遠山は推理を働かせる。ある仮定を思い浮かべ
た。
(姿優が晶を殺害した。晶はカメラに詳しく、優は詳しくない。我々が今日会
ったのは、カメラについていい加減な返答をしていたから優。カメラがどこに
もないのは、指紋の付着を心配した優が、海に放るでもして処分した)
 我ながらよい線を行っていると思えた。だが、自己満足の笑みの前に、疑問
が出て来た。
(カメラに詳しいのが晶だと、何故言い切れる? 逆かもしれない。決め付け
るのは危険だ。そもそも、島に一週間前からいたのは、どっちなんだろう? 
優がヂエなら、今日、島に着いたとするのが、非常に合理的だ。晶はここにず
っといた。いや、でも、その晶が晶であるとは決め付けられない。優かもしれ
ないじゃないか)
 頭の中で思考の糸がこんがらがってきた。首を振る。
(いかん。これは一旦、リセットしなければ。晶だの優だのは、名札だ。本名
かどうかを気にする必要は、現時点ではない。一週間前から宿に泊まっていた
のは、晶と名乗っていた。今日船が来たあとは、晶と優の二人がこの島にいた
……と、この点は確実でない。船の到着後、晶と優の二人が島にいたとしよう。
あとから来た人物が犯人だ。犯人は元々いた女性――晶と名乗っていた――を
殺害し、入れ替わる。……あん? 変だ。これでは入れ替わりにならない)
 再び、今度は激しく、頭を振る遠山。
「警部、どうかしたんですか?」
 心配げに覗き込んできた嶺澤をじっと見返し、「大きめの紙とペンを用意し
てくれないか」と頼んだ。

 姿晶(と思しき女性)の遺体と持ち物を調べ終えた遠山達は、麻宮や近野の
いる屋敷に引き返した。遠山は近野に問題の写真を見せ、姿晶は双子の片割れ
なんだと伝えた。
「連絡手段がないから、照会して確認を取れないのが残念だが、なに、この写
真を見れば、そっくりの双子がいたのは間違いない。これだけ似ていれば、親
だって取り違えるだろうさ」
「遠山はじゃあ、入れ替わりが行われたと考えているのか?」
 いつものように察しよく、近野が聞いてきた。鉛筆の尻で指し示され、遠山
は急に気恥ずかしさに囚われた。近野から改めて問われた途端、子供っぽい空
想のように思えてきたのだ。
 それでも、ここは肯定するしかないだろう。
「あ、ああ。少なくとも、その線も考慮してみなければいけないと思う」
「犯人にとって、メリットは?」
「無論、ある」
 遠山は、先ほど使った紙を広げて、まとめた考えを口にする。
「名前ではややこしくなるから、双子の内、犯人の方をX、そうでない方をY
と呼ぶ。XはYを一週間前から島に行かせることで、アリバイを作ったんだ。
本土での犯行は不可能だったと主張するためにな。そして今日、X自らも来島
し、秘密を知るYを殺害した」
「それはおかしい」
 本当におかしいのか、口元に手の甲をあてがう近野。
「アリバイ作りを狙った計画だとしたら、Yを殺すのはいいとしても、遺体を
第三者の目に触れさせてはいけないはずだ。入れ替わりができなくなる。密か
に外へ呼び出し、海に放り込むのが順当な手段ではないかな」
「俺も最初はそう考えた。だが、Yの遺体をざっと見てみて、ある発見をした。
そしてぴんと来たよ。入れ替わろうにも入れ替われなかったんだ」
 謎めかす遠山。近野からは遠い昔、同様に謎かけのような物言いをされたも
のである。それを思い出して、自然、頬が緩む。
「何を見つけたんだ?」
「Yは右足に擦り傷を負っていた。半分方、治りかけだった」
 遠山は部下を見やった。呼応し、嶺澤がメモを読み上げる。
「姿晶と称していた女性の右膝からすねにかけて、大小さまざまの擦り傷が認
められる。いずれもかさぶたができており、怪我をしてから二日以内と推測さ
れる。恐らく、林の中を歩き回った際にこしらえた傷と思われる」
 手帳を閉じる音がした。遠山は、どうだ?とばかり、近野へ振り向いた。
「これでつながっただろう。XはYと入れ替わる前に、Yの怪我のことを見る
か聞くかして、知ったんだな」
「外見がいくらそっくりでも、その怪我までは真似られない。たとえ故意に傷
を作ったとしても、かさぶたの出来具合から見破られる危険性が高い……とい
う訳か。ふむ」
 近野が一言ずつ噛みしめるように言った。間を置かずに、大きく首を縦に振
った遠山。
「要するにだ、Xの計画は破綻したってことさ。入れ替わって身を隠し、のう
のうと犯行を続けるつもりだったんだろうが、そうはいかん」
「Xがヂエだと思ってるんだな?」
「ああ、当然だ。本土で起きたヂエの事件全ての偽アリバイを得ようとして、
XはYに身代わりを――」
「その説明はもういい」
 近野は軽くあしらうと、次のような疑問を呈した。
「おまえ達警察を翻弄してきたヂエにしては、今度の件は間抜けすぎると思わ
ないか?」
「は? しかし、予期せぬ事態というものは、誰の身にも起こり得る。計画の
破綻イコールヂエが間抜けというのは、当たらないぜ」
「俺が言いたいのは、その点じゃなくて、写真を放置していた事実さ」
 近野の指摘に、失速する遠山ら刑事達。
「言われてみれば、少し変だな……」
「だろ? Xは双子の存在を、なるべく長い間、隠しておきたいはずだ。そう、
少なくとも一週間後、この島を出て行くときまでは。にも関わらず、二人並ん
で笑顔の写真を放っておくとは、間抜けも間抜け、大間抜けだ」
「忘れたんだとしたら、確かに大間抜けだな。だが」
 閃いたことがあったので、考え考え、それを話してみる。
「双子の存在はいずればれる。小細工をして一時的に隠す努力をするよりも、
自然な状態のままにして、見つかったら見つかったときだと考えていたんじゃ
ないかな。入れ替わりに成功していれば、XはYの持ち物を常に身近に置いて
おけた訳だし」
「それなら、Yの持ち物一切合切を奪って、海に投げ込んで始末すればいい。
写真だけに注目されずに済むじゃないか。この程度のことに、ヂエが気付かな
いのはおかしい」
「ううむ」
 思わず唸って、腕を組む遠山。対して近野は、厳しさをやわらげた口調でフ
ォローする。
「双子のトリックがいずればれる、という見方自体は正しいと思うぜ。双子の
存在が発覚した時点で、入れ替わりを怪しまれるのは確実だからな。だからこ
そ、俺はX――じゃねえな。どちらが殺され、どちらが生き残ったのか分から
ないから、姿某と呼ぶとしよう――姿某がヂエではないという結論に達するん
だが」
「どういう理屈だ。詳しく言ってくれ」
 腕組みを解き、相手を促した。近野は苦笑を見せた。
「詳しくも何も、簡単さ。双子の入れ替えトリックに気付いた時点で、警察は
姿某に疑いを向ける。こんな危うい橋を渡るのは、頭の悪い奴のすることさ。
ヂエらしくない」
 近野の見解に一理あると感じ入る遠山。双子の入れ替え説は勇み足で、犯人
は別にいるのか……と考えを改めようとしたその刹那。
 廊下を荒々しく踏みならす音がしたかと思うと、戸を開けて認視する余裕も
なく、布引が転がり込むように現れた。
「刑事さん! ちょっとよろしゅうございますか?」
「どうしたの、みっともない」
 今まで端で耳を傾けていた麻宮が、目を大きく見開いて、呆れた顔つきにな
っている。
 支配人は女主人に頭を下げ、「申し訳ありません」と息を切らしながら謝る。
「気味の悪い物が置かれていたので、私、気が動転してしまって、あんな殺人
事件のあったとでございますから、なおさら……」
「一体何事ですか?」
 遠山は膝を立てて、起きあがりかけた。完全に立ち上がるよりも早く、布引
がぶつかりそうな勢いで正面に来た。
「落ち着いてください。布引さん、気味の悪い物とは?」
「刑事さん。これが、フロントのカウンターに、ぽんと置かれていたのです」
 懐に手を入れる布引。再び出て来た手の先には、白い紙があった。
 布引が素手でそれを扱っていることに気付いた遠山だが、今は咎めている場
合でない。急いで白手袋をはめると、紙片を受け取った。
 嶺澤や近野、麻宮までもが覗き込もうとする中、折り畳まれたその紙を開い
ていく。そこには、次のような言葉が記されていた。

『PUZZLE 前問はもう解けたかね? 時は待ってくれない。ヂエも待たない。
いろは歌に乗せて、次の暗号を解読せよ。おみぬむのきよめとろ』

――続く




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