AWC 対決の場 14(訂正版)   永山


        
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★タイトル (AZA     )  01/01/30  23:03  (200)
対決の場 14(訂正版)   永山
★内容

 遠山と近野は、麻宮の屋敷内で早めの夕食をもらい、五分余りで片付けた。
その間、遠山は宿泊者名簿にあった名前と、自身の推理を話した。
「これから三人の居場所を確認し、見張りを付けるか、タイミングによっては
若柴刑事行方不明の件に関連して、事情を聞こうと思う」
「民間人に話すことじゃないだろ。警察で決めて、実行すればいい」
「おまえも協力者なんだ。伝えておいた方が、全体が見えて都合がいいだろう」
「俺はパズルを解くだけ。ああ、例のクロスナンバーパズルも解けた」
「そうか! ありがたい。それで、答は?」
 身を乗り出して気負い込む遠山に、近野は茶をすすった。
「最初の予想は俺の見込み違いで、ずっと論理的に解けた。時間がないようだ
から説明は省くが、横の8の鍵に入るのは、83752さ」
「83752、だな」
 メモを取る。
「どういう意味があるんだろうか?」
「さあな。パズルで殺人、奈落へgo to ……」
「何だって?」
「語呂合わせだよ。まあ、冗談だ。ヂエもそんな意図はなかったに違いない。
この数は、ヂエが問題文で言っていたように、あくまでキーナンバー。今我々
が頭を捻っても、何も出て来はしまい」
「この数から、犯行を未然に防げないか?」
「残念ながら、恐らく無理だ。ヂエが連続殺人を計画しているのなら、一人が
死んだ時点で、次の殺しを見当付けるヒントにはなるかもしれないが……」
「畜生っ」
 遠山は胡座を解いて、勢いよく立ち上がる。腕時計を見ると、六時になろう
かというところだった。
「嶺澤刑事と合流して、伊盛ら三人の存在を確認しに行く。近野はどうする?」
「そうだな……折角だから、姿晶さんと会ってみるか。ヂエから接触を受けて
いるかもしれないんだろ。これって警察の許可がいると思うんだが、どうだ?」
「会うこと自体を止める権利は、警察にもない。まあ、事件の内容を不用意に
漏らしてくれるなという危惧はあるが、おまえなら信用できるし、問題ない」
「ありがたいね。では、またあとでな」
「ああ。九時頃に一旦、戻るつもりだから」
 遠山は近野に先んじて、部屋を出た。まだ明るい中、小走りに宿を目指す。
ギャラリー上の宿に着くと、まず五号室に向かう。嶺澤の部屋だ。ドアを開け、
滑り込むように中に入る。秘密の行動をしているという意識が、そうさせるの
かもしれない。
「異状はない?」
 扉をぴたりと閉め、錠を下ろしてから聞く。
「はい。警部の方もご無事のようで」
「若柴刑事からは何かなかったか」
「ないです。嫌な臭いが濃くなってきたような、とにかくやばいですよ」
「今はヂエの影を追うしかない。三人は見つかったか?」
「麻宮さんからの情報通りでした。伊盛は二号室、八坂が三号室、角が七号室
です。どうやら、なるべく男女別に固まるように部屋分けしているみたいです
ね。一号室は絵描きの面城にあてがわれているそうですが、今は空っぽ。ここ
には四号室がなくて、五号室が自分と若柴さん。六号は空室で、八号室に姿晶
さんが入っています」
「女性は二人か。それで、問題の三人は在室中?」
「さっき確認したところでは、皆、食堂の方へ向かった模様です」
「私は刑事として、角と八坂に会っている。伊盛も私のことを知っている。君
はどうだったかな?」
「私は角と伊盛両名とは、以前に顔を合わせたことはありません。八坂とは、
コンビニ店長の武藤が殺された件で、ひょっとするとすれ違っているかもしれ
ませんが、向こうが覚えているとは考えにくい」
「それは都合いい。三人に怪しい動きや、逃げ出す素振りはあったかな? つ
まり、君のことに気付いているのかどうか」
「私の姿や顔を見られたかもしれませんが、正体には気付かれていません。そ
れ故かどうか分かりませんが、三人に不審な行動は見られません、現時点では」
「接触はしていないんだな」
「無論です」
「もし第三者のいる場面で私と話す必要が生じても、君が警察の人間だと気付
かれないよう、警部と呼ばないように頼むよ」
「元は遠山さんとお呼びしていましたら、それは大丈夫だと思いますが、逆に
警部は私をどう……?」
「年上の人を、君付けで呼ぶのもおかしいから、さん付けが妥当かな」
「お任せします。何でもかまいません」
 二人は打ち合せを済ませ、食堂に足を向けた。

 食堂を前に、遠山と嶺澤が多少の時間を置き、相前後して入ろうとした矢先、
異変が起きた。中から悲鳴が聞こえたのだ。続いて、人殺し!という女性の叫
びが轟く。
「予定変更」
 舌打ちしつつも、沈着冷静に言った遠山。嶺澤は「出入りする人間を見張り
ます」と即応し、自販機の影に自然な体で身を隠した。
「頼む」
 言い置いて、遠山は食堂内へ駆け込んだ。
「どうなさいました?」
 答える声はない。突然入って来た男を、何者かと値踏みする視線を向ける者
がほとんどのようだ。
 そして、遠山にとっても、現場を目の当たりにした今、答は不要だった。
 食堂のほぼ真ん中で、姿晶が床にくずおれていた。
 遠山は、「ご存知の人もいるだろうが」というフレーズを飲み込み、警察手
帳を皆に示しながら言った。
「警察の者です」
 手帳を大事に仕舞い、姿のそばへ駆け寄り、跪く。呼び掛け、蘇生術を施す
が、効果はない。
「その人、水を飲んで倒れたんだ」
 背後で、誰か男の声が言った。吐かせようと試みるが、うまくいかない。姿
は全く反応をしなかった。だめかもしれないという思いがよぎる。
「救急へ電話は?」
 宙に視線をさまよわせると、髪を引っ詰めにした女性と目が合った。その格
好から、宿の人間だと知れる。支配人の布引知花か手伝いの志垣奈美枝、身な
りが動きやすい物だから多分後者だろう。
「それが、島内には……」
「呼べば外から来る? どれくらい?」
「船ですから三時間……もう少し早いかもしれません」
「島に医者は?」
 これにも返事はノー。遠山は歯ぎしりをして、姿の脈を診た。最前と同様、
動く感触は一切ない。瞳孔の状態を確認し、かぶりを振った。
 立ち上がると、手袋をはめながら室内を見回す。
「皆さん、食堂から出ないでください。変死事件の発生に伴い、臨時に私が捜
査に当たります。事態が鎮まるまで、私の指示に従ってください」
「……あんた」
 先ほど「その人、水を飲んで倒れたんだ」と言った声の主が、ぽかんと口を
開けて立っている。八坂だった。
「あんときの刑事? 何でこんなところにいるんだよ」
 遠山は、それは私の台詞だと言いたいところを我慢して、八坂にだけでなく
全員に分かるよう説明を始めた。
「東京と三重で発生した連続殺人事件の捜査でこちらに来ております、遠山と
言います。この方……姿晶さんが亡くなったのも、一連の事件と関係ありと思
われます。ご協力をお願いします」
 軽く頭を下げる遠山だが、妙な気分を味わっていた。この中に犯人のいる可
能性が、極めて高い。
 角も遠山に気付いたらしく、何やらつぶやいたあと、怯えたように表情を青
くした。恋人の死を思い出したのかもしれないし、もしも彼女が犯人なら別の
意味でということになる。
 遠山は最有力容疑者と考える伊盛の姿を探した。
(いない?)
 食堂内に、伊盛はいなかった。出て行ったのだとしたら、嶺澤が足止めをし
ているはずだが、ちょっとした不安に駆られる。
(いや、元々ここにいたのかどうかさえ、不確かなんだ)
 はっきりさせねばと心に刻みつつ、遠山は初見の人の名を尋ねた。
 女性はやはり志垣で、食堂で配膳とレジを担当していたという。もう一人、
首に手ぬぐいを引っかけたごま塩頭の年輩の男が、不安を隠すように虚勢を張
った体で立ち尽くしていた。調理を受け持つ吉浦だと分かった。
「異変が起きたとき、食堂にいたのはこれで全員ですね?」
 遠山は、全員を座らせた。共犯の可能性を考慮し、椅子を一つ置きにして。
 それから、姿晶の席にあったコップを手に取り、匂いを嗅いだ。倒れること
なく立っていたコップには水滴が残っている。だが、遠山の予想した青酸系毒
物特有の香りは、飛んでしまったのか、感じられない。ともかくもハンカチで
コップをくるみ、スーツの左ポケットに収めた。他に皿や箸の類はない。料理
が来る前だったに違いない。
 遠山は志垣と吉浦に、布状の物を持ってくるように頼んだ。吉浦が「これで
よければ」と手ぬぐいを差し出す。少々薄手のようだが、遠山は受け取ると、
それで姿晶の顔を覆った。しばし黙祷し、この場にいる者皆に向き直る。
「亡くなったのは姿晶という方なんですが、この人をご存知の方はおられませ
んか? つまり、島に来る前からの知り合いだという方……」
 四人は静かなままだった。
「では、姿さんが入ってきたあと、ここを出て行った人はいましたか?」
 肘を曲げて右手を挙げたのは、志垣だった。
「レジをしてましたから、多分正確に把握できてると思います……。お客様で
は、お一人、伊盛という方が食事を終えて、出て行かれました」
 彼女の証言に、遠山は心中でガッツポーズをした。やはり伊盛が最有力容疑
者だと意を強くする。
「それから、麻宮のレミお嬢様がお見えになりました」
「え?」
 一瞬、私情を入れてしまう遠山。すぐに取り繕った。志垣は眉を寄せた。
「面城さんへの食事を取りに来られたんですけど、関係あるんでしょうか」
「ああ、なるほど。関係あるかどうかは、我々が判断しますので、ありのまま
を話してください」
「他に、布引支配人が様子を見に来られましたが、中へは入られませんでした。
あと、淵さんと榎君が端の席で夕食を急いで摂って、すぐに出て行きましたね」
 遠山は落胆の色を隠そうとしたが、つい、難しい顔つきになってしまう。
(要するに、島内の人間のほとんどが出入りした訳か。毒を直接投入したのだ
としたら、楽に容疑者を絞り込めると思ったのだが。しかし、東京と三重で殺
しを実行できたのは、伊盛と角と八坂だけだ。三人のいずれか、あるいは複数
人が犯人なのは間違いない)
 己を奮い立たせ、事情聴取を続ける。
「姿さんが倒れるまでの間、何か変わったことはありませんでしたか。何でも
いいんです」
 再び押し黙る関係者達。遠山は仕方なく、一人ずつ指名していった。
「志垣さん、どうですか」
「私は別に……ずっと動き回っていましたから、特に気付きませんでした。そ
れよりも刑事さん、支配人やお嬢様に知らせた方がよくないでしょうか」
「そうですね。通報も、時間が掛かるとは言え、しなければならない」
 決断を迫られていた。嶺澤の正体を明かして、二人で捜査に当たるべきか否
か。本来、ヂエの指示を守ろうとしたのは、犠牲者を出さないようにという配
慮からだったが、遺憾ながらすでに一人死んだ。ここで遠山以外にも警察の人
間が来ていることを公にしても、大勢に影響ないのではあるまいか。複数人で
大っぴらに捜査できるメリットを取るべきかもしれない。
 嶺澤の存在を明かそうと決め、口を開き掛けたそのとき、思わぬ邪魔が入っ
た。麻宮レミが入ってきたのである。しかも、いやに慌てふためいている。
「ど、どうしたんです?」
「こっちでは一体何の騒ぎよ?」
 互いの質問が工作する。遠山は、殺人に勝るトラブルはないだろうと考え、
麻宮に再度、問い質した。
「電話が壊されていたのよ。さっき気が付いたわ」
「――島にある電話はどれくらい?」
 全身が総毛立つのを感じながらも、遠山は聞いた。
「私の家に一台と、こちらの宿に一台あるだけ。来るときに念のために見たの
だけれど、こちらの電話も使い物にならなくなっていた」
「コードを引き抜いた程度なら、何とか直せるかもしれない」
「そんな生やさしい状況じゃないの! 変換器のボックスそのものが、手ひど
く壊されているのよ」
「何だって?」
 事態の深刻さに、遠山だけでなく、他の四人もざわついた。この内、裏では
舌を出しつつ芝居をしている者が存在するのであろうか……。
「本土との連絡は、取れないってことか」
「ええ、そうよ。外部との通信は、一切できなくなった訳」
 苛立たしげに吐き捨てる麻宮。
「最後に電話が通じたのは、いつだったか分かるかい?」
「そんなの覚えていないわ」
「頼む、思い出してくれ」
「先に、この食堂で何が起きているのかを、説明してちょうだい。向こうで人
が倒れているようだけれど、まさか最悪の事態なのかしら」
 声にはしなかった部分が、遠山の胸に突き刺さる。麻宮の台詞の言外には、
刑事のあなたがいるにも関わらず、という非難の響きが含まれていた。

――続く




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