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★タイトル (KXM ) 00/ 2/ 8 10:46 ( 50)
南から来た男 談知(KEKE)
★内容
南から来た男 談知(KEKE)
カトマンズの街はこじんまりとしていて、街というより町と
いった趣であった。そこかしこに行き交うひとは、インドアー
リア系あり、チベット系あり、アジアモンゴロイド系あり、さ
まざまだった。市場の猥雑なにぎやかさ。物売りたちの声。そ
のなかをぶらぶら歩いていて、ふと立ち止まると、いったい自
分はどこにいるのだろうと思うときがあった。ここは本当に地
球という惑星にある街なんだろうか。はるか銀河系のとある星
の街であるといわれても信じてしまいそうな、そんな感覚があっ
た。
私のカトマンズでの宿は、「ストーンハウスロッジ」という
ホテルであった。ホテルと名乗るのもおこがましいような安宿
だったが、驚くほど安かった。一泊たったの150円ほどなの
だ。確かに、ぼろぼろで、ベッドひとつあるだけでもういっぱ
いという狭い部屋だったが、とにかく150円なのだ。ネパー
ルは安宿の値段が安いということでは定評があるが、それにし
ても安い。
安宿での生活とは、ひとことでいえば、役に立つようなこと
は何もしないということか。どうでもいいこと、何の役にも立
たないことのみ行う。どうしても役に立つことをせねばならな
いとしても、するのは一日にひとつのみ。みんなそんな感じで
暮らしていた。
あれからもう20年ちかくたつわけか。夢のように時がすぎ、
25そこそこだった青年は、あっというまに45の腹のでっぱっ
た中年のおやじになってしまった。
南から来た男とは、実は私のことである。インドやネパール、
東南アジアなど、南の国々を旅して歩いた、そんな私が若い頃
自ら名乗っていた肩書きだった。この国のひとが当たり前にし
ていること、別に否定するわけではないが、それと違ったもう
ひとつのやりかたがあるんじゃないか、そう思ったとき、私は、
「実は私は南から来たもんなんです」ということが多かった。
いろんな考え方がある。世界を旅していると、そのことを身
にしみて感じる。いろんな考えがあったほうが楽しいじゃない
か。少なくともそのほうがこころが楽ですよ。そう私はいいた
かった。でも、そのころ分かってくれるひとは少なかった。自
分たちがしていることが絶対だと思いこみ、ほかの考えを受け
入れない。ほうほうそんな考えがありますか、なんて冷静に批
評するだけで、本気で考えてない。そんなひとばかりだったよ
うな気がする。
南から来た男ですから。そういいつつ暮らしてきた。今でも
そうして暮らしている。理解されず苦しいとき、カトマンズの
雑踏を思い出す。そうだそうだ。私は、南から来た男だったん
だ。そう思うと、いくらか余裕がでて、心やすらかにひとと対
することができたように思う。
談知(KEKE) EmBiglobe 2.04