#904/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE ) 88/ 3/11 21:44 (100)
トゥウィンズ・1 十章 (1/5) (30/34)
★内容
十章
次の日、僕は目覚めると、すぐに足を慣らしに中庭に出た。もう、一人でも大
丈夫のようだ。
しばらく一人で歩いてたら、マイア姫がやってきて、
「あの、申し訳ありませんが、お召し替えの時間です。お部屋の方にお戻り下さ
いませんか?」
「お召し替えって?」
「博美さんは女神様なんですもの。それらしい姿でいて下さらないと。」
確かに女神様が夏物ワンピース姿じゃ、見栄えがしないだろう。
とりあえず、言われた通り部屋に戻って着替えをする。相変わらず多くの人を
使って。
今度は薄い水色のフワフワのドレス。軽いのはいいんだけど、まだ慣れていな
いから、ちょっと恥しい感じもするなあ。
着替えが終ってしばらくしたら、急にお城の中が騒がしくなった。健司達も集
まってきて、
「どうしたんだろ。何かあったのかな。」
そうしたら、こんどはマイア姫が息を弾ませてきた。
「あ、マイア姫、何があったんですか?」
マイア姫は、息を整えると、
「反乱です。危険なので部屋から出ないで下さい。」
「えっ? 反乱? それで、皆さんは?」
「兵を出して戦っています。多分、防げると思います。安全になるまでお待ち下
さいね。」
そして、マイア姫は部屋を出て行った。しばらくたつとドーンという大きな音
がいくつか聞こえ、同時に、ウォーッという歓声のようなものが外から響き渡っ
て騒ぎが大きくなった。
そして、その騒ぎが一旦収まると、誰かの演説するような声が聞こえてきた。
「ソーラ王よ聞け。我々はすぐにでも、この城を落とすことができる。それが嫌
なら女神を渡せ。断われば我らの手中にあるマイア姫の命もなくなることになる
ぞ。」
僕は耳を疑った。マイア姫が捕まった? 何で?
健司も康司も、そして一美も信じられないような顔をしている。
「……どうやら、僕が出ていかなきゃ収まらないみたいだな。」
「博美、危険だぞ。」
「だけどさ、僕が出ていかなかったら、マイア姫が殺されちまう。」
「じゃあ、俺もついてくぜ。」
「そうか。じゃあ頼む。」
僕と健司は部屋を出ると、建物の玄関の近くに行った。
城門は見事に壊されていて、そこに反乱軍の兵士達が並んでいた。その先頭に
いるのはマース侯とディモスだった。そして城門の前には、こちら側の兵士達が
数人、無惨にも横たわっている。
そして、その向こうで、一人の兵士がマイア姫の首に剣を当てている。
「やっぱり、あいつらか。」
僕は、軽く唇を噛む。
「やっぱり、あの連中なの?」
「やはり、ディモスでしたか。」
耳元で声がしたので振り返ると、一美がいた。康司も一緒に。そして、セレナ
姫が、いつの間にか横に来ていた。
「おい一美、危険なんだから部屋で待ってろよ。ほら、セレナ姫も危険なんです
から。」
「大丈夫よ。それに部屋で待ってたって仕方ないもん。」
「私もマイア姫が捕まっているのをただじっと見ている気にはなれません。」
やれやれ。まったくしょうもない。僕はため息をつくと、
「じゃあ、ここで待ってろよ。間違っても出てくるんじゃないぞ。」
そう言って、玄関から外に出る。
僕が姿を現すと、ディモスは、馬上でニヤリと笑って、
「やっと出てきましたね。さあ、こちらへいらっしゃい。あなたが来ないとマイ
ア姫の首が落ちる事になりますよ。」
「博美さん、駄目です。来ないで下さい。」
マイア姫は叫ぶけど、でも、マイア姫を見殺しになんてできない。
「健司、何かあったら、後は頼むぜ。」
僕は健司に、そう言い残して、少しづつ進んだ。
門のそばまで行って、一旦立ち止まる。そして、
「ところで、マイア姫は放してくれるんだろうな。」
一応、確認。と、返ってきたのは、当然といえば当然の答え。
「さあ、どうでしょうね。すべては、あなた次第ですよ。」
それと同時に、他の兵士達が駆け寄ってきて、僕の腕を後ろに捻り上げた。
「うっ!」
その痛みに耐えかねて、僕が思わず顔をしかめる。と、ディモスが、
「これこれ、そんなに乱暴に扱うでない。仮にも私の妻なのだぞ。」
その言葉で、兵士達の力が緩んだ。でも、僕なんかの力じゃ到底、振り解けな
い。
そのまま引きずられるようにして、ディモスの所まで連れて行かれた。
僕は後ろ手に縛り上げられ、ディモスの馬に乗せられた。着ている服が服なの
で、馬の背にまたがることはできないから、横向きに腰掛ける格好だったけど。
ディモスは、僕の体を支えると、僕の耳元で、
「もう逃げられませんよ。おとなしく私に従いなさい。」
と聶いてきた。
急に耳元で聶かれて、僕はビクッとする。それを見て、健司が駆け寄ろうとし
た。
だけど、ディモスが、
「動くな! 下手に動くと、この娘の命はないと思え。」
なんて言うもんだから、下手に動けなくなってしまった。
ディモスは、誰も近付けないことを確認すると、僕を抱き寄せ、胸元に手を忍
ばせてきた。
僕は、もう一度、ビクッとすると、嫌悪感で鳥肌が立った。
「うわっ!」
あまりの嫌悪感に思わず叫び声を上げた途端、我慢できなくなって、つい暴れ
てしまう。
その時、いつの間にか馬の横腹を蹴飛ばしていたらしい。
いきなり馬が高くいなないて前足を上げ、そのまま走りだしてしまった。
「うわあーっ!」
次の瞬間、僕とディモスは馬から振り落とされていた。
これ、結果的には僕にとって、すごく都合がよかった。
まず、ディモスは、そのまま後に落ちて尻もちをついた。でもって、僕はディ
モスより前に乗っていたので、馬がいなないた時に、少し跳ね上げられてから落
ちた。
−−−− 続く −−−−