#901/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE ) 88/ 3/11 21:34 ( 98)
トゥウィンズ・1 九章 (1/3) (27/34)
★内容
九章
そして四日目。
この日は部屋の中で健司達に手伝ってもらって、なんとか歩く練習をしようと
していた所だった。
毎度のようにセレナ姫がやって来たと思ったら、ちょっと普段と様子が違って
いた。
「皆さんに伝えておかなければならないことがあるんです。」
「何でしょうか?」
「先刻、最後の悪魔について、占い師に言われたんですけど……。」
悪魔と聞いて、僕達は身を乗りだした。
「あの、居場所が判った訳じゃないんで、そんなに期待されるとこまるんですけ
ど、ただ、マイア姫のお城に行けば、近いうちに現れるだろうとのことなんです。」
「マイア姫のとこに?」
「ええ。それで博美さんも全快する頃だし、皆さんと一緒に私達も行こうと思っ
てるんです。」
「私達っていうのは?」
「この城の殆どの人間です。一部の人は留守番で残りますけど。それで申し訳あ
りませんが、あさって出発することになりましたので、そのように準備をしてお
いてもらえませんか?」
「判りました。マイア姫のところに戻るっていう約束だったし、悪魔退治のチャ
ンスがあるなら、参ります。」
「お願いします。」
さあ大変だ。早く歩けるようにならないとね。そうは思っても、僕の足は動い
てくれない。
それでも、次の日には、痛みはあるものの、なんとか足が動かせるようになっ
ていた。
そして、さらにその次の日、出発の日の朝。
僕は目が覚めるが早いか、すぐに足を動かしてみた。
ベッドの中で足全体の屈伸。うん、動かすだけならもう痛みはないみたいだ。
そのあと、ベッドから起き上がって、そのまま腰をおろして、足を床につけ、
久しぶりに自分の足で立とうとしてみる。
あっつ、駄目だ。体重がかかると足の中を痛みが駆けずり回る。やっぱり、少
しづつ体重をかけていかないと駄目かな。
もう一度ベッドに腰をおろし直して、再度右足を床につける。そうっと体重を
かけていって……。
そう、ゆっくりゆっくり。ちょっと痛みが走った所で少し戻して、それ以上体
重がかからないようにする。そして、次は左足。同じようにゆっくりと体重をか
けていって、痛みが走ったところでちょっと戻す。そのあと、足が体重に慣れて
痛みがなくなった時、今度は両足同時に、残りの体重をかけ始める。少しづつ少
しづつ。
こうして、痛みが走れば少し戻して、また騙し騙し体重をかけて、その繰り返
し。
最後にはとうとう、全体重をかける、つまり、自分の体重を足だけで支えるこ
とができるようになった。自分の足だけで立ったのなんて久しぶりって感じがす
る。ちょうど一週間ぶりくらいだ。
でも、それ以上は足が動かせそうになかったので、僕はベッドに戻って休んだ。
そして、特に重点的に痛んだひざやくるぶしの辺りを充分に揉みほぐす。
一息ついたところで、再度挑戦。
うん、今度は割と楽に立てる。段々慣れていくのかな。
そのまま、ゆっくりと一歩一歩、足を前に出してみる。片方の足に全体重がか
かる度にひざが痛んだけど、でも先刻程じゃないし、それに、その痛みも段々和
らいでいく。
なんとか、一通り歩けるようにはなったようだ。まだ、人並っていう程は歩け
ないにしても。
そして、ゆっくりと、洗面所に向かう。お手洗いに入って、そのあと顔を洗っ
た。
顔を洗っている時、水の流れる音がうるさかったのか、一美が目を覚ましてし
まった。
「博美? どうしたの、博美!」
「お、ごめんよ、起こしちまったか?」
僕は、ゆっくりと洗面所から顔を出す。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「ああ、なんとかね。まだ、ちょっと足が痛むけど、でもなんとか歩けるみたい
だ。」
「へーえ、よかったじゃない。歩けるようになって。」
「まだまともには歩けそうもないけどね。」
「でも、ベッドから出られないよりはマシでしょ?」
「確かにね。でも、少しづつ慣れてきたみたいだ。段々歩くのが楽になってきて
る。」
「じゃ、社会復帰まで、あと少しか。でも、無理しちゃ駄目よ。」
「うん。だけどさ、今日はマイア姫の城に帰る日だろ? 出発時間までには完全
に復調しとかないとね。あ、そうだ、健司達、まだ寝てるかな。」
「まだ時間が早いもの。多分寝てるんじゃない?」
「ちょっと部屋まで行ってみようか。」
僕は一美と一緒に健司達の寝てる部屋に行ってみた。まだ寝てるようだ。
そっと扉を開けて、ゆっくりと枕元に近づいてみる。
そうっと近づいたつもりなんだけど、健司には微かな音が聞こえたらしい。目
を覚まして、一瞬何が起こったのか判らない感じで慌てて跳び起きたけど、僕と
一美が部屋に来ただけだってことに気が付いて、
「あー、びっくりした。お前らか。あ、そういえば、お前、足は大丈夫なのか?」
「ああ、なんとかね。まだ完全じゃないけど、ゆっくりとなら歩けるようになっ
たみたいだ。」
「へー、あの占い師の言ったことは正しかったのか。」
「そうらしい。おい、一美。康司も起こしちまえよ。」
「うん。」
一美は、康司の枕元に、そうっと近づく。
そして、耳元に顔を近づけて、大声を出そうとして息を吸い込んだ瞬間、康司
の布団が跳ね上げられて、そのまま一美にかぶさり、康司が跳び起きた。
その結果、一美は大声を出すつもりで吸い込んだ息を、悲鳴をあげるために使
ってしまった。
「きゃああ!」
「残念でした。もう、起きてるよ。一美ちゃん、びっくりしたか?」
一美、布団の中で悪戦苦闘してたけど、なんとか顔を出すと、
「もう、何事かと思ったじゃない。」
なんて言って、少しふくれている。
−−−− 続く −−−−