AWC トゥウィンズ・1 八章 (2/4) (24/34)


        
#898/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE     )  88/ 3/11  20:13  ( 97)
トゥウィンズ・1 八章  (2/4)  (24/34)
★内容
 そう言うと、健司は博美の左手を握りしめ、そこに自分の額をつけて、祈るよ
うな感じで呼びかけた。そして、呼びかけの言葉を思い付く限り呪文のように、
ただひたすら繰り返して……。

 そのまま三日が過ぎようとしていた。三人共、かなり疲れが溜っていた。それ
でも博美のことが心配で、ずっと呼びかけ続けていた。
 そして、皆がダウン寸前になって、少し仮眠を取ろうとした時……。
 突然、それまで悲しげなだけだった博美の表情が、少し変わって、
「う……ん……。」
 軽く声を出した。

 僕は、目の前が暗くなって気が遠くなったあと、気が付くと、全くの暗黒の世
界にいた。
 呼べど叫べど、誰もいやしない。仕方なく、その辺をさまよっていた。
 どれくらい経ったのだろう。気が付くと、目の前に一美の顔が浮かんでいた。
 一美は、かなり厳しい顔をして、僕の方を睨んでいる。そして、だんだん僕に
近付いてくる。
 最初、僕はどうしたらいいか判らなかった。が、一美の顔がだんだんと悪魔の
ようになっていく感じがした。見かけは全然変わっていないんだけど、なんか雰
囲気が違うんだ。
 そして、一美が近付くにつれて、僕は後ずさりを始めており、気が付くと後ろ
を向いて走りだしていた。一美から逃げるために。
 突然、目の前に康司の顔が浮かぶ。
「えっ? な、なんだ?」
 訳が判らないまま、立ち止まる。と、康司も悪魔の雰囲気を漂わせている。
 後ろからは、一美の顔が追いかけてくる。
「うわあーっ!」
 とっさに右に向かって逃げる。一美の顔が右後ろから、康司の顔が左後ろから
追いかけてくる。
 とにかく、めいっぱい早く、自分で考えられる限り、最も早い速度で走る。あ
の二人から逃げるために。
 ひたすら走り回り、それでも右後ろの一美と左後ろの康司から逃れられないで
いると、今度は、健司の顔が目の前に現れた。やはり悪魔の雰囲気を漂わせて。
「うわっ! あうっ!」
 慌てて急停止。途端に足がもつれて、つんのめってひっくり返る。
 右後ろから一美、左後ろから康司、そして目の前には健司。
 どうしよう。三方向から囲まれて逃げる方向がない。それに、ひっくり返った
ときにでも打ったのか、足が痛くてたまらない。
 三人の顔がだんだん近付いてくる。僕は足がすくみ、ついでに足の痛みも加わ
って、立ち上がることができない。そして、三人は、どんどん近付いてくる。悪
魔の雰囲気を漂わせながら。
 わ、わ、わっ、誰か。誰か助けてくれ。やだよ、それ以上、近付くな。恐いよ。
誰か助けて!
 そんな言葉が心の中を駆け巡る。が、実際の言葉にはならない。
 三人の顔が僕の目の前に集結し、もう駄目かと思って目をつぶって手で顔を覆
った瞬間、いきなり左手を引っ張られた。
 えっ? 何? 誰だ?
 訳が判らないまま、左側に、ぐいぐいと引っ張られていく。それと共に、妙な
落下感があって、また僕の意識が無くなっていって……。そして……。

「う……ん……。」
 薄い意識のなかで、僕が軽く声を出すと目の前が急に明るくなって、そして、
目の前にいたのは健司だった。
 健司は、僕の左手を握りしめて、僕の顔をのぞき込んでいた。
「博美、よかったあ。」
 一美が、涙でくしゃくしゃな顔をして、僕に抱きついてくる。
「うわあーっ! やめてくれーっ!」
 まだ、現実と悪夢の区別がついていなかった僕は、慌てて健司の手を振り払い、
一美から逃げようとして、全く身動きが取れないのに気が付いた。
 そして、体が動かない分、余計に恐怖心がつのり、絶叫に近い悲鳴を上げてし
まった。
「おい、博美。どうしたんだよ。俺だよ、俺。健司だよ。」
「うわあー!」
「博美、どうしたのよ。あたしが判んないの?」
 一美が、僕に抱きついたまま、顔を上げる。
 半ばパニックを起こしかけていた僕は、いままで見ていた一美の顔と違って元
の雰囲気を持った、ごく普通の一美の顔なのに気付いて、なんとか落ち着きを取
り戻した。
「え? あ、一美か?」
「何言ってるのよ。あたしの顔も判んなくなっちゃったの?」
「ああ。よかったあ。なんか、すごく悪い夢を見てたみたいだ。」
 ほっと一安心。
「やだ、ほんとだ。すごい脂汗流してるわ。相当な悪夢だったみたいね。」
「ほんと、参ったよ。健司と康司と一美が悪魔になって追いかけてくるんだ。す
ごく恐かった。」
「それで、あんな悲鳴上げたの?」
「うん、本当にびっくりしたから。あ、そういえば、僕、どうしてたんだっけ?」
「なんだ、博美、全然憶えてないのかな?」
「へっ?」
「お前、悪魔倒したあと、気絶したんだぜ。」
「えっ? そうだっけ?」
「なんだよ。本当に憶えてないのか。じゃあさ、お前、マース侯の所に行った事
は憶えてるか?」
 僕は、記憶の糸をたぐって、なんとか思いだそうとする。
「えーっと、確か、マース侯の所に行って悪魔一人倒して、そしたら、もう一人
の悪魔がセレナ姫と健司のこと、さらっていって……。」
「うん、それから?」
 そのあと、ディモスがしたこととか、そこから逃げだしたときの模様などを思
い出せる限り話す。
「それで、お城を飛び出して、プラネット公のお城に向かったんだよね。で、プ
ラネット公のお城に着いたら、一美達がいて、ほっとしたら一美達に変な事言わ
れて、なんかすごくショック受けたんだっけ。」
「そのあと、一美ちゃんと康司は悪魔と戦って負けて、それで、お前一人で悪魔
と戦ったんだよな。で、悪魔に勝ってさ、セレナ姫や俺が助かって、お前、ほっ
としたんだろ?」

−−−− 続く −−−−




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