AWC トゥウィンズ・1 八章 (1/4) (23/34)


        
#897/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (VLE     )  88/ 3/11  20: 9  ( 99)
トゥウィンズ・1 八章  (1/4)  (23/34)
★内容
八章

「本当に、博美さんはマース侯のところのディモスなんかと結婚したんですか?」
 博美の寝ているベッドの脇でセレナ姫は不思議そうに一美に聞く。
「ええ、だって、あたし、この目で見たんですよ。」
「だけど、変ですねえ。博美さんがディモスなんかと結婚する気になるなんて。」
「あの、何で、ディモスに『なんか』って付けるんですか?」
「ああ、一美さんは御存じなかったんですわね。あのマース侯というのは、元々、
今の国王に対する反勢力の頭なんです。隙があれば国王の座を狙っているような、
平和って言葉と全く縁のない男なんですよね。その息子のディモスもあまりタチ
の良くない男なんです。とにかく陰険な性格してまして、私も随分しつこく妻に
望まれたんですけどね、何とか断わったんです。でも、そのあとの嫌がらせのひ
どかったこと。」
「そんなにひどい男なんですか?」
「あれ以上にひどい男はそうそういないと思いますよ。そんな男と博美さんが結
婚する気になるなんて、ちょっと信じられないんですよね。あと、前に聞いたこ
とがあるんですけど、マース侯の所には人を思い通りに操るための秘薬があると
か。ですから博美さんは、自分の意志で結婚されたんじゃなくて、なにかの秘薬
を使われたんじゃないですか?」
「ええ? そうなんですか? でも、それじゃ、何で博美が?」
「あの一族は王座を狙える位の強い勢力を誇っていましてね。それで、反国王派
で頑張っていられるんですけど、最近は周りの地方に住む諸侯からそっぽ向かれ
ていたんです。そこで周りに対して力を誇示するために、いろいろな手段を使っ
ていたんです。で、博美さんは女神様ですよね。あの連中なら、博美さんを一族
にして女神としての力を誇示しようってことくらいは考えると思いますよ。」
「でも、女神様ってことで、そんな目に会ったのなら、別に博美じゃなくて、あ
たしでもよかったんじゃないですか?」
「ええ、どちらでも良かったんでしょうね。たまたま博美さんが選ばれただけだ
と思います。」
「じゃあ、博美は……。」
「博美さん自身がディモスなんかを好きになるなんてことは到底信じられません。
ですから、一美さんと康司さんの御覧になった結婚式のことが事実なら、博美さ
んは、単に操られていただけだと思います。でも……。」
 セレナ姫は、うっすらと涙を浮かべると、声をつまらせて、何も言えなくなっ
てしまった。
「じゃあ、あたし、もしかして、博美にとんでもないこと言っちゃったのかなあ
……。」
 一美は、半ば、かすれたような声で話す。
「俺も、随分ひどいことを言ったような気がする。」
 康司はシュンとする。
「だけど、なんてひどいこと言っちゃったんだろう。あたしこそ博美の姉妹をや
ってる資格がないわ。あたし、博美になんて言って謝ればいいのか判らない……。」
 一美は、泣き声になる。
「一美ちゃんの気持ちも判るけどさ、今は、誰が悪いのかなんてこと今更追求し
ても仕方ないんだし、どう謝ったらいいのかなんてこと考えても、当の博美が目
を覚まさなけりゃ全然意味がないんだ。博美が意識を取り戻すには、どうしたら
いいのかを考えることの方が先なんじゃないのか?」
 健司が一美を励ます感じで言う。
「でも、あたし、こんな悲しげな顔の博美、見ていたくない……。」
 一美は、更に泣き出す。その雰囲気を破るかのように、セレナ姫が、
「じゃあ、私、占い師に、今、博美さんがどうなっているのか、そしてどうした
ら目を覚ますことができるのか、ちょっと聞いてきますね。」
 と言って、鼻をすすりながら、部屋を出ていった。

「ふーむ、あまり、よくないのう。この娘の心の中では絶望感が渦をまいておる。
このままでは、死ぬまで目を覚ますまい。」
 占い師は、セレナ姫の質問に答えるため、博美の寝ている部屋にきて、こう言
った。
「そんなに、ひどい状態なんですか?」
 一美が聞く。
「うむ。この娘は意識を失う前にかなりの絶望感を味わったようじゃの。それに
加えて悪魔と戦った時、かなり体力と精神力を消耗したようじゃ。この娘が目を
覚ますためには、まず絶望の原因を取り除き、それをこの娘の心に伝える必要が
ある。」
「あの、すべて私達が博美のことを誤解したのが原因だったんです。」
「そうか。ではそのことを、お前達がこの娘の心に伝えるがよい。それが伝われ
ば、すぐにでも目を覚ますであろう。」
「でも、どうやって……。」
「さあな。それワシにも判らん。やり方はすべて、お前達次第じゃ。じゃが、仮
に今、目を覚ましたとしても、一週間はここに寝かせておかねばならぬぞ。なに
しろ、かなり体が弱っておるでの。」
「そんなに弱ってるんですか?」
「まあ、命に別状はないがな。しかし、相当手ごわい悪魔だったようじゃな。こ
の娘は、その悪魔の手中に落ちて悪魔にされかかっていた人間も救ったようじゃ。
おぬし達、その人間の心当たりはないかな?」
「あ、もしかして、あの時の……。」
「ふむ、あるようじゃな。」
「それで、今の博美を救う方法はないんですか?」
「ワシにも判らんと言うたじゃろうが。まあ、おぬし達で頑張ってみることじゃ。
もっとも、今、気が付いたとしても、自分で起き上がる力はないがな。自分の力
で起き上がれるようになるのには、あと一週間程必要じゃろう。」
「そうですか……。」
 一美は、どうしたらいいのか判らないまま言葉を失った。
 セレナ姫が、慌ててお礼を言うと、占い師はそのまま部屋を出ていった。

「博美。ねえ、博美。お願いだから目を覚ましてよ。」
 一美は博美の涙を拭いたあと、必死に呼びかけていた。
「博美。すべては誤解だったんだ。だから早く目を覚ましてくれ。」
 康司も呼びかける。でも博美は相変わらず、悲しげな顔をしたまま、全く反応
を示さない。
「ねえ、健司くんも呼びかけてよ。」
 健司が、全く呼びかけないので、一美が促す。
「俺さ、祈るつもりで呼びかけようと思ってるんだ。心の中でさ。とにかく体力
が続く限り徹夜してでも呼びかけてやろうと思ってるんだ。」
「そんなことしたら、体が参らない?」
「だって、博美は、それ以上に体が参ってるんだろ? 博美に比べたら徹夜なん
て大したことじゃないさ。」

−−−− 続く −−−−




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