#703/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (WYJ ) 88/ 1/22 9:46 (101)
新リレーA>第8回 走って、いじめて、踏ん付けて SOPH
★内容
映画館を飛び出して本屋の中を突っ切り、裏通りを走り抜け歩道橋を駆け登り……
あたしと先輩は、必死でワケのわからない集団から逃げ回った。
「…せ、先輩…何で私たち…逃げて…るんですか?」
ゼェゼェと息をきらせながら、やっと訊く。
「さぁ……?」
う、さすが陸上部。まだまだ先輩には余裕があるように見える。だけどダメ茶道部
にはここまでが限界よ、……あはは、膝が笑っちゃう。
「さっきの……何か変わった人……先輩の…知り合いの方ですか?」
「映画館で君に声をかけた奴だろ………いや、知らない。」
「じゃあ…私たち…何で逃げてるんだろ?」
とは言っても、やっぱあの集団はおかしい………絶対異様だ。
あれじゃ、不気味で逃げない訳にはいかないじゃない………何なのよ、もう。
「深雪君、とにかく今は逃げてくれ…!」
スピードの落ちたあたしを、後ろを見ながら先輩が急かす。
「…え?」
「どうやら、あの中に俺の母親が混じってるんだ……。」
「はぁ!?……先輩のお母さんが?どうして……!?」
駆け出した先輩につられて何とか走ったものの、あたしは路地から大通りに出た所
でへたりこんでしまった。
「先輩、ホント…も…だめ。」
マジに限界だよぉ……。後ろからは、おばさん達が迫ってくる。…もう、知らない!
「…おい、バスが来た!」
先輩が叫んだ。 ホントだ、ラッキー!! 少し先の停留所にバスが着く。
あれって、どこ行くバスだろ? あぁもう何でもいいや、け、けど足が……。
先輩はあたしの二の腕をつかんで引きずった、ドアを開けたバスへと押し込む。
…でも………あ〜ん、まだ乗る人たちがいるんだ……追い着いて来るよ!
それでも間一髪、おばさん達を残しバスは走り出した。……やったぁ。
「……助かったぁ。」
二人同時に声を上げた。えへ、何となく嬉しいな。…ホント、やっと息がつけるわ。
…ふぅ……しかし、一体今のは何だったんだ?バスの窓から小さくなる集団を見る。
あ、さっき声をかけた人、女なんだ…あれは変装の?……え、待ってあれって?
−−−−− あれって 直美 ?
☆
「ねぇ、祥子。…昨日直美と一緒だったの?」
月曜の朝一番、顔を見るなりズバっと訊いた。(実はこれが得意ワザだったりする)
ふ〜ん、直美はまだ来てないみたい。教室にカバンがないわ。
「え、直美?…知らないわよ……。」
顔色も変えずに祥子は言う……やるわね。…昨日は…もうそこそこに先輩と別れて
家に帰った。…あんな状況でゆっくり出来る訳ないじゃない。特に先輩のお母さんま
で混じってたら……。あ〜ぁ、初デートなのにと嘆く気力も無いわ…身がいって……。
「それより、どうだったの?先輩とドラえもん。」
平然と訊く祥子を見てるとムカムカと腹が立って来た。おかげで、ゆうべこっちは
一晩中直美の事が気になって……全く……土・日と続けて寝不足もいいトコよ。土曜
日だって、緊張で眠れなかったんだから。ま、その分祥子をいじめよう。
「……昨日帰ってすぐに……祥子に報告をと思ってTELをかけたら……幸雄君が…
『お姉ちゃんは、直美さんと一緒にドラえもんを見に行きました。』って。」
「ウソォ、TELがあったなんて聞いてないよぉ?…またカマかけてぇ…。」
「あたしが口止めしといたからよ。」
そうよ、帰ってすぐに祥子が家にいるか確認のTELをしたんだから。
「祥子、幸雄君とドラえもん行く約束してたんだって?…幸雄君…怒ってたよぉ。」
「ぁ、あの子はぁ……ベラベラと。」
「で?どういうつもりであんな事したのよ……ちょっと、もうバレてんのよ!」
ジロリとにらみ付ける。どうだ、あたしだって怒るんだぞ、怖いんだぞ!
「だからぁ……素直に言うと興味もあったけどぉ…。でも、やっぱ深雪の事を心配し
ての行動よぉ…。」
「へぇ…心配して?」
「そうよぉ…応援するって言ったじゃない。…ね、陰ながら見守るってヤツよぉ。」
「それが、何の冗談であんな訳のわからない人たち引きつれてたのよ。」
「知らないわよぉ。そりゃ何か変なのが一杯いたけど……あれ、結局何だったの?」
「本当に知らないの?」
「うん。」
祥子の目を覗き込む………けど、そんな事でわかるわけないか………。
「でもねぇ……確かに昨日の直美は……何かおかしかったなぁ………。」
祥子が意味深に笑う。……………………あんた一体、何が言いたいの。
☆
その頃、クラブ・ハウスの前で鈴木健作は神月に声をかけられていた。
「よぉ、久しぶりじゃん。」
「神月……お前なぁ……昨日のあれは何の騒ぎだよ。どういうつもりだ!?」
「へぇ…俺にも気付いてたんだ……。」
「気付かいでか……あんだけ派手にやっておいて。」
「待てよ、俺は他の奴らの事は知らないぜ。……何か色々いたなぁ、佐藤のトコの奴
とか……お前の母親もいたろ?……はは、日頃の行いが悪いからさ。」
「……うるさい。」
軽くにらむ健作を無視して神月は続ける。
「昨日の子は、今年に入って何人目の彼女かな?……一年は裕子…だろ?それから後、
二人程いたな…今度の彼女が知ったらショックだぜ。…二年で俺の知ってるのは…。」
「……やめろよ!」
「…そして三年にも…だ。」
「……心配すんなよな、今度こそ真面目につきあうつもりだから……古沢の事だろ。
もう、全然関係ないよ。………今度は本気だよ、それを確かめにきたんだろ?」
「今イチ信用できねぇな。何しろお前の場合、今迄が今迄だからな。」
「お前こそ自分の心配でもしてろよ、さっさと謝ってまとまっちまえ。」
「……まぁ、古沢も……メガネさえあの銀縁でなけりゃ……なかなか可愛いとは…。」
「そうそう、あの黒髪が…。」
「……………やっぱ、お前は信用できねぇ……。」
「あのなぁ…。」
ふと、二人は物音に注意を引かれて振り向いた。校舎の影に直美がいた。気付かれ
て走りさって行く。
「今のあれ…今度の彼女の友達じゃねぇの?………鈴木、お前ヤバくない?」
勢いよく走って来た直美は校舎の昇降口で、思いっきり誰かとぶつかった。つんの
めって倒れ込む。慌てて下敷にした相手を見れば義彦だった。
知った顔を見つけて、張っていた気が一気にゆるむ。こらえていた涙があふれる。
「それでも…あ、あたし………今度の事だけは……絶対に…認めないから………。」
そう言って泣きじゃくりながら走り去って行く直美を、踏み付けられた義彦は呆然
と見送っていた。
<<つづく>>