AWC 白き翼を持つ悪魔【後書き】          悠木 歩


        
#288/598 ●長編    *** コメント #287 ***
★タイトル (RAD     )  06/08/25  23:07  (126)
白き翼を持つ悪魔【後書き】          悠木 歩
★内容

 これを読まれている方は、本作のほうもお読みくださったのでしょう。厚く
御礼申し上げます。もしまだお読みでなく、これから読んでみようと思われて
いる方は、これを読むのは後回しにするようお願いいたします。

 と、まあ前置きしたところですが。以降は本作についてのあれこれと御託を
綴ったものですので、さして面白いものではありません。

 元々一作がやたら長くなる傾向の私ではありますが、本作は殊更長いものに
なってしまいました。主要登場人物は三人、当初はこの半分程度の文章量にな
ると予想していたのですが………

 物語の履歴というか。
 本作は過去執筆を予定していた複数の作品が一つにまとまったものなのです
が、ベースになった作品は復讐劇であります。
 「奇妙な果実」でしたか。ソウルの曲をヒントに庭の柿の木にぶら下がった
少年とそれを不思議な気持ちで見つめる妹というシーンを思いつきました。や
がて成長した妹が、虐めを苦に自殺した兄の復讐をする。そんな物語でありま
す。
 女性が復讐をするのには些か無理があるか。いや、物語としてはその方がよ
り面白いのか。など考え、兄妹、姉弟、姉妹等々複数パターンを用意していた
ところ………
 旧AWCで某氏による「復讐」をテーマにした作品が発表されました。
 予定していた私の作品とは内容で異なるものの、AWC内でも熱烈なファン
を持つ某氏と同じテーマの作品を書いたところで見劣りするのは避けられない。
幸い執筆も始めていなかった作品はそのままお蔵入りとなりました。
 その後、私が数年間続けていた「クリスマス」を題材にした作品群用のアイ
ディアとして天使と悪魔の間に生まれた女の子を主人公にしたものを考えます。
しかしこれは中々物語がイメージ出来ず結局は作品化する事もありませんでし
た。そこからまた暫く時間を置き、二つの案が混ざり本作品のベースとなりま
す。
 ちなみに作品冒頭部分、優希が右半分だけの姿で登場しますが、これも元々
は拙作【OBORO】の敵として考えていたものです。なぜ左でなく、右半分
なのかと言いますと。これは少々こじつけなのですが、心臓=ハート=心を欠
いている、という意味を持たせています。

 キャラクターについて。
 三人の主要登場人物について話をさせて頂きます。

 田嶋優希。
 彼女を書くに当たって特に留意したのが変化と言うことです。序盤の悪魔の
眷属としての言動から、次第に田嶋優希へと変わっていく様子を描くのが私に
とってテーマでありました。しかし書き上げた後、幾度読み返しても些か不自
然さ、性急さというものがあったようで。
 それからお気づき頂けたでしょうか? 本作に於いて「彼女」と言う表現は
優希を指す場合のみに使用しています。別段深い意味もないのですが、「彼女」
を固有名詞として使用するというのもテーマでした。

 笠原健司。
 一番不満の残るキャラクターですね。
 何か彼の行動は受動的で、ただ流されているという感じで。諭されて己の間
違いに気づいただけだし。実際執筆中、性格付けの際にも尤も苦慮しています。
 ちなみに製作途中、序盤では全く別の名前で書いていたんですが。個人的な
事情で変更したため、私自身が新しい名前に馴染むのに苦労した、っていうの
もあるかも知れません。

 室田梨緒。
 健司とは逆に最も動かしやすかったキャラクター。
 元々、梨緒の役所には複数のキャラクターを予定していました。つまり序盤、
健司の部屋を訪ねて来る女性と、後半の梨緒とは別人物のはずだったんです。
 さらに復讐劇を構想していた時には、その対象となる複数のキャラを一つに
まとめた存在でもあります。なまじ複数のキャラを作るより効果的だったかと、
私自身は感じていますが。
 キャラを統合した影響もありますが、当初は徹底した悪役になるはずでした
が。

 物語・エピソード。
 可能な限り淡白に、と言うのが当初の目標でした。いきなり地獄のシーンか
ら始まる非現実的な物語でありますが、故にその後のシーンは淡々と進めて行
きたいと考えていました。まあ実際はその目的通りには行かなかったよう思い
ます。
 それでも拘ったのは中学生の優希が命を落とすシーン。
 あそこは書く寸前までどうするのか決まりませんでした。ただどうしてもド
ラマチックな形にはしたくない。読者が「はあ? なんだこりゃ」と言うよう
な、唐突で肩透かしを食らうような形にしたくない。人の死とはその大半が、
そうであるよう、第三者から見れば物語にならないような形にしなければなら
ない。 かと言って、あまりにも馬鹿げていて、物語から浮いてもいけない。
少々ジレンマを感じつつあのような形となりました。

 ラストシーンは、また夢落ちか? そう受け止められても致し方ないかと思
います。しかし言い訳をさせて頂くと、あれはあくまでも別の時間の流れの中
へ、優希の意識が移動したという設定であります。
 言葉として使用はしませんでしたが、あそこで登場する「闇」はブラックホ
ールのことです。
 高校生時代、SF好きの友人に囲まれ、少なからず私も影響を受けました。
ただしその知識は実に乏しいものでした。それである時、もっと知識をつけよ
うと考え、あれは岩波のブルーバックシリーズだったか………を読み始めまし
た。その折、最初に手にしたのがブラックホールの本でした。
 まあさして良くない頭。殆ど理解も出来ず、あまり記憶にも残ってはいませ
んが。ブラックホールの自転方向と逆に進めば、理論上時間を遡ることになる。
朧気にそんな記述があったのを記憶しています。
 また後に膨大な質量の周囲、恒星の周囲では時間と空間に歪が生じる、と聞
いた記憶もあります。
 もちろんそんな真似が出来よう筈はないでしょう。でももし生きた身体を持
たない存在であれば?
 魂、意識と言った類のものであったなら?
 更にはここに、私の考える輪廻感も加わります。
 人に魂はあるのか、輪廻転生とは本当にあるのか?
 医学、科学が進歩すればするほどにそれが信じにくいものとなって行きます。
地球の総人口は六十億を超えて久しい。ここ百年その増加は爆発的であるとか。
と、なると今生きている人々の全てが、前世でも人であったとは思い難い。に
もかかわらず、TVに登場する前世を言い当てる人物は、相手にした芸能人全
てにその前世を告げる。
 例えば。この世に生きた生命の全て。昆虫からそれこそ細菌の類まで転生の
中にあるとするなら、まだ納得も出来ますが。
 或いは、と私は考えます。
 輪廻転生とは未来に向かうものばかりでは、ないのではないかと。
 人は歳を重ねれば重ねるほどに、過去を懐かしく思い出します。幼い日々の
思い出に、涙するようになります。
 死へ近づくから若い日、幼い日を恋しく思うのだ。そう言う人もいます。で
もひょっとして、過去を懐かしく感じるのは、その時間から遠ざかってしまっ
たからではなく、その時間にまた近づいて来たからではないだろうか。肉体が
滅びた後、魂は過去へ戻って行くのではないだろうか。そんな発想がこの作品
の根底にあります。
 と、その実、これはあくまでも作品を書くための発想に過ぎませんでした。
しかし最近、作品を書き上げた後、この後書きを書いている最中、大病を患い
ました。幸いその病気に関し実績のある病院で手術を受けられ、当面の危険は
なくなりました。が、最初に病気の事を知り、死というものを今までになく真
剣に考える中、この発想が間違いではないように思えたりもしました。

 遅筆、と言うよりは鈍作なため次回作がいつになるか分かりませんが、再び
作品にて皆さんへお会い出来る事を祈りつつ。

 悠木 歩 こと 悠歩






元文書 #287 白き翼を持つ悪魔【16】            悠木 歩
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