AWC CROSS TALK【改訂版】(9/13)  らいと・ひる


        
#25/598 ●長編    *** コメント #24 ***
★タイトル (NKG     )  01/12/11  23:33  (230)
CROSS TALK【改訂版】(9/13)  らいと・ひる
★内容

 部活はそれでもなんとか出ることにした。最近は、柳沼も忙しいこともあって、
部誌の編集の仕事は葵に任せっきりのところもある。11月に文化祭をやること
もあって、その時出すみんなの作品のレイアウト作業にも追われていた。
 何か集中して仕事をしていると余計な事を考えなくていい。だから、葵は一生
懸命仕事をこなしていた。
 部誌のレイアウトは準備室のパソコンを使って行っている。最近は部活に来る
と、お茶会に参加せずにすぐに準備室にこもるのが日課となっていた。
「御陵クン」
 ドアがノックされて西原が入ってくる。
「あ、はい。なんでしょう」
 葵は画面から目を離し彼の方を向いた。
「あまり根を詰めすぎない方がいいよ。ここは部活であって、仕事場じゃないん
だから」
 西原の言いたいことはわかっている。ここのところの葵の行動は、やりすぎの
ところもあったのだ。
「はい。わかってるんですけど……でもこの作業ってけっこう面白いですし」
 面白いというのは嘘ではない。だが、それが同時に言い訳であることも葵自身
は気づいていた。
「なにかあったのなら、柳沼クンや立脇クンに相談するといいよ」
 彼は葵のおかしさに気づいていたのだろう。いや、今の葵なら誰が見ても普通
じゃないということに気づくはずだ。
「西原先輩は相談にのってくれないんですか?」
 葵は考えなしにそう言ってからはっとする。意味深にとられてしまったら恥ず
かしいかもしれないと。
「僕は、誰かの相談にのれるような人間じゃないからね」
 彼はさらりとそう言いのける。その瞳は少し寂しげではあった。
 同時に葵は彼が美凪の兄であるということを改めて思い出す。
 苦しいのは葵だけじゃない、そんな事はわかっていた。
「すいません、変なこと言って。わたしやっぱり最近変なんですよ」
 葵はあわてて謝る。
「まあ、何かに打ち込むのが一つの手だというのもわかっているよ。ただ、御陵
クンにはもうちょっと部活らしいことをやってほしいんだ」
「はい。わかってるんですが」
「どうだろう、打ち込むものの方向を変えるというのは」
「方向ですか?」
 方向と言われても葵にはピンとこない。
「例えばここは文芸部だ。創作ができれば文句はないのだが、まだまだ書く気は
ないのだろう」
「ええ、すいません」
「だったら書評をやってみないか?」
「書評ですか?」
「御陵クンは文化祭に出展する作品がないんだろう。レイアウトは文芸部本来の
活動とは違うからね。僕が面白い本を貸してあげるよ。それを読んでキミなりの
書評を書くんだ」
「わたし、読書感想文とか苦手なタイプだったんですけど……」
「先生に提出するんじゃないんだ。そんなに優等生ぶったものを書く必要はない
よ。気になった点とか、批評めいたものでもいいし、面白ければそれを誰かに紹
介するような文章でもいい」
「わたしに書けますかね?」
「書けるさ。これは、部長として部員のキミへの課題だ。文化祭までに仕上げて
おくこと。本は後で届けるよ」
 そう言って西原は準備室から出ていく。
 葵はなんとなくほっとしたような、大変な事を引き受けてしまったような複雑
な感じであった。
 ただ、文化祭まで日もないこともあり、部長や他のみんなに迷惑はかけられな
い。葵だけ出展作品が間に合わなかったでは、頼んだ部長の立場もないだろう。
 落ち込んでいる場合ではなくなった。
 とにかくできる限りがんばるしかなかった。そして、それが唯一の逃げ道でも
あったから。


 応和学園は、中高一貫教育である付属の私立学園である。学園の敷地内には二
つの校舎があり、それぞれに図書室はあるものの、それとは別に共通に利用でき
る大きな図書館が設けられていた。
 そのためか実質的に各校舎の図書室は自習室となっており、調べものや本を借
りる場合ほとんどの生徒たちは図書館を利用しているといってよい。
 一年生の葵は、オリエンテーションで一回行ったっきりで、自らの用事でそこ
に行くのは初めてだった。
 西原に借りたSF小説は予想外に面白かった。素人なりに書評は書けそうだっ
たが、やはり同じ作者の他の作品も読んでおかなければまずいということを柳沼
に言われ、葵は自らの足で図書館に赴くことにした。
 図書館の建物は、葵の教室の窓からよく見える。赤い煉瓦造りで、建物の周り
にはそれを囲うように銀杏の木が植えられている。その図書館を挟んでその向こ
うに高等部の校舎がある。
 敷地は同じではあるものの、中等部と高等部は校庭が別にあるため、生徒たち
が登下校に使用する正門はそれぞれの校庭側についていた。図書館の入り口もき
ちんと中等部側と高等部側で用意されている。
 つまり図書館は中等部と高等部を結ぶ中心に位置しており、この場所へ来ない
限り直接お互いの生徒たちが出会うこともなかった。
 図書館に入るとすぐ右側に貸し出しなどの受付をするカウンターがあり、左側
には整然と並べられた何十もの大きめの机と、その奥にはたくさんの本棚がある。
天井の高さが2階分ほどある吹き抜けの構造のため「思ったよりも広いんだなぁ」
と葵は感じていた。
 カウンター脇のコーナーには、タッチパネル式の最新のパソコンで本の検索も
できるようだ。
 さすがに室内は、葵がいる中等部とは空気が違う。彼女にとっては、少しだけ
大人びた雰囲気が漂っている。高等部の制服は基本的には中等部と変わらないセ
ーラ服ではあるものの、その着こなし方はやはり高等部の方が数段上手いようだ。
 とりあえず葵は、本棚を一通り眺めようと奥の方へと歩いていった。
 本棚を眺めているのは葵にとっては嫌いじゃなかった。知らない本の題名を見
ているだけでも楽しくてしょうがない性格でもあったのだ。
 さらに奥へ進むと日本人作家の棚が出てくる。その中に、前に西原に薦められ
た数学を用いたトリックを使う推理小説を見つけた。
 葵はタイトル部分だけを見ているだけでそそられてしまい、気づいた時にはそ
のシリーズを7冊ほど腕の中に抱えていた。
 頭の中で葵は、一度に借りられる冊数が10冊までという記憶を即座に引き出
し、8冊目を手にかけたところでそれを止める。彼女の本来の目的は前に西原か
ら借りたSF作家の別の本なのだ。
 書籍サイズのハードカバーほどではないが、新書サイズで7冊というのはそれ
なりに重みはある。スーパーマーケットのようにカートでもあればいいなぁと思
いながら葵は目的の場所を探していく。あの本を書いたのはアメリカ人で、確か
科学者であった。本はそこまで分類はされてはいないが、外国人作家でSFの棚
を探していくと、上の方にそれらしきタイトルを見つける。
 葵の身長は、伸び盛りとはいえまだ150センチほど。背伸びしても届きそう
もない。
 本棚と本棚の間に、小さい梯子のような台があったのを思い出し、取りに戻る
が、ちょうど他の女子生徒がそれを使用するところだった。
 しょうがなく葵は彼女の用が終わるのを待つことにする。
 すらりと長身で、長くきれいな黒髪の人だった。台に上った彼女が目的らしき
本を取る時に横顔がちらりと見える。
 その瞬間、葵の身体から力が抜けたかのように、持っていた本がばたばたと床
に落ちる。
 わずかな面影を葵は覚えていた。7年も前とはいえ忘れるはずがなかった。
「……お姉ちゃん?」
 台に上っていた女子生徒は何事かと、葵の方に顔を向ける。
 その顔にはほんの少しの驚きの表情が浮かび上がっていた。だが、すぐにそれ
を沈めると彼女は笑顔で葵の方を見つめた。
「葵。久しぶりね」
 その柔らかい声の感覚は、葵にとっては本当に久しぶりだった。
「やっぱりお姉ちゃんなの?」
 彼女は台の上から降りると、ゆっくりと葵の方へと歩いてくる。
「葵、元気そうで……よかった。いえ、元気そうなのはね、知っていたのよ。葵
の様子は、夏江さんから聞いてたから。ここに入学したことも」
「……」
 葵の瞳からは、涙がぼろぼろとこぼれ始めていた。
「なのに、今まで会いにいかなくて……葵に会うのが怖かった。あんな別れ方し
て、葵にものすごく嫌われたんじゃないかって、ずっと……。だから、夏江叔母
さんのところにいると知っても、会いにいく勇気がなかったの。この学園に葵が
入学してきて、こんな近くにいてもそれでもまだ躊躇いがあった」
 あれから7年も経つというのに、葵にはまだ昨日の事のように感じられた。
「……ごめんなさい」
 そう言うのが彼女には精一杯だった。
「何言うの? 謝るのは私の方。葵を一人で追い出した形になってしまって」
「……ううっ」
「つらかった? つらくても、頑張ってきたよね。夏江さんからの手紙に、よく
書いてあった。葵はいつもは平気なふりしてるけど、陰で一人で泣いちゃう子だ
って」
「……お姉ちゃん」
「お姉ちゃんて呼んでくれて、嬉しいな。だけど、本当にお姉ちゃんらしくなる
まで、あと少し待ってて。今の私じゃあ、許してもらえる自信ないから……」
「そんなぁ、わたしの方が悪かったんだよぉ」
「ううん。正直言って、私はずっと逃げてた。あなたの姉であることを放棄して
きたのよ。恨まれてもしょうがないと思ってる」
「恨んでなんかないよぉ。わたしずっとお姉ちゃんに謝りたかった。でもお姉ち
ゃんに会ったら、認めたくないことまで認めなくちゃならないようで怖かったか
ら。馬鹿だよね、別にお姉ちゃんに会わなくても、真実からなんて逃げられない
のに」
「偉そうに言う資格はないけれど……逃げたくなることは、誰にだってあるわ。
ましてや、葵はあの時まだ幼かったんだから、気にしちゃだめ」
「ねぇ、お姉ちゃん。一つだけ確認させて」
「え、何なに?」
 気の急いたような、それでも優しい声で姉は答える。
「お父さんとお母さんはもういないんだよね。……ううん、だいたいはわかって
るつもり。だけど、お姉ちゃんの口から聞きたいの」
 葵のその問い、姉は一瞬沈黙をおくが、ふたたび柔らかな表情となる。
「そう。7年前の火事で父さんも母さんも、逝ってしまったの。今は、私と葵と
柚花の三人だけ」
 葵はその場にうずくまり肩を震わせる。
「馬鹿だよね。……わたしね……ずっとその事を聞くのが怖かったの。それで幼
いわたしは思ったんだ。知らなければ、そんな事実はなかったことになるんだっ
て。……バカだよ、わたし。ほんとバカみたい」
 葵の頭を包み込むように温かい感触が伝わってくる。
「もう我慢しなくていいよ。泣いても、隠れなくていいから」
 優しく包み込む姉の腕の中で、葵は両親の死を認めたことによる7年分の涙を
流
した。

 
 長女の香苗との再会の事を夏江に話すと、やはり意図的に葵には黙っていたら
しい。それはやはり彼女自身の精神的なものを心配してのことだった。
 ただ、予想外の再会(姉の香苗にとっては図書室へ通うこと自体、覚悟の上だ
ったらしいが)ではあったものの、葵はわりと落ち着いていた。7年の歳月が葵
を成長させたこともあるが、やはり夏江や周りの友達の影響が大きいのか、彼女
の傷口は徐々に癒されていった。
 そして、これを機に姉とは週に一度は電話や外で会うなど、姉妹の絆を改めて
深めていったのである。
 姉の香苗の話で、三女の柚花の事も聞く。彼女もどうやら葵と同じ街に住んで
いるらしい。ただ、今は混み入った状況にあるため、しばらくは直接会う事はで
きないそうだ。葵が柚花と別れたのは、彼女がまだ1才の時である。成長しても
う8才にはなったであろう。
 元気に暮らしているだろうか? 葵は時々妹の事を思い巡らしていた。


 11月に入り、涼しさを通り越して寒さが目立つようになる頃、世間ではクリ
スマスの準備が始まり出す。赤と緑と白が織りなす幻想的なデザインに葵はどこ
となく惹かれるものを感じていた。
 その日、風呂に入りに行こうとした葵に、寮母の桜木節子が声をかける。
「御陵さん、電話だよ。ロビーでとったから」
「はい、今いきます」
 そう返事をして、洗面用具を持ったままバタバタ駆けようとして「廊下は走っ
ちゃダメよ」と桜木に注意される。
 ほとんどの寮に入っている子は、親から携帯電話を与えられているのだが、葵
は夏江に遠慮してそういう類のものは好きじゃないと言い切っていた。が、そう
我慢してみたものの、みんなのを見ていると欲しくなるし、やっぱりこういう時
、いちいち電話のある場所へと行かなければならないのが不便でもあると彼女は
感じていた。
 ロビーにつくと、葵は洗面用具をテーブルの上に置き、その脇にあるピンクの
電話の受話器を取る。
「もしもし」
『あ、葵』
「お姉ちゃん」
 電話の相手は姉の香苗であった。二学期に入ってすぐに7年ぶりの再会を果た
してからは、週に一度のペースでかけてきてくれる。
『葵、突然なんだけどクリスマスの日って暇?』
「ほんと突然だよぉ。で、なになに?」」
『うん。4丁目に教会あるの知ってる?』
「うーん、話には聞いたことあるけど、実際には行ったことないから。それで?」
『そこの神父さんに、ミサに誘われているの。よかったら三人で来ないかって。
葵、そういうの好きじゃない?』
「ミサ? うわぁ、なんかロマンチックぅ」
『どう? 行かない?』
「行く! 行くよ」
『そう、よかった。じゃあ、楽しみにしているわね。詳しいことは後でまた連絡
するから』
「でも……久しぶりだね。三人揃ってのクリスマスなんて」
『そうだね。柚花が1才の誕生日を一緒に祝ったのが最後だっけ』
「そういえば柚香は元気? クリスマスまでは本当に会うのは無理そうなの?」
『うん。向こうの家庭もいろいろあるみたいでね……いえ、会えないことはない
んだけど、あまり無理は言えないのよ、立場的にね』
「そこらへん複雑な事情があるんだね」
『クリスマスにはちゃんと会えるから安心して』
「うん。楽しみにしてるよ。わたしもお姉さんだって自覚持たないとね」
『ふふふ。私もだけどね』
「それじゃ、また連絡して」
『うん。スケジュール、なるべく早めにはっきりさせるから。それじゃ葵』
「うん。じゃあ」
 葵の心は幸せで満たされた。姉妹が3人揃う。たった3人だけのかけがえのな
い家族と出会える喜びは、どんなことにも勝るものであった。





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 続き #26 CROSS TALK【改訂版】(10/13)  らいと・ひる
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