#23/598 ●長編 *** コメント #22 ***
★タイトル (NKG ) 01/12/11 23:33 (169)
CROSS TALK【改訂版】(7/13) らいと・ひる
★内容
部活動の詳しい説明は、柳沼が教えてくれた。
部誌を発行していること、秋の文化祭には作品を発表すること、部費は1ヶ月
200円等々。
「今年、文芸部に入部した1年生は、葵ちゃんで4人目かな。ひとりは葵ちゃん
もよく知っている乗鞍さん。他は三枝さん、美沙緒ちゃん。この二人はあんまり
出てこないけど、根っからの小説書きみたい。家の方が集中できるからって、放
課後の部活動自体には出てこないの。ちなみに、三枝さんってのは自分から入部
してきた子で、美沙緒ちゃんは例によって西原のスカウト」
「そうなんですか。あ、美沙緒ちゃんとは、1、2回会ったかもしれないけど、
三枝さんは、見たことないですね」
「ま、あの子は部誌に毎月連載するつもりでいるみたいだから、締め切り前の2
5日までには1回は顔出すと思うよ。その時に挨拶すればいいよ」
「柳沼先輩は部誌には書いてないんですか?」
「わたしはほとんど編集係みたいなもんで、みんなの集めてレイアウトしてるだ
け。書くよりそっちの方が楽しいからね」
「へぇー、今度わたしも手伝わせてください。なんだか楽しそう」
「素人が作っているだけに締め切りもいい加減だし、読者も何人いるのやらって
感じだけど。ま、人手は多いに越したことないからね。うん。いいよ」
「ありがとうございます」
「ところで、美凪ちゃんから、家庭の事情聞いた?」
「あ、はい。だいたいは」
「そういうわけだから、あそこの家庭はちょっと複雑なわけ。葵ちゃんは美凪ち
ゃんとも仲良くなって、部で西原ともよく話しているから、その二人が仲悪いの
……正確には美凪ちゃんが一方的に嫌っているだけなんだけどね。そんな二人を
見ているのはつらいと思うけど……でもね、これは西原と美凪ちゃんの問題なの。
私たちはただなりゆきを見守るしかないの。わかるよね」
「はい」
もどかしい気持ちの正体はそれだけじゃない。記憶とオーバーラップするもの。
認めたくないと言った美凪の気持ちがわかればわかるほど、葵の心の古傷は疼
いていく。
どうしてだろうと考えて、本能的に思考が停止させられた。
* *
それからは平和な日々が続いた。クラスでは美凪がだんだんとみんなになじみ
始め、葵ともよく話しようになり、部活の方は相変わらずの面々でのお茶会がな
んとも楽しく彼女の好奇心を刺激した。
そして、夏休みになり、葵は1週間ほどの予定で夏江の家に帰ることになった。
久しぶりに帰った彼女の家はひどいものだった。
忙しい夏江に代わって葵が家事をしていたわけだから、彼女がいなくなった後、
どうなるかは多少予想はついていた。
しかし、ここまでひどいとは……、そう思いながら葵はため息をつく。
まあ、せっかく帰ってきたんだし夏休みは長いのだからと、気持ちを切り替え
る。
「よーし! 帰ってきたからには元通りにしてみせる」
葵は寝ぼけてぽかんとしていた夏江に向かってそう宣言する。
「夏江さん、自炊してる?」
「わたしが料理できたと思う?」
夏江はニヤリと笑う。
「掃除は週に何回してるの?」
「見ての通りよ」
両手を手のひらを上に向け、夏江はいかにもお手上げというかっこうをする。
「洗濯は?」
「それはばっちりよ。こないだ乾燥機能のついた洗濯機を買ったばかりだから」
彼女はテーブルの上にあった煙草をとりライターで火をつけようとする。
「アイロンがけは?」
「え?」
ふいにぽろりとその煙草が落ちた。
「……」
ふぅっと葵は深いため息をつく。
「わかりました。それでは掃除を始めさせていただきます」
葵は少し大げさにお辞儀をすると、掃除機を持って夏江の部屋へと突入する。
とりあえず床に散らばっている雑誌類から片づけようと、古い雑誌と最近の雑
誌に分けながらまとめていく。
相変わらずの散らかしっぷりだが、もしかしたら昔より酷くなっているのかも
しれない。葵が夏江の家に居候する前は、床に散らばっている雑誌の数も一桁台
だったし、机の上だって書類の山で溢れかえってはいなかった。
でも、それだけ仕事が忙しくなったのかなと、葵は考える。
ふと手を止めて考えてた時、目線に妙に整理された一角を見つける。本の大き
さもばらばらに詰め込まれている本棚の一カ所が妙にきれいなのだ。何かファイ
ルのようなものがあり、背表紙の台紙には西暦の年号であろう日付と『か』とい
う文字が書かれていた。年号は一番古いもので『1994年1月』となっている。
最新のものは、『2000年7月』と今月のものだった。
本当にそこだけ別のもののように綺麗に整理されている。
なんだろうと思わず手を伸ばす。
「葵」
ふいに夏江の声がする。
「なに?」
葵は手を伸ばすのをやめて振り返る。
「今夜焼き肉食べに行こっか。あんたカルビ好きでしょ。近くに安くておいしい
ところができたのよ」
「いいの?」
葵はにこりと笑う。
ファイルのことはそれ以降、彼女は気にしなくなった。もともとそれほど好奇
心を抱いたわけでもないし、なにより夏江のプライベートな部分なのだろうと遠
慮したこともあったのかもしれない。
結局、叔母のあまりにも乱れた食生活とごみの山と化した部屋が心配になり、
一週間の予定を変更して8月31日まで居座ることになった。懐かしの我が家の
居心地があまりにも良かったこともあるのだろう。
* *
夏休みが終わり、新学期が始まる。葵は教室で久々にクラスメイトと再会した。
「サトちゃん、おはよ」
「おお! 葵っち久しぶりやん。休みの間に寮に電話したんやけどな、なんやず
っと里帰りしとったそうやないか」
「ちょっと予定外というか予想外の事態になってしまったから」
葵は苦笑する。
「帰りの飛行機でも欠航したのかいな」
「いやぁ、そういうわけじゃ……」
久々の恵美香との会話に、葵のテンションも高くなる。
「おはよー葵ちゃん、久しぶりだね」
「あ、おはよ」
サトちゃん以外にもクラスメイトの芹沢さんやら河合さん等、葵と親しい生徒
とも挨拶を交わし、感動の再会にふざけて抱き合ったりしながら始業式が始まる
までの時間を過ごす。
やや遅れて美凪が教室に顔を見せた。
「あ、おはよ。美凪ちゃん」
「おはよ、葵」
美凪は微かな笑みを浮かべて挨拶を返す。入学当時からは考えられないような
彼女の表情に、葵は安心する。
長い休みの間にまた元に戻るのではないかという心配も彼女はしていたのだ。
始業式が終わって、葵は部活へと顔を出そうとして途中の階段で柳沼に出会う。
「あ、葵ちゃん、おひさ」
「柳沼先輩。どうも、お久しぶりです」
「ずっと旅行かなんか行ってたの?」
「いえ、里帰りしてただけですよ。そういえば、今日は部活ないんですか?」
彼女は、帰り支度をして視聴覚室とは逆の下駄箱の方向へと歩いている。
「あれ? 連絡回ってなかった? あ、そうか、葵ちゃんいなかったんだもんね」
「今日はお休みですか?」
「うん。休みっていうか、今日は視聴覚室が使えないんだ。先生たちの研修会み
たいなもんがあるらしい」
「じゃあ、みんなは」
「今日は個人活動の日ね。もともと、文芸は一人でやるもんでしょ。わいわい集
まってる方が不自然なのかもね」
「でも、私あの雰囲気好きですよ」
「まあ、みんな嫌いじゃないからあのお茶会<ティーパーティ>は続いてるんだ
と思うよ。実際、一人でもくもくと何かを創っているより効率はいい場合もある
から。それより、葵ちゃんもしかして部活行くつもりだった?」
「はい。あ、それじゃわたしも帰らないと……教室に鞄置いたままだし」
「じゃあね。葵ちゃん」
「さよなら、先輩」
柳沼とはその場で別れて、葵は来た道を再び戻り教室の扉を開く。ほとんどの
生徒は帰っていて、室内には一人の生徒がぽつりと残っていた。
窓の外を眺めるその後ろ姿は、美凪であった。
「あれ? 美凪ちゃん。まだ帰ってなかったの」
「ああ、葵か」
「一緒に帰ろっか」
「一緒? ああ、帰りね。私、まだ残ってたいんだけどな」
ぽつりと教室に残る美凪の姿は寂しそうでもあった。それなのになぜだろう、
と葵は思う。
「どうして?」
「私さ、あんまり家に帰りたくないんだよ」
「帰りたくないの?」
帰りたくないという言葉は、なんとなく予想はついていた。それでも葵は確か
めたかったのだ。
「葵には話したでしょ。あの家は私の家じゃないから。だから、帰っても落ち着
かない」
葵にはその気持ちは少しだけ理解できた。葵が寮に入ったのも、夏江に対する
気遣いだ。あそこは自分の家ではないということを彼女は理解していたからだ。
それでも、少しだけ美凪と違うこともあった。葵は、夏江の家がとても大好き
だったことだ。
「だったら、どっか行く? 今日私んトコ、部活はお休みみたいだから、付き合
えるけど」
それが葵ができる友達としての最低限のことだった。
「いいよ。無理につき合わなくても」
「無理ってわけじゃないんだけどね。じゃあ、暇だからどっか遊びにいかないっ
てのはダメ?」
別に付き合うのは苦痛じゃない。葵が美凪ともっと仲良くなりたいのは事実で
あり、願いでもあった。
「……うーん。ま、いいか。私も暇だしね」