AWC 「家族になりたい2」 ( 2/10) ■ 榊 ■


        
#2536/5495 長編
★タイトル (HHF     )  94/ 3/22  14:52  ( 50)
「家族になりたい2」 ( 2/10)  ■ 榊 ■
★内容

「水香、さみしくない?」
 終わりを告げた店内で、弥生は出ていく娘にたずねた。二人で並んで皿を洗うの
も、もうすぐ終わる。そして、妹の果菜や華歩がそれをつぐことになっていた。
「少し。でも、妹達が産まれてから、『オレが先に出ていかなくちゃな』って思っ
てたから」
「別に無理をする必要はないのよ」
「無理はしてないよ」
 水香は、えへへ、と笑う。
「お父さんに、お金のことで気を使うこともないのよ」
「お金、使ってあげた方が喜ぶのも知ってる。でも、早く自立したいんだ」
「親離れしている娘、子離れできない親。何もそんなところまで私に似なくても」
 ため息をつきながら、弥生は拭きおわった食器を片づけていく。
「やっぱり、お母さんもそうだったんだ」
「私の場合は、さっさと結婚しちゃったけどね」
「そっか。オレはあてがないな」
 水香は自分のことを「オレ」という。きつい感じの顔立ちと、行動の男っぽさか
ら、それはあまり不自然さを与えない。それでも、水香は十分に美人にはいる容姿
をしていた。
 着飾って、化粧でもすれば相当はえるだろうに、水香は一切そういったことに興
味を示さなかった。
 弥生は皿を拭く娘の顔をじっと見つめ、頬をむにゅっとつかんだ。
「私に似て美人なんだから、その気になれば早いわよ。きっと」
「その気になんないよ。まるで男みたいだもん」
「そう言ってられるのは、いまのうちよ」
「そうかな」
「そうよ」
 弥生は、ふふっ、と笑った。何かも知っているような弥生の顔を見て、水香は少
し考え込んだ。
 自分の知らない自分に、変わることなんてできるのだろうか。
 水香には不思議だった。
 片付けが終わると、水香は屋上に出た。
 今日はうっすらと雲のただよう空だが、星は明るくまたたいていた。
 コンクリートの床をたんっと踏み、両手をうーんっと伸ばす。小さな体をいっぱ
いに広げ、大きく息を吸い込み、そして吐き出す。
「今日も一日、ご苦労さま」
 自分自身に呟く水香。
 床にとんっと腰をおろし、星を見つめる。
「星と話ができると、もっと面白んいだけどなぁ」
 それでも毎日こうして、しばらくぼぉっと水香は星を眺める。今日あったことを
ゆっくりと思い出し、星に「有り難う」と呟いてからようやく、階下に降りてお風
呂に飛び込み、床に滑り込む。
 新しい家ができてから、雨の日以外はずっと続けている。
 今までは、星が「頑張ったね」って言ってくれているような気がして、あたたか
い気持ちに包まれていたのに、最近は何となく寂しかった。
 家を出ても、星は変わらないのに、何となくもう二度と会えなくなるような寂寞
感がある。
 何故なんだろう。
 水香は、最近おおくなったため息をついて、さっさとお風呂にはいることにした。





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