AWC 「滅亡と復活の狭間」(3)  井上 仁


        
#2527/5495 長編
★タイトル (VHM     )  94/ 3/13   3:10  (172)
「滅亡と復活の狭間」(3)  井上 仁
★内容

            「滅亡と復活の狭間」(3)

                井上 仁


         「終末は、彼らとの距離を縮めていく。」


  ただいま
  あっ おとうさんおかえり
  おじゃましてます おじさん
  ただいま みぃ ああ らすとかゆっくりしていきなさい

  あたし おおきくなったららすとのおよめさんになる
  え でも
  きめたんだもん いいでしょ ね
  う ん
  だめだ
  きゃっ どうしたのおとうさんそんなおおきなこえで
  い いや すまん なんでもない


  もうもたないそうだ
  そうか でもしかしまあいままでよくもった
  そうだな しかしそうなるとあだむはやはり
  あだむだと ばかをいうな いう゛がひつようとでもいうのか
  おい なにもおれはそんなことを
  どうした
  ら らすと おきていたのか はやくねろ

  きこえなかったか はやくねろ


  あれはどういういみだ?とうさん

     とうさん
               とうさ……         ……と
          ……すと                    とう……
 らすと

「ラスト、ラスト!」
「う……」
 瞼を、ゆっくりと開きます。
 どうやら朝のようです。太陽はまだ全身を見せて間もなく、透明な光で空気を照ら
しています。ラストが倒れていたのは海岸です。
 やっと、意識がはっきりしてきました。目に映る物が、意識と結び付けられます。
「ミィ……」
 心配そうなミィの顔が間近にありました。
「無事か……?どこも痛くないか?」
 ミィは半分怒って、半分笑って、
「もう、あたしより遅く気がついたくせに、なにを……ありがと。あたしは大丈夫。
ねえ、この島でいいのかな?」
 意識は完全に回復したようです。起きあがってみました。ふらつかずに、起きられ
ました。
「たぶんな。お前が寝てる間に、この島を見つけて、かなり近づいたんだけど、不思
議な光が海から吹き上がって、船が壊れちまって、それで、海に落ちたんだから……
その島なのは、間違いない。聖なる鳥がいるかどうかは分からないけど、な」
 聞いていたミィが、また少し、心配顔になりました。
「ねえ……ラストこそ、大丈夫なの?なんだか、元気がないよ……」
「え?そう……かな」
 そう言われてみると、なんだか心の底にうっすらとけだるさのようなものがわだか
まっているような気がします。あの夢のせいだろうか。ラストは考えました。嫌な夢
だった。親父も、ミィの親父さんも、本気で怒ったのを見たのはあれっきりだったか
らな……
「そうよ。嫌な夢でも見た?」
 言い当てられて、一瞬はっとするラスト。
「ああ、まあ、な」
「ふうん、どんな夢だったの?」
「どんなって……」
 答えてやるべきでしょうか。答えないほうがいいと、ラストは思いました。彼女も、
あのことは覚えていて、思い出させるのはかわいそうです。
「……いや、内容は思い出せなくなっちまった」
「嘘」
 真面目な顔で否定してから、くすっとミィは笑います。
「ほんとに、ラストは昔っから嘘と泳ぎは下手なんだから……言いたくないんでしょ。
いいよ、言わなくても。だから、そのかわり元気になってよ。ね?」
 見すかされた上に、秘密兵器まで使われては、ラストはただうなずくしかありませ
ん。
「わかった。……じゃ、とりあえずあの森から探してみるか。行くぞ!」
「はいっ!」
 いい顔になったミィと一緒に、ラストは島の中心に向かいます。

 ミィにその疑問が浮かんできたのは、朝日の光が半分ぐらい遮断されるような、深
めの森を5分程歩いたときでした。
「ねぇ……ラスト……」
「なんだ?」前を歩くラストが答えます。
「あの……舟、どうなったの?」
「舟?……あ」
「どうしたの?」
「壊れた」

 …………ささささ。りすが一匹、二人の進む方へ駆けて行きます。

「えええーっ!」
 ラストの手をつかんで左右にぶんぶん振りながら、叫ぶようにミィが言います。
「どうするのよ?どうやって帰るのよ?舟がなきゃ帰れないじゃない!何でそういう
大事なこと、今まで黙ってたのよ!?」
「そんなこといったってな!お前に言ったら、舟を出してくれるのか?言ってもしょ
うがないから、黙ってたんだ!」
「実は気づいてなかったんでしょ!」
「う」
 ふふーんといった感じで、ミィは続けます。
「ほら、やっぱりそうなんだ。どうしていっつも、そう一つのことしか考えられない
のよ?」
「じゃあおまえは舟のことを考えて、替わりの舟でも探して、帰ればいいだろ!俺は
帰らないからな!」
「……わかったわよ。帰る!じゃあね!」
 亜麻色のショートヘアをぶわっと揺らして、大股で引き返して行ってしまいました。

 ラストの視界の隅で野鼠が5、6匹、森の奥に駆けて行きます。かさかさ。

「……くそ、勝手な奴」
 仕方がなく、ラストが一人で探検を再開しはじめたときでした。

 ごご……

 地面が、揺れだしました。地震です。だんだん大きくなってきます!
「なん「「「」
「きゃっ、きゃあぁぁっ!」
 今喧嘩別れしたばかりのミィが、必死に駆けてきます。
「ど、どうした……あ?」
 彼女の後ろの地面が、どんどん水浸しになってきています。あたかも、彼女を追い
かけているようです。そこではじめて、ラストはこの地震の違和感に気がつきました。
これは、ただ揺れているのではなくて「「「
 沈んでいる!
 判断は一瞬でした。ラストもミィに駆け寄り、両手で彼女を抱き抱えます。そうし
て、くるりと反転すると、森の中心へ向かって全速力で走り出しました。
「ラスト、らすとぉ」
「話はあと!」
 揺れが激しくて、その上女の子を抱きかかえているものですから、うまく走ること
ができません。振り返ると、遠くの木々は1mほども水の中に沈んでしまっています。
足元にも、水がどんどんどんどん、迫ります。
「わっ、わっ、わーっ!!」
 森を駆ける、駆ける、駆ける!
 「「「唐突に、森がぷつっと途切れました。小さな広場のような所へ出ました。周
りを見ると、どうやらここが島の中心で……水がまわり全部から攻め込んで来ます!
「ええいっ!もう!」
 門がありました。
 門だけ。
 巨大な、ラスト達がみたこともないような巨大な門が、どん、と立っていました。
不思議なことに、その門から向こう側が見えません。真っ暗で、何があるかさえも分
かりません。
 否応なしに、二人はその異様な門の中へ駆け入りま「「「した、が?
「あっ!あああぁぁ……」
「きゃああぁぁぁ……」
 その門の中に、地面がないとまでは、さすがに気がつきませんでした。


「う……」
 どれくらい経ったのでしょうか。先に目が覚めたのはラストでした。周りを見回し
ます。
 殺風景なその部屋は広く、床も壁も何もかも、薄い灰色をしています。冷たくて、
とても固いです。
 その部屋の中心にはなんだかオレンジ色に光る柱のようなものが床から天井へ突き
抜けていて、その中に人影が見えます。そして、そして「「「
「と、鳥だ!ミィ、ミィ、起きろ!」
 傍らで眠っているミィを肩を揺らして起こしにかかります。
 果たして、それは聖なる鳥でした。金の羽をたたんで、じっとこちらをうかがって
います。鳥だから当然かも知れませんが、無表情に。
「ん、んー……やぁだ、まだ、ねむ……ぃ」
「あたっ」
 ねぼけているミィに顎を叩かれてしまいます。そのまま今度は、ラストの膝を枕に
して眠りだします。
「こっ、こら……緊張感のないやつだな……」
 どうしていいかわからずに、とりあえず光の柱をもうすこしよく観察してみること
にしました。人影が見えますが、誰なのでしょうか……?
「あっ、あーっ!ミィ、起きろ、バロックおじさんだ!溶けてる!!」


                 つづく。





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