#2524/5495 長編
★タイトル (RAD ) 94/ 3/10 0:24 ( 33)
「SPAER」(9) 悠歩
★内容
そんなある日。
ほとんど訓練さえされなくなっていたヴィーナスが、激しく鳩舎の中で暴れ出した。
「お前も、茉莉華ちゃんの事を考えていたんだな」
鳩舎を見に来た司は、茉莉華との全ての事のきっかけがこま鳩によるものだった事
を思い出した。
「久しぶりに、空を飛びたいんだろう?」
司は何週間ぶりかに、ヴィーナスの訓練に出かけることにした。
ヴィーナスを飛ばす場所は、初めて茉莉華と出会った日に、やはりヴィーナスを飛
ばした場所。
久しぶりに空に放たれたヴィーナスは、司の頭上を旋回し、己の向かうべき場所と
飛んでいった。
その帰り道、茉莉華の家の前を通ってみたが、そこは完全に無人となっていた。
あの電柱の針金も、いつの間にか取り外され、どこかのスーパーの捨て看板と変え
られている。
ヴィーナスは司の元には帰って来なかった。
その日、鳩が飛ぶはずもない夜中まで待って見ても、ヴィーナスは鳩舎に戻っては
来ない。
翌日も、その次の日も。
「ずるいなあ………。自分だけ茉莉華ちゃんのところへ、飛んで行って」
ヴィーナスが帰ってこない事を悲しく思う反面、きっと茉莉華もこれで寂しい思い
をしなくなったのでは無いかと感じ、少し気が楽になった。
「きっと、茉莉華ちゃんはもっと生きていたかった筈だ。でも生きる事が出来なかっ
た………だけど、ぼくはそれが出来るんだ」
明日からはちゃんと学校に行こう。
それから小遣いを貯めて、もう一度鳩を飼いたいと思った。
今度飼うときは、ちゃんと訓練をしてレースに出場させようと。
【終わり】