#2473/5495 長編
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マヨイとサダカ 第3章 うちだ
★内容
「サダカ」
マヨイが僕を呼ぶ声。頭痛を切り裂いて、僕の耳の中へ。
・・
僕が覚えている、電話番号や数字の一部を数箇所ランダムに並び替えたもの。
46309054551766434185115304160461575
45888410109151652303600335172830557
618523280462852940814629175102以下省略。
誰も僕の記憶の正しさを証明出来ない。
誰も僕の記憶の間違いを指摘出来ない。
すべてを覚えているということは、僕の中でしか意味を成さない。
・・
よかった。一緒に20歳になれるね、サダカ。
私は大学に通うようになった。世界はどんどん広くなっていくよ。
いろんな人と知り合っていろんな知識をつけていく。
そしていろんなことを忘れていく。
ねえ、私の忘れてしまったことって何なのかな。
サダカなら覚えてるよね、きっと。
・・
マヨイの柔らかな声が耳から入る瞬間
暖かな手の平が僕を気遣って額にあたる瞬間
僕はしあわせになる。ぜんぶ全部、覚えておくよ。
・・
さっき、夢をみてた。
夢?どんな?
右半分がお父さんの顔で左半分がお母さんの顔をした神様が出てきて
僕とマヨイに言うんだ。
大人になるふたりにプレゼントをあげよう。今まで暮らしてきた人のつくった
世界ではなく、新しい画用紙みたいに真っ白な世界をふたりにあげる。そこに
はどんな絵を画いてもどんな色をつけても何を置いてもいい。
だけど一度画いたら、一度置いたら取り消しはきかないよ。慎重にね。
うん、それで?
僕とマヨイは別々に世界を描き始めたんだ。
どんなの画いた?
そこで目が覚めた。
・・
首をかしげて僕を見るマヨイ。
優しい目をして息をつくマヨイ。
溶けない雪のようにふわふわと舞う記憶。
すべてが今さっき起こったことみたいに、思い出せる。
・・
望んだものが画かれる、サダカのその世界に私はいるかな?
マヨイにはマヨイの世界があるんだよ。
また私たちは離れ離れなの?
そうさ。僕らはもともと同じおなかの中にいたけど、その時だって別に混じり
あった生き物じゃなかったんだから。いつだって別々さ。
て別々だから、そばに居られるんだよ。記憶するのは苦痛でも創
造することは出来るよね。目を綴じてみてよ。今まで見たものの中から見たい
ものだけを見ることだって出来るよ。ずっと一緒にいようよ、サダカ。
・・
頭痛が続いている。僕には何も考えられない。
ただ覚えている、すべてを、思い出せる、すべてを
すべてが今さっき起こったことみたいに、思い出せる。
あの日バイトをしているはずのマヨイは
僕の知らないところで僕の知らない男の車で
僕の知らないうちに事故の巻き添えで死んだ。
そして僕は彼女の無残な死体を見た。
手が届きそうなマヨイも今ここにいるわけじゃない。
記憶と創造は違う。僕はマヨイを造れない。
溶けない雪のように積もり積もって僕を潰す記憶。
マヨイは死んだ。
「サダカ」
マヨイが僕を呼ぶ声。頭痛が続いている。
僕はなに1つ忘れることさえ出来ないんだ。