AWC マヨイとサダカ 第1章     うちだ


        
#2471/5495 長編
★タイトル (TEM     )  94/ 1/24  13:18  ( 93)
マヨイとサダカ 第1章     うちだ
★内容

玄関で対面したサダカは開襟の白いシャツに黒のズボン姿。
まるで制服着てるみたいじゃない?でもよく似合ってるよ。
ところで私のほうだって同じく開襟の白いシャツに
濃紺のフレアースカートでこれまた制服じみた格好だったりして。
「なんだか示し合わせたみたいね」とお父さんとお母さんが笑った。

                                 ・・

サダカはとても頭がいい。あんまり頭が良いものだから
生まれてからずっと長い間、病院で頭の中身を調べられていたんだって。
だから私も会うのは久しぶり。
私たちは十五になって初めて出会った、みたいなもの。

                                 ・・

お茶の間のご挨拶には世間体てもんがあるわけよ、やっぱり。お母さんとお父
さんに連れられて病院から初めてやって来たのはサダカくんというの。
「マヨイは覚えてないかもしれないけど」
とお母さんが言い
「おまえと一緒に生まれた弟なんだよ。仲良くなさい」
とお父さんが言うから
「始めまして。どうぞよろしく」
と言ったのであって
他人行儀するつもりなんてこれっぽっちも。サダカは私の特別だから、私の部
屋にはすぐに入れてあげるの。さあ、どうぞどうぞ。

                                 ・・

私の初めて見たサダカは背の高いお父さんとお母さんの間にはさまれて、ひょ
ろりと立っていた。そうそう私、自分の目ってけっこう気に入ってるんだけど、
サダカの目、私を見据えた二重の瞳は鏡の中の私のものと同じ。ああ本当に血
はつながっているんだよね。示し合わせたみたいなことさ。

でも初めて見たっていうのはおかしいか。生まれるときは一緒だったし、もっ
と小さいころに病院で見かけたよ。看護婦さんが教えてくれた。
「ほら、あそこ。今センセイに囲まれて座っている、あの男の子があなたの双
子の弟さん」
そのときに見たサダカはまるで私と同じ姿格好だったと思うけどな、思い出せ
ない。
                                 ・・
サダカ、色が白いんだ。
ずっと病院にいたからね。

一卵性だったらコピーしたみたいにそっくりだったのに、二卵性だものね。う
ちに来たサダカは思ってたほど私に似てなかった。他人というほど似てなくな
いけど、まぁいとこですって言っても納得しちゃう程度の似方。染色体YXの
違い。たったそれだけ? 私が女だから? サダカが男だから?
でも似ているところも似てないところも素敵だな、なんとなく。
つまり私は一目見て、この弟のことがとても気に入ったんだ。

「僕、マヨイのこと覚えているよ」
「・・・ごめん。私、サダカのことあんまり覚えてないの」

サダカは私の顔を覗き込んだ。昔からそうやって過ごしてきたふたりみたいに。

「覚えてないのが普通なんだって」
私のすまない気持ち。それを察するようにサダカが言った。
「僕は何だって覚えてるんだ。」

                                 ・・

「生まれおちてから今日までに見たすべての出来事を、僕は覚えているんだ」・
・・サダカは
「生まれおちてから今日までに聞いたすべて」
・・・・・サダカは頭がいい。
「良いことも悪いことも」
・・・・・・・サダカは
「全部覚えてる」
・・・・・・・・・だからサダカは長生きはできない。お母さんが言っていた。
だからせめて病院でなく、家で過ごさせたいんだと。どうしてこんなことになっ
ちゃったのかな。どこでそんなに私と違ってしまったのだろうね。

                                 ・・

さあ、どうぞどうぞ と中へ入れてあげた。子供部屋は無礼講だよ。

                                 ・・

ねえサダカ、私たちの生まれた瞬間を覚えている?

うん。

なにか見た?

・・・ううん。血で目が開けられなかったんだ。

                                 ・・

私にそっくりのその瞳、柔らかな髪、それから似てない声、きれいな眉のかた
ち、目を綴じて笑うさま。何もかもを覚えているってどんな気持ちですか。
サダカ、私はあなたに恋しました。





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